変異の魔物③

「リースこの床を白雨で斬ってくれ。外でオーガが暴れてるおかげで、多少の音なら不自然じゃない。さっきの奴らを捕まえて、囚われている人と、親玉の場所を吐かせる」

「了解。まかせとけ」


 今度は、リースもすんなりと受け入れ、白雨を既に崩れかけの石畳の床に突き刺し、切り崩していく。バラバラと下の階へ切り崩された石が落ちるが、気づかれたような気配はない。

 リースが人一人が通れる分の穴を開けている間、クルノは地図で下の階の間取りを確認する。

 丁度、ルイ達が潜入した裏口と逆の方向へ向かっていて、これならまだルイ達とは遭遇しないだろう。


「よし、下に降りたら、気づかれないようにさっきの奴らを追って、見つけたら一気に背後から奇襲する。ちゃんと付いて来いよ、リース」


 そう言って、クルノは穴へ飛び込み、下の階に降りる。

 バラバラに切り刻まれた石が崩れて着地にバランスを崩したが、何とか持ち直した。

 周囲に敵は居ない事を確認し、足音が向かった先と思われる通路を選別する。

 その間も、絶え間なく地面は揺れていた。二階より遥かに強く、その振動を感じる。


「…………」


 クルノは振り返り、本隊が居る方の正門の方向を見る。


 作戦失敗の合図は、本隊のリーダーであるジャスティスが信号弾を打ち上げる事で行われる。それがまだ無いと言う事は、想定外のトラブルがあったが、まだ作戦は続いているという事だ。

 後ろでリースが降りてきて、クルノは前を向く。


「気をつけろよ、今度は、どこからオーガが出てくるか分からないからな」


 僅かに残る不安を払いのけながら、クルノは走り出した。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

「まだまだ、掛かって来い!」


 ノアは襲い掛かるオーガの一撃をかわし、長剣に渾身の力を籠めて振り下ろした。

 しかし、その剣はオーガの腕の半ばで止まり、切り落とす事は出来なかった。

 ノアは一瞬驚愕し動きを止めるが、すぐに長剣を手放し、一旦下がる。

 オーガ達の何本もの腕を、いくつもの頭を切り落としてきたが、絶え間なく迫り来るオーガの波に、ついに腕さえも落とせぬほど消耗してしまった。

 黒い壁のように迫り来るオーガ達を前にノアは内心焦る。 渾身の力を籠めて、長剣の重さを利用して振りぬかないと、オーガの鋼のような筋肉は切り離せない。

 長剣も、それを扱う力も失った今、二刀流では不利な戦いしか出来ないだろう。

 商会の戦士達もオーガを相手に応戦しているが、どこも目立った戦果を挙げられず、かなりの人数がそのオーガの餌食となってしまっていた。

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