第10話 ヘイムダルは休憩中

 ちょうど夕飯時のフードコートは人がごった返す。足音、髪が揺れる音、衣擦れの音、食器や包装紙が摩れる音、談笑の声。他にも施設自体の空調や照明の音。

 様々な振動がわんわんとこだまして、賑わいを証明している。

 「みちるちゃん、平気? ごめんね、織部が金欠って言うから、ここになっちゃったんだけど。」

 短く切り揃えられた茶の髪と、大きな水色の瞳、紡がれた声まで不安げに揺れた。

 「すまん、今月使いすぎた!」

 ぱんっと手の平を合せた、鮮やかな赤毛の青年の声は張りがある。

 「織部はいっつもそうじゃん!」

 先ほどの揺らぎを感じさせない少女の鋭いツッコミは、青年の肩をゆすった。

 「今日は調子いいんだ、大丈夫。ありがとう、千夏。てか、勇の金欠は通常運転じゃん?」

 最近ようやくファストフードの味にも慣れてきた。これはこれで美味しいと感じれる。

 「なあ。最近さ、菊池先輩の訛り、ひどくなって来てるよな。」

 勇は3つ目のハンバーガーを頬張る。

 「あー、やっぱりそう思う? 確か北海道出身だったよね?」

 「何でうちにふるの。」

 千夏は不思議そうに首をかしげる。

 「だってバディでしょ?」

 そう。残念なことに、コールサイン霹靂こと菊池崇也はうちの養父でありバディである。

 「北海道支部ができる前に上京したらしいよ。はい、この話はおしまい。」

 「都会に染まらないってカッコいいよな。」

 勇は腕を組んで唸っている。憧れるポイントはそこなのか。

 「いや、あいつ自分が訛ってると思ってないよ。」

 うちは果汁100%ジュースを吸う。どうしてうちの舌は嫌な味ばかり引き立ててしまうんだろう。千夏だって同じもののはずなのに美味しそうに飲んでいる。

 「お茶目だよね、菊池さんって。」

 千夏はころころ笑う。

 「そうだね、うざい系お茶目だね。」

 千夏に倣い、うちも笑ってみた。すると勇も笑う。

 「反抗期かよ。目が全然笑ってないけど。」

 「みちるちゃんはまっさかりだねぇ。」

 二人はなぜかうれしそうだ。ここでさらに千夏が畳み掛けてくる。

 「でも好きなんでしょ? 菊池さんのこと。」

 千夏、急に真剣な顔しないで欲しい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る