ラルシュレイ相談所

傭兵の厄日③

　口笛を鳴らしてノアに攻撃の合図を送る。了解と、アイコンタクトで返ってきた。

　それを確認した瞬間、クルノは三体のオーガの内真ん中のオーガに向けて姿勢を低くして一気に距離を詰める。

　左右のオーガを掻い潜り、短槍を地面に突き刺し棒高跳びの様に飛び上がる。オーガは予想外の動きに対処しきれず、慌てて迎撃の拳を放つがクルノは難なく空中で体を捻ってかわす。

　身を翻しながらオーガの肩に飛び乗り、懐から取り出した短剣で血の様な赤い目を突き刺した。

　急所を狙った短剣は深々と目に刺さり、脳髄まで到達してオーガは力を失っていく。

　間髪を入れず、クルノはオーガの肩を足場に次の標的へと飛ぶ。

　オーガは空中で無防備なクルノを葬ろうと渾身のパンチが放つ。次は避けられないが、コレもクルノの予想通りの展開だ。

　一瞬でも完全に一対一となるのなら、デカイ図体と力だけの敵にクルノは負けない。その為に厳しい修行を積んできたのだから。

全神経を集中させて籠手で守られた左腕で放たれたパンチをいなす。膨れ上がった筋肉と闇の力によって強化された強力な拳は完全にいなしたにも拘らず左腕が痺れる。

　オーガは一撃に集中するがあまり、攻撃の直後は瞬間は隙だらけ。クルノはもう一本の短剣を取り出し一体目と同じように突き刺そうとする。

　その瞬間。クルノは手ごたえを確認するよりも早く横へ飛ぶ。

　二体目のオーガが粉々に吹き飛んでいた。

　クルノは地面を転がりながら立ち上がる。

　仲間ごと殺す気だったのだろう。オーガは心なしか残念そうにクルノを睨んでいた。

　じりじりとにらみ合いながら、クルノは槍の位置を確認する。

　三、四歩と言った所だが、間に入るようにオーガがいて簡単には取らせてくれそうもない。

　クルノは息を整えながら短剣を構える。一対一ならもっと踏み込める。致命傷だって与えられる。

「そ～りゃぁ！！」

　クルノとオーガが睨み合っていると、いまいち締まらない声と共にオーガの首に長剣が振り下ろされた。

　強靭な筋肉で覆われたはずの首を完全に両断し、頭は宙を舞う。

　ノアはさっと辺りを見回して討ち漏らしが無いか確認する。ふぅーっと息を吐いて清々しい顔つきで汗を拭い青い髪をなびかせながらノアは無邪気に笑う。

「これにて殲滅完了」

「ありがとう、助かったよノア」

「礼には及ばないって、馬車まで戻るぞクルノ」

　そう言って鼻歌交じりに歩き出すノアを見送り、頼りになる相方を背にクルノはやれやれと溜め息を吐く。やはり一対多数ならノアが強い。

　クルノは地面に突き刺さった短槍とオーガに突き刺さっている短剣を回収する。

　丁度、ノアが大慌てで戻ってきた。

「クルノ大変だ！　荷馬車が居なくなってる！」

「逃げたよ、あの悪名高いオーガの群れに若い新米傭兵２人だもんな」

　ノアが膝を着いて落ち込む。

　それを見て、クルノはもう一度溜め息を吐く。

「さて帰るか。徒歩で」

　あの商人達にもう一度出会う事があったら、容赦はしないと心に誓いながら。

　クルノはノアの悲鳴を背に歩き出した。