第1章 夢の声2



「それより紫乃、さっき独り言言ってたでしょ。」


「え、言ってた?」


「無意識だったの?気になったのに。」



環は不思議そうな、探る様な顔をして、紫乃の珍しいヘーゼル色の目を眼鏡の奥からじっと見つめてくる。

純粋な疑問を抱いた目に、嘘をついた事を少しばかり後悔した。



先程の独り言は無意識では無かったのだが、つい惚けてしまったのでこのまま話を通そうと思った。



「うん…覚えてないなあ。環、さっき昼食の途中だったけど何か食べたの?」



「ん?プリント貰いに行ってる時にサンドイッチ食べたよ。」



上手く話をすり替えて安堵する。



夢の話をしたら、きっと環は凄く興味を持つのだろうと思ったが、

休み時間も残り少ないため、この話はまた今度にしようと紫乃は小さく息を吐いた。



「そろそろ五限目始まっちゃうね。ちょっとだけ復習しようかな。」


「そうね、私もそうする。」


「じゃあ後でね、紫乃と相合傘楽しみだなあ。」


「何を言ってるの。」



いつもの砕けた冗談に紫乃が呆れたように笑うと環は満面の笑みで小さく手を振り


紫乃の席から少し遠い後方にある自分の席へ向かって行った。




五限目まであと五分となったところ、

紫乃は教科書を手に取ったが相変わらず夢の記憶が蘇り、復習の邪魔をした。



いっそ今すぐテストが始まらないかなと思いながら教科書から目を外す。



ふと窓の外を見やると、先程よりざあざあと雨が激しく降り注いでいた。



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