童話の国の大樹の下で

子どもの頃に読んだ 絵本の中の森

深い深い森 誰の邪魔も入らない静かな森


風が吹けば木々はざわめき

小鳥たちが高い音でリズミカルに囀る


丸太の上では 並んだリスたちがクルミを割って食べ

序列も打算もなく仲間と共有している


何か困ったことがあればフクロウが知恵を出し

威嚇も暴力もなく問題は解決される


オオカミの研ぎ澄まされた牙は殺しには使われない

キツネの巧妙な話術は誰も騙さない

ウサギは誰かを誘惑して操ることはない


しかしそれぞれに生かす場所が確かにある、そんな森

高貴な調和が、幾世紀にも渡る試行錯誤の末に実現されている




神も彼らを祝福し

青空の太陽は燦々と輝き

大地に果実が豊かに実る


優しき樹木たちは爆発的な生命力を色とりどりに現し

その合間をひんやりとした小川のせせらぎが清らかに



ここではみんな裸で暮らしていける

生まれ持ったものがあればそれでいい


生は瞬間ごとの喜びで

紛れのない躍動だった


個に執着する必要もない

大いなる循環の中で永劫に生き続ける


ここでは意味も価値も必要ない

ただしなやかな体躯の動きと熱だけがある……




やがて鎮魂祭の夜が訪れた

土の上に並びたてられた犠牲の十字架

大地に流された血は鮮やかな花を咲かせていた


高貴な調和が実現されるためには歴史と革命が必要だったのだ


森の住人たちはそれぞれに亡国での死を悼んでいく

その瞳には何が映る? 涙は何を思って流される?




子どもの頃に読んだ 絵本の中の森

深い深い森 誰の邪魔も入らない静かな森


それは甘ったるい夢の世界

僕は現実から目を逸らしていた



最後の望みを聞いてくれ

はずれに大きな樹があるだろう……


その木に

ロープを

くくり付けて

僕は


首を吊りたいんだ

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