第11話 満ちぬ想い
「……感謝はしてる。」
崇也はうちの命の恩人である。育ての親である。
あの崇也のことだ。捨てられている赤ん坊は、拾わなければならないと決めつけていたのかも知れない。
しかしガーデンの施設や医療機関に入れておけばいい。そこまですれば、誰が彼を非道だと言うだろう。
背負う必要のなかった責任と苦労に、うちが感謝しなくて誰がする。
自分の子ではないのに、誰に頼まれた訳でもないのに、ろくに眠らず2時間おきに湯を沸かしミルクを暖め、熱だ下痢だとあっては夜中にも医者に意見を求め、歳を重ねても増えない体重を気にかけては、不慣れな料理を研究し、テストで満点を取った日には一緒に喜び、悲しい日には強く抱き締め、悪い行いには決して手をあげず、うちが泣いて謝るまで叱る。これは誰にでもできることなのだろうか。
ここまでしておいて崇也は自分を父とは呼ばせなかった。親に捨てられたと悟った日には、お前にはちゃんと両親がいる、オーダーとして活躍すれば、迎えにくるはずだと、希望をくれた。
せっかくくれたものを、申し訳ないが、うちは見ず知らずの両親など求めていない。うちには崇也がいるのだから。これを言うと酷く怒られるので、もう秘めておくと決めた。
視界が歪む。
「でも、あいつ絶対受け取らないんだ。『当然のことにありがとうって言えるのは、お前の心が豊かな証拠だな』って。満足そうに言うんだ。」
何が当然のことだ。これだけ有難いことが他にあるか。
ぬくい水玉が頬を濡らした。
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