白い影①

  レストへと続く街道を走る馬車の中で、代わり映えのない景色を流し見ながら、クルノは溜め息を吐いた。

 規格外の強さを持つ謎の少年ルーナクと、喋る靴のガル。この二人の存在がクルノの頭を悩ませる。

 クルノは自分の力不足を痛感して拳を握りんだ。


「あいつはまだ生きてる。次に出会った時も対処出来るとは限らない。何か対策をしないと……」

「ははっ、いつつ……この心配症。あんな奴を倒せるなんて、俺ら師匠を超えたって、もっと喜べって」


 ノアが脇腹をさすりながら言う。それに対してクルノも、リースもなにも返さなかった。

 結果的に、致命的な傷を状態であの襲撃者を退ける事ができたが、あの光の力と驚異的な身体能力に何も出来ず、一対一なら勝てないのは明白だった。


「平地なら……距離が……焦った攻撃は……あの靴……」


 クルノは一点を見つめて呪い様にブツブツと対策案を吐き出していく。そんなクルノを見てノアが苦笑していた事に、クルノは気づかなかった。


「……ごめん。俺のせいで危険な目にあわせてしまって……」


 リースがクルノよりも暗い声で謝った。


「気にするなって。こうして、リースのおかげで無事なんだからさ。それに俺らは師匠に戦いを教えてもらった時の方が地獄みたいだったから問題ないって」


 暗い空気を吹き飛ばすように、ノアが返す。言われて、クルノも孤児院での修行時代を思い出したが、確かにもっとボコボコにされていた。


「俺が居なかったら、二人があんな奴に目を付けられる事はなかったんだ……」


 リースはまだ申し訳なさが勝つようで、うつむいて頭を掻き乱した。左肩の包帯に血が滲む。


「うわ、クルノよりネガティブになってる」

「誰がネガティブだ」


 クルノは眉を寄せて割り込むが、ノアはリースをまっすぐ見据えたまま、クルノを手で払う。不満箇所だらけだったが、クルノはそこで黙った。


「俺らの師匠は脳筋だからこういう教えなんだ。人生は前を向いて歩くって事で、後ろに戻れないのに、後ろを振り返ってどうするんだってな。俺ら別に目を付けられた事に巻き添えになったに怒ってないから、三人狙われた者同士前を向いて楽しくしよう。な?」


 ノアは照れて頬を掻きながら言った。リースの表情が少し明るくなる。


「そうだな。俺も早く記憶を取り戻して、どうにかするように頑張るよ」


 がっちりと意気投合する二人に、クルノは何か言おうとして、やめた。

 変わらぬ調子で、馬車は進む。

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