第6話
黒崎裕子は逃げた。息が枯れるほどに逃げた。どこに逃げればいいのかわからないまま、ただひたすらに逃げていた。目的地は無かった。しかしその行き当たりばったりの逃走も突き当りにあたることで終盤も迎えた。
どんどんと追ってくる声が聞こえてくる。どんどんと追ってくる足音も聞こえてくる。ここで「あいつら」に捕まってしまえば、それは美津子の死を無駄にしたことになり、自身の死も意味する。しかしもうどうすることもできない。「あいつら」に対して抵抗する力はもう残っていない。瞬きをする間もなく、また黒崎裕子は「青年革命隊」に囲まれてしまった。
「どうしたどうしたお嬢ちゃん?お前もさんざん抵抗してここまでか?笑えるぜ。」
「くっ・・・・・・あんたたちなんかには負けない!ここで屈してしまったら、美津子さんの命は何だったっていうの!?」
「おまえまだあのカスの事を引きずってるんかね。あいつならとっくに野垂れ死にしたぞ。さあ、さっさとその身をこっちに預けるんだ。さもなければ・・・・・・・」
そう言って「青年革命隊」の一人は黒崎裕子の腕をつかんだ。
「は・・・・・・離せ!」
黒崎裕子が「青年革命隊」のメンバーに捕まれながら抵抗すると、その青年革命隊の人々からリーダーらしき人物が現れ出てきた。
「やあやあずいぶんを手間をかけさせやがってねぇ?黒崎裕子ちゃん?」
その時であった。
「その子を離せ!」
声が聞こえた。青年革命隊の者どもは声が聞こえる方に顔を向けた。その視線の先に居たのは、
首藤カケルとアシェル・パトリツィオだった。
「なんだ貴様らは!!」
そうの応答にカケルは答えず、少しニヤッとした表情で地面から飛ぶ。
「ショータイムの始まりだアアアアアアアァァァァァァ!!!!!」
カケルがそう叫ぶと同時にカケルの目前に居た青年革命隊のメンバーの首は一瞬でもぎ取られてしまった。
「なんだ!?なんだ!?何が起きてるんだ!?」
青年革命隊のリーダーらしき人物がうろたえる中で殺戮は続けられていく。青年革命隊のメンバーは必死でカケルに抵抗するが、その抵抗もむなしくその鉤爪で次々と殺されていく。
「何・・・・・・?何が起きているの・・・・・・?」
黒崎裕子もその光景に多大なる恐怖を抱きながらうろたえながら見ていた。そんな中で青年革命隊とカケルの戦闘を潜り抜けて、黒崎裕子はアシェルに連れられて病院の外へ脱出しようとした。当然、青年革命隊のリーダーはそのことに気づく。
「待てい!貴様ら!」
リーダーはその声と同時に二人に向かって何発もの銃弾を打つ。アシェルは銃を使うことには手馴れていないが銃弾を避けることには慣れていた。一回も被弾せずに黒崎裕子を外まで連れ行く。
「クソォッ!待ちやがれクソども今にも俺たちがもたらす恐怖を思い知らせてやる!」
「ちょっと待ちな。」
「!?」
リーダーが後ろを振り返るとその後ろにはカケルがいた。そして、そのもっと後ろにはカケルによって殺された青年革命隊のメンバーの死体の山が出来ていた。
「う、うわあアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
リーダーは銃を構えカケルに向かって打つが、飛んで上空に舞うカケルにそれは無意味であった。
そして着地と同時にリーダーの首を押え、こう聞く。
「お前を殺すかどうかはまだ考えてやろう。ただ一つ聞きたいことがある。」
「な・・・・・・何だ・・・・・・殺す気はないのか・・・・・・!?」
「おうよ、考えてやるよ。で、だ。お前らは何を目的に黒崎裕子を狙ってるんだ?」
「それは・・・・・・ボスからの命令だ・・・・・・」
「ボスからの命令・・・・・・か。それは一体何なんだ?」
「そんな事を貴様ごときにいえるか!!!」
「ほう、そうか。」
カケルがそう頷くとカケルはその鉤爪でリーダーの首を強くひっかいた。
「痛い痛い痛い!言うからやめてくれ!」
「で、その命令は何だ?」
「過去への・・・・・・清算だ・・・・・・」
「それだけか?」
「それだけだ!早く俺を解放してくれ!」
リーダーがそう叫ぶとカケルはその大きな鉤爪を振りかざして少しずつリーダーの首を刺してきた。
「痛い痛い痛い!何でだ!殺さないと言ってただろう!」
「考えるとは言ったが。殺さないとは言ってないぞ。」
「このクソ野郎が!地獄に落ちろ!」
「ハッハッハッハ。いいジョークだ。なぜならここがすでに地獄だからな。」
首を刺されたリーダーは阿鼻叫喚の叫びを続けるが、カケルはそんなをむしろあざ笑うようにこう言った。
「では、さらばだ!」
彼の左腕は紅に染まった。
「大丈夫か。・・・・・・まあ大丈夫じゃないか・・・・・・」
病院の外に置かれたポルシェの前で二人はカケルが戻ってくるのを待っていた。すると黒崎裕子が口を開く。
「おじさん・・・・・・一つ頼みたいことがあるんですが・・・・・・」
「はい?」
「私を・・・・・・」
黒崎裕子はぐっと唾を飲み込んだ。
「私を・・・・・・殺してくれませんか?」
「え?」
アシェルはその唐突な、そして残酷な願いにうろたえた。
「ど・・・・・・どうして・・・・・・そんな事聞くんだい?」
「もう・・・・・・嫌なんです・・・・・・私という存在があるせいで、いろんな人が死んで、大切な人たちも失って・・・・・・もう私何の為に生かされているのか分からなくて・・・・・・だから私という存在がいなくなれば、みんな死ぬこともないし、憎みあうこともなくて・・・・・・」
「甘いな。」
話の途中でカケルは戻ってきた。
「『私がいるせいでみんな死んじゃう』だと?そういうのを自意識過剰って言うんだ。どうせお前が死んだって奴らはまた新たな怨み言を作ってテロを起こす。お前が居ようが居まいがそんなことは関係ねーんだよ。」
「おい、カケル!いくら何でもそれは・・・・・・」
「だって真実だろ?誰がどうあったってその出来事は変えられない。真実はいつも一本道だからな。それぐらいはアシェルも理解しとけ。」
「・・・・・・とりあえず車に乗ろう。」
アシェルはそう言って車に乗った。黒崎裕子も同時に車に乗ろうとした。その時であった。
「ガキが・・・・・・」
カケルの独り言が聞こえた。その独り言を黒崎裕子は忘れることは無かった。
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