断罪の天使②

クルノが振り返り、旅砦からの距離を目測する。

 最初にノアが不自然な光を見つけた場所。ここから少し森に入った所に、リースが倒れていたのだ。

 街の外は基本危険地域なので手入れはされていない雑木林だが、暖かな木漏れ日が差し込む明るい森だ。

 雑木が多く生えているが茂みも少ないので、遠くまで意外と見渡せる。

 前のルートを思い出しながら、三人は森の中に入っていく。


「なんか思い出したか?」


 まだ森に入って数歩といった所で、おもしろそうにノアが聞く。当然のように、リースは何も思い出せなかった。

 クルノは記憶を頼りに木を避けながら道を辿っていく。つい最近来たばかりだが、全く違う景色の様にも見えた。


「おっ、あった!」


 ノアが声を上げる。リースが落としたと思われる物の一部を見つけた。そこから周囲に撒いた様に広範囲に少しずつ散らばっていて、その中心に、今なお残る血の後があった。

 ノアは散らばった荷物を拾い集めていく。その多くは壊れてもはや破片といった物が殆どだった。


「これが俺の倒れていた後か……」


 血の後を眺めながら、リースは考え込む。

 クルノは辺りをぐるりと見回す。旅人をしていたにしては、散らばっている物はかなり少ない。食料は森の動物に全部食べられて無くなったとしても、地図や雨具、着換え等の旅に必要な道具が殆ど見つからなかった。


「……?」


 辺りを見回していると、少し離れたところに鞘から柄まで雪のように真っ白な美しい刀が落ちているのに気付いた。

 金の蔦が絡まるような細やかな装飾がされたその刀は戦闘用というより儀式や芸術品としての扱いだろう。

 クルノが近寄って拾い上げようと手を触れると、氷のような冷たさに思わず手を離してしまう。

 意を決してもう一度拾い上げ、鞘から抜いてみると、現れた刀身もまた真っ白で、薄氷の様に薄い。これでは相手の武器をいなす事もだろう。試しに触ってみると、これも冷たかった。


「おっお金だ!」


 背後でノア大声をあげる。

 クルノが振り返ると、嬉しそうに散らばった銀貨や金貨を拾うノアがいた。遠め見てもかなりの額で、これだけあれば二年程は暮らせる。

 ノアは悪い顔をしながら、リースに駆け寄って手に拾い集めたお金を渡す。しかし、返したノアの手のひらの上に二枚の金貨が残っていた。


「今回のお助け料」

「あぁ……」


 リースは困惑気味に返す。リースを助けたのはノアで、身に着けている防刃衣すらもノアの着ているものなのでイヤとは言えない。

 やれやれと二人のやり取りを見た後、クルノはリースに刀を差し出す。

 すると、リースの目が大きく見開く。


「これは……!」



 

 

 

 

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