第3話
結局、私は狐につままれたような気持ちのまま占い師の店をあとにした。
思わず上着の財布とカードとを確認してみる。が、その心配も杞憂に過ぎなかったようだ。
北野坂から加納町の交差点にさしかかったときに、ふと思い出す…
─── あいつに買って帰ってやるか… ───
妻はケーキに目がない。しかも、加納町のあの店のミルフィーユは大好物だった。妻に好物のケーキを買って帰ってやることによって、今日の夢のような体験から自分自身を現実に引き戻せるような気がして、私はあの店で妻の好物を買って帰ることにした。
「ただいま。」
「あっ、お帰りなさい。」
何の変哲もない帰宅の挨拶。でも、こんな些細なことでも今の二人には至福の時に感じられる。
「今日、ちょっと帰りに近くを通ったから買ってきたよ。」
そう云って私はケーキ屋の箱を妻に手渡した。
「わぁ!私、ちょうど食べたいなと思っていたところなんですよ♪」
ケーキの箱を受け取っては、まるで子供のように無邪気に喜んでみせる。
そして、次の瞬間、彼女は満面の笑みを浮かべてこう云ったのだった。
「あなた、そろそろお茶にいたしませんか?」
おわり
そろそろお茶にいたしませんか? 瑞光 琢磨 @takuma_zuikoh
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます