第11話



「最悪だ……なんで俺がこんな目に合わなやいけねぇんだよ……」


車乗った瞬間、カケルは速攻で愚痴を吐いた。


「まあ、これもあの大量の依頼金のためだと思えば……」


「それにしたってあれは俺の尊厳を著しく傷つける行為だぞ!アシェル、お前が今どんなことをやらかしたのかわかってんだろうな!?」


「まあまあ、落ち着けって、おかげでいろいろと情報が得られたじゃないか。」


「情報?あいつなんか言ってたか?」


「……呆れた。お前はそんなに人の話を聞かねえ奴だったっけ?」


「うるせえ!あんな屈辱的な行為受けたらそのあとの話なんか何にも聞こえねえのが普通だろ!」


「あー悪かった悪かった。もう一回説明してやるからちゃんと聞いてくれって。」


そう言ってアシェルはカケルにリヴェンから得た情報を説明した。


それはリヴェンに黒崎裕子の護衛を頼むときのことであった。


「しっかし、こんないい子がなんであんな薄汚い大人たちに追い掛け回されなきゃいけないんだかねぇ~可哀想だわ~もしかして巷で話題になってる『青年革命隊』ってやつ?」


「巷で話題になってるんですか!?」


思わずアシェルがそういう。


「あらあんた全然新聞読んでないのねぇ!ちょっとぐらいは読みなさい!」


そう言ってリヴェンは新聞の切り抜きの一面をアシェルに差し出した。


『病院で爆破テロ 122人が死亡 青年革命隊が犯行声明』


「……これは……」


「生き延びた生存者が言ってた話だととある入院患者の少女の名前を挙げて大声でどこだどこだって怒鳴りまわってたって話だけど、まさか、裕子ちゃん?」


「そうだな……なあそうだっただろ?裕子ちゃん」


「話せないです」


そう言って裕子は口を閉ざした。


「え?」


アシェルか聞き返す。


「ごめんなさい、今は話せないです、私のせいで……私のせいで……」


裕子はそう言うと泣き崩れてしまった。


「まだ、心の傷は深いようだわねぇ。大丈夫よ絶対にあんたのせいなんかじゃない。」


リヴェンはそう言って裕子の背中をポンポンと優しくたたいた。


「まだまだ心の傷は治りそうにないね。こっちも全力で裕子ちゃんのサポートをするわ。」


「本当ですか。大変申し訳ない……」


「なぁにあんたが謝ってるの!?こっちはあのムキムキ筋肉イケメン君を味わえるだけでもう満足よ!お代なんていらないわ!」


「ありがとうございます。実はもう一つ頼みたいことがありまして……」


「なんだい?」


「この前の病院テロ、数日前の誘拐事件。余りにも謎な不明点が多く存在していて。これが全てその『青年革命隊』の仕業だとすれば、彼らは何を目的で裕子ちゃんを狙っているのか分からなくて……」


「そうね……ただ新聞やニュースを聞く限りだと、『青年革命隊』の目的は二つあるっていう話らしいわね。」


「二つ……」


「一つは、既得権益集団の殲滅、そしてもう一つは、こう犯行声明に書いてあったわ。」


そう言ってリヴェンは『青年革命隊』の犯行声明とされる紙を取り出してアシェルに差し出した。


「過去への清算、ってね」


「過去への清算……」


「ピンときてないようね、多分この人達は過去に何かを経験したのよ。その何かが原因で裕子ちゃんを狙ってるんだと思うわ。」


「過去に何があったんですかね......」


「そこまでは流石にアタシにも想像がつかないわ。でもここまでのことをしでかすってことは相当大きな事件に違いないね…アタシも調べてみるわ。」



「......って感じだ」


「過去への清算か...確かにあいつも言っていたな。」


「誰が言ってたんだ?」


「病院で爆破テロが起きた時に最後に生き残ってた青年革命隊のヤツがボスからの命令だっつって…」


そう言ってカケルはその時の会話を回想した。


それは病院でテロが起きた頃に2人が黒崎裕子を救い出し、『青年革命隊』の残党である、主犯格の最後の一人を捕まえた時のことである。


カケルは自分の鉤爪をその残党の首筋に近づけてこう訊いた。


「そもそもお前らは一体なんなんだ?なんのためにこんなひっでェ事をやってんだ?」


「貴様ごときに言うことではない!」


「おーそうかそうか。それは困ったなァ。」


カケルはそう言って主犯格の首筋の皮を鉤爪でえぐり始めた。


「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!わかったから!」


「ちゃんと答えないと、次はこうだぞ。」


そう言ってカケルは首を飛ばすジェスチャーをすると主犯格はすぐ答えた。


「貴様らは自分のやったことを覚えていないのか!?」


「なんだ?そんなことがこんなことに関係するのか?」


「覚えてないなら後でその苦しみをふんだんに味わうがいい。我々が死んでもその傷を負うものは沢山といる。せいぜいその時までに命乞いをするんだな!」



「傷を負うものか......謎が謎を呼ぶな…」


カケルの話を聞いてアシェルはそう言った。


「奴らの話を聞けば青年革命隊のメンバーはもっといるって話だ。これからも気は抜けねぇな。」


「そういや最初に裕子ちゃんを助けた時に、密かに聞こえたんだが、奴らある事件について言ってたな。その事件を追っていけば何か重要なヒントが得られるんじゃないか?」


「ある事件ってのはどういう事件だ?」


「奴らも詳細は言ってなかったからわからないが、確か......」


アシェルはあるメモを取り出した。


「10年前の事件だ。そんな前のこと幼い裕子ちゃんが知ってるわけないだろうって思いながら隠れてたんだが、何があったんだ?」


「10年前の事件......」


カケルは反復して回想すると、途端に怪しい顔つきになった。


「どうした?なにか思い出したか?」


アシェルは不審に思ってそう訊く。


「いや、なんでもない。気にしないでくれ。」

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