第2話
「レイチェル!!!」
「お目覚めですか?」
「わ、私は一体…」
気がつくと私は見知らぬ女の名を叫びながら号泣していた。おまけに全身にびっしょりと汗までかいて。
「今ご覧になっていた夢があなた様の前世の記憶なのです。」
水晶球の前で、黒いレースのヴェールを被った碧眼金髪の美少女が無表情につぶやいた。
どうやら私は、水晶球の放つ妖しい光とタロットカードの神秘的な絵柄のせいで眠りに落ちていたらしい。はたしてどれぐらい眠っていたのであろうか。5分ぐらいのほんのひとときのようにも、また、1時間以上眠っていたようにも感じられた。実際のところ、自分はどれほど眠っていたのか判断がつかなかった。
ごく平凡なサラリーマンの私は、勤めの帰りに北野坂を通りかかった際、ふと目新しい占い師の看板を見かけ、半分は興味本位、半分は引き寄せられるようにしてその店の扉を開いたのであった。
「私の前世?」
「そうです。今、私があなた様の
─── ちょっと待ってくれよ…私の前世?
戸惑う私を気にする様子もなく、少女はさらに言葉を続けた。
「
占い師の少女は、にわかには理解しかねる言葉で、何かしきりに私の前世について語っている。少女の言葉に少し眩暈を感じつつも、私は思いきって少女に切り出してみた。
「あの…私は妻との相性を占ってもらいたくて入ってきたんですが…」
そう。そもそも私は妻との相性を占ってもらいたくてこの店に入った。私と妻とは、ついこの間結婚したところだ。それも、出会ってから一月も経たない、芸能記事風にいえば電撃結婚だった。一目惚れとも違う何か惹かれるものを互いに感じての結婚だった。とはいえ、ほとんど勢いで結婚したようなもので、そのことに対する不安を感じていたせいか、ふと、妻との相性でも占ってもらおうかと考え、店の扉を開いたのだった。
「私の前世がイギリス貴族だと判った点には興味がありますが、肝心の妻との相性を占ってもらえないのでは見料をお支払いするわけには…」
確かに私の前世が何者であったかはおもしろい。先祖代々百姓で、今ではごく平凡なサラリーマンである私の前世がイギリス貴族であったなど、ちょっとした話の種になりそうだ。その話が多少眉唾ものであったとしても。だが、私は妻との相性を占ってもらいたくてやって来たのだ。それを見てもらわないことには話にならない。見料を払わないといえばちゃんと見てくれるものと思い、私はそういってみた。
「それは結構です。」
眉一つ動かさずに占い師の少女は静かにそう言いきった。
「へぇ!?」
少女の意外な言葉に、我ながら間抜けな声をあげてしまった。
「一体どういう理由です?」
私は即座に聞き返す。
「今日は大変いい経験をさせていただきました。このように珍しいケースは私も初めてです。この経験は以後、私にとって貴重な糧となるものと思われますので見料はいただきません。」
「え?! これのどこがいい経験なんですか…仲を引き裂かれた主人とメイドとの悲恋の話がそんなにいいものなのですか?!」
本来、見料を支払わなくていいというのであるから結構な話ではある。しかし、私の前世であるとする夢に感情移入しすぎたせいか、この話を”いい経験”と表現した少女に怒りに似た感情さえ抱いていた。
だが、少女は私の感情など一向に気にするそぶりもなく、また意味のよく分からないセリフを口にした。
「さきほど申し上げたはずです。
それまで無表情で淡々と喋っていた少女がそう云ったあと、一瞬だけ微笑んでみせた。その笑顔は
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