断罪の天使④

 思わず、クルノとノアは身構える。二人の傭兵としての勘が、コイツらはヤバい奴らだとガンガンに警笛を鳴らしていた。

 不可解な点は幾つもあるが、特に二つある。まず、街の外に子供が一人で居るわけが無い。そして自分達が森から出てくるのを待っていたようにこちらを向いている事だ。


「君は、どこから来たんだい?」


 クルノが語りかける。視線こそこちらを向いているが、どこも見ていないように瞳が動かない。


「ヨォ、生きていたのかリース――嬉しいが、残念だよ」


 クルノを無視して少年の様な声がしたが、目の前の子の口は人形のように動いていない。クルノは周囲の気配に気を配るが、何も居なさそうだ。


「君は……誰だ?」


 リースが恐る恐る聞く。自分の手がかりを知る人物に思いがけず出会ってしまったのだ。


「ホォ、俺達の事を忘れたと? ハッ、お前も面白くねぇ冗談を言うようになったな。いいぜ? そこの傭兵達の冥土の土産に教えてやる」


 クルノはここで声の主に気づき、背筋が凍った。声がする度、その異様な赤いブーツのつま先がパカパカと動いていたのだ。


「俺様はガル。イズリーダが作ったオシャレな靴さ。そして、俺を履きこなしているのが、ルーナク――お前が裏切った元相棒だ」


 クルノとノアはブーツを履いた子――ルーナクから目を逸らさなかったが、リースが動揺しているのがはっきりと伝わってきた。


「教えてくれ、俺は一体何者で、何をしたんだ!」

「へぇー本当に忘れたのか? 残念だなぁ? リース、お前は記憶を失って、なーんにも分からないまま、そこの傭兵二人を巻き込んで死ぬんだよ」


 ルーナクは懐から装飾が美しい橙色をした鞘に収められたナイフを取り出した。

 その瞬間、クルノが懐から短剣を取り出しルーナク目掛けて投擲する。しかし、ルーナクは放たれた短剣を横滑りするようにヒラリと避け、春雨を抜き放った。


「春雨――世を散らす、無慈悲な光」


 ガルがぼそりと呟く。白雨と同じように、淡い光を放ち始めた。


「チッ、伏せろ!」


 クルノは舌打ちをして叫ぶ。同時にリースを蹴っ飛ばし、自分もその勢いで地面に飛び込む。

 暴風がクルノの頭上を吹き荒び、森の木の葉が一斉に吹き飛ばされた。一瞬でも反応が遅れていたら、この木の葉のようにクルノの体が飛び散っていただろう。

 クルノは跳ね起きて口笛を吹き、攻撃のため回り込んでいたノアに合図を出す。

リースを確認するとようやく起き上がり始めた所だった。

 クルノはもう一度舌打ちを挿み、ルーナクに向かって牽制に短剣を投げ、リースの手を引き無理矢理引っ張りあげて森の中に逃げ込む。

 逃げながら、葉が散り皮が剥げた木々の状態を確認する。ルーナクから扇状に満遍なく切り刻まれていた。丁度、横薙ぎに振った範囲を延長したような具合だ。


「思ったよりヤバい奴だな! どうするクルノ?」


 少しするとノアが後ろから合流した。クルノは走る速さを上げる。


「このまま森を通って逃げ切れれば、旅砦で馬車に乗ってレストまで逃げる。今のルーナクの目的がリースを殺す事と、俺達の口封じなら、人が多いところであんな目立つ攻撃を使って目撃者を増やすような事はしないはず」

「りょーかい!」

「もしも、逃げ切れなかったら?」

「その時は返り討ちにする」


 リースの問いにクルノは言い放った。

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