断罪の天使⑥

 穂先がルーナクの服を切り裂き、鮮血が飛び散る。それでも、人形の様な表情は変わらず淡々とこちらを見つめてる。それが一瞬、クルノには笑ったように見えた。

 ノアは追撃の手を緩めないように切りかかる。その刹那、突如眩い光が辺りを覆いつくし、ノアの剣は見えない力によって弾かれた。

 あまりに予想外の光に、クルノ達は後ろに飛んで距離を取る。そこでルーナクの姿に思わず息を呑んだ。

 それは神々しい淡い光を纏った半透明の六枚の翼が、天使のように背中から生えていた。それにいつの間にか、ルーナクの瞳の色が金色から澄んだ青い色に変わっている。


「ハッハッハッハ! 誇りに思えよぉお前ら、ルーナクにこの力を使わせることをよぉ!」


 ガルが笑い声を上げた。靴の表情は分からないが、心底楽しそうな声だ。

 ルーナクが何気ない動作で指先をクルノに向ける。何の為の行動かクルノには分からなかったが、クルノの勘は全力で警笛を鳴らしていた。

 衝撃が、クルノを襲う。

 

祝福の閃光エンジェルレイ


 一筋の光が森の中を駆け抜ける。遅れて、春雨とは比べ物にならない衝撃がその光の筋をなぞって駆け抜ける。その圧縮された空気によって辺りの木の枝をへし折り、木の葉と共に舞い上がる。

 あの時のリースの傷の内、全身を切り刻んだのが春雨で、脇腹を抉った攻撃がこれだと理解した。だが、これをそのまま受けたとしたら、跡形もなく吹き飛んでしまうだろう。

 クルノは衝撃に吹き飛ばされて二三回地面を転がり、槍を地面意突き立てて受身を取って立ち上がり、突風に飛ばされないように耐える。チラリとノアの状態を確認するも、同じように荒れ狂う風に耐えている様子だった。

 クルノはさっきまで自分がいた所に視線を戻して、自分が何故あの光に当たらなかったのかを理解する。

 急激な気圧の変化による突風が吹き荒れてる中、その中にリースが直立不動でルーナクと対峙していた。


「やーっと出てきやがったか、そうだよな? お前が撒いた種だもんなぁ? 腰抜けじゃなくて嬉しいぜ? ヘアッハッハッハ!」


 不気味な靴の声が微かにクルノの耳に届いた。何かを訴えかけるリースの声は、葉擦れの音が邪魔で聞こえない。

 風が収まり始める。すると、先ほどまでの煩さが嘘のように一気に静まり返った。

 リースは白雨を抜き、姿勢を低くしながらルーナクとの距離を一気に詰め、必殺の剣で襲い掛かる。やはり、同じ剣の使い手であるノアに比べると数段遅く、その太刀筋も甘い。

 ルーナクは余裕を持ってその剣を避けていく。いくら最高の切れ味と言えども、当たらなければ意味が無い。


「おいおい、これがお前の全力かよ。全然話にならねぇ! もっと俺を楽しませろよ!」

「うるさいっ!」


 リースはガルの挑発にムキになって闇雲に白雨を振り回す。

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