白い影④

 そしてユグライが今回の作戦の説明を始めた。


「バビル一味はレストの近くにあるカーム砦と呼ばれる場所に潜伏している。

 今の魔王より昔の魔王との戦いでの防衛拠点となり、激しい戦いの末崩れて放棄された場所で、現在の主要街道からも外れた所にある為、通常人がやってくることはないので、ならず者達の絶好の場所と言う訳だ。

 我が商会の偵察隊が先行して調べた所、特に特別な武器を持っている訳でも無い様で、戦力的に考えてもギルドの傭兵団を返り討ちに出来るようには見えないとの事だ。

 しかし油断してはならない、私達の知らない武器があると考え、用心するべきだ。

 今回の作戦では部隊を二つに分け、大部分は正面からの攻撃を行い相手の注意を引き付け、もう一方の少数部隊が内部からの攻撃を行うのだ」


 大まかな説明が終わった。

 これは事前に説明があったのか、全員がすんなりと受け入れた。


「ではルイ、メンバーの選定を」


 ユグライの合図で、一人の戦士が立ち上がった。

 屈強な肉体を持った様々な戦いを経験した熟練の戦士といった風貌の男だ。


「ラルシュレイ相談所の三人。配置希望は?」


 商会の戦士達の目が一斉に集まる。

 クルノは配置も向こうで決められていると思っていたが、突然話を振られ、崩れた姿勢を直した。 


「大部隊にノアを、小部隊に私とリースを希望します」


 外の部隊には乱戦が得意なノアが適任。人目に付かせたくないが、一人にもしたくないリースを少数にいれて、自分も少数の部隊に入るのが最善だと考えた。


「分かった。では各担当のメンバーを発表する」


 あっさりと了承したルイは、壇上の上から淡々とメンバーの名前を呼んで行く。


「あれ多分戦士長だろ、俺より強いのかな?」

「長が一番強いとは限らないよ」


 ノアがクルノに耳打ちしてきた。見た目の風格だけなら、圧倒的に負けているが、戦うとなれば、武器を持って対峙しないことには分からない。


「以上で大部隊が大部隊のメンバーだ。リーダーはジャスティス。少数部隊は私、エ

リック、ヒーンとラルシュレイ相談所の傭兵二名。以上」


 ルイによるメンバー選定が終わった。少数部隊に呼ばれたエリックとヒーンの二人を見てみると、この前貧民区で小競り合いになった二人だった。

 二人と目が合う。案の定、滅茶苦茶睨んできた。

 ふたたび、ユグライが


「本来であれば、数日ここを拠点に様子見し、タイミングを見計らって作戦を行う予定だったが、ここ数日不審な動きを見せているらしい。よって、本作戦は明日決行とする。明日夜明けと共に出発をする。皆身体を休めておくように。以上解散」


 会場内が少しざわめくが、すぐに収まり会場から出て行く。

 クルノ達が商会の戦士が会場を出るのを待っていると、二人の人影が近づいてきた。木刀のノアにボコボコにされたエリックとヒーンだ。


「せいぜい、足を引っ張るなよ」

「そっちこそ、邪魔しないでくださいね」


 エリックが敵意むき出しで言ってきたのを、クルノは内心うんざりしながら返した。やられたのは自分達なのに、偉そうに言ってくるのは滑稽だ。

 エリックの眉が釣り上がった。不意に視線を落とした時、リースの持つ白雨の戦闘用とは程遠い美しさに目を丸くし、続けて意地の悪い笑みを浮かべる。


「おいそこの小僧、そんな装飾の剣なんて戦いをナメてるのか、素人は戦いに来るだけ邪魔だぞ」

「これは……そこいらの剣よりよっぽど切れる」


 慌てて、リースが訂正した。それを聞いて、エリックが笑う。

 クルノは溜め息を吐いた。確かに常識外れの見た目だが、あまりに品がない。


「相手する必要はないさ、行こうぜ」

「お、尻尾を巻いて逃げるのか? こんな奴らに足を引っ張っられちゃあ明日の作戦もしんどくなりそうだな」


 踵を返すクルノ達に、後ろからエリックが調子付いた声が追い討ちをかける。

 クルノは大きく溜め息を吐き、振り返る。


「ドグネル商会って言っても、あなたみたいに品のない奴はいるですね。今ここで白黒付けますか?」


 クルノは平静を装っては居るが、内心の怒りがにじみ出ている。ノアはクルノをニヤニヤしながら様子を見守っている。


「やめろエリック、会長の顔に泥を塗る気か」


 一触即発の視線の火花を散らす二人に割って入ったのは、ずっと沈黙を守っていたヒーンだ。

 窘められたエリックは舌打ちと共に部屋を出て行き、ヒーンも続いた。

 二人が出て行くとあれだけ密集していた室内も、気が付けばクルノ達しか居なくなっていた。

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