詩集:嵐の中でひっそりと息を引き取ったものたち

@zan-ku

雑踏、かき消された叫び

照り付ける日差しと、路上に転がった空き缶

一定のリズムを刻む信号機と、それに呼応してすれ違って行く人達


幾度と繰り返されている

何のことはないワンシーン


それを見過ごしてはならないと思った

ここにいないのは誰だ? 殺されているのは何だ?


声なき声 無音の声

悲痛な叫びはかき消されている



空白の新たな一日を、コピーアンドペーストで塗り重ねる

その行為に一抹の安心感を得る人達が、等間隔に街を闊歩していた


そして自分の筆を持つ人を見つけると、殺意に満ちた視線で取り囲む

もう21世紀なのに、魔女狩りか何かだろうか


そんなに自分に不満があるのか

そんなに同じでないことが不安なのか

自分の知らないことを無価値と断定しないと気が済まないのか


アンバランスな熱と氷のようだ

善人ぶった人々の言動と行動の非対称が


涙なんか浮かべて自分に酔ってる場合か




うだるような夏の夕方

時計の針の音が妙に気になる


「チッ、チッ、チッ、チッ……」


寛容さなんて放棄した

そうしないと殺されるのは自分だったから

生き残るためには




相変わらず、綺麗事の機関銃が威嚇射撃に使われている

たまに実弾が命中する事件も起きるが、善人たちは気にならないようだ


そこまでして、自分の方が上だという風に見せかけないと生きていけないのか


相手の弱点を突いたつもりで、本当に突かれたのは自分の弱点

支配しているつもりで、支配しようと支配されている


その場所で真に綺麗なものは死んでいた

悲しき心のホームレスは

奸計だけがシームレスに



学ばずに前しか見てない人は、

自分の背後に悪霊が取り憑いていることに死んでも気が付かないんだよ


それは本当にあなたの意図? それとも悪霊の意図?

それはいつ取り憑いた? どこで取り憑いた?



一番高そうな腕時計をした人は、世界地図を眺めて全てを把握したと言う

君は何もわかっていない、本には載ってない広い世界を見てこいと言う


はり付いたような押しつけがましい笑顔で

あるいは化けの皮が剥がれた後の歪んだ表情で


「君のためを思って言っている」



しかし世界には、時間と血液が流れている

色んな要素がダイナミックに絡み合っている


何度地球儀を回しても世界を周ったことにはならない

そこには乾いたインクしかない 匂いも温度もない

人の想いも熱も詰まってない


「僕らのやってきたことを何もわかっていない」




うだるような夏の夕方

時計の針の音が妙に気になる


「チッ、チッ、チッ、チッ……」


今日は何を成し遂げた?

この生はなんのためにある?

一体、どこに向かっている?




「何の希望もない。もう疲れ果てた」

若者は嘆き、また一人と首を吊っていく


「希望は十分にある。君がちゃんとしてこなかっただけ。わかってないだけ」

即座に、誰かが罵声を飛ばす



こういう人ほど希望の一片も示せないという事実

現実と乖離した絵空事は、もはや繰り返される自慰の妄想だね



口先だけの薄っぺらい言葉とは対照的に、

今この瞬間のあなたの行動が全てを物語っていた


希望とは捏造されて目の前にぶら下げられたニンジンであることを

希望とはパンドラの箱の底だけに存在するものであることを


何よりあなたが一番求めていて、

どんなに手を伸ばしてもすり抜けていったものであることを




うだるような夏の夕方

時計の針の音が妙に気になる


「チッ、チッ、チッ、チッ……」


なぜ、あんなことを……

あのとき、こうすればもっと……




怒りの日、荒っぽい男は言った。


「俺を侮辱した奴は許さないからな。全員殺しに行くからな」

「もうこれ以上、誰にも譲るつもりはない」

「拷問して、土下座させてやる」


それだけがもう唯一の



しかし、安っぽい盛り場の喧噪の中

そんな叫びもどこかに消えていった

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