傭兵の厄日②
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「最っ悪だ! ちくしょう!」
ノアの嘆きの悲鳴が街道に響き渡る。
その声を聞きながら、クルノは魔物の首に短槍を突き刺した。手ごたえは十分だが、浅い。
クルノは舌打ちを一つ挟み、槍を引き抜いてバックステップで距離を取った。
魔物の首から血があふれ出る。鮮血の様に肌を伝って流れるクセに酸化した様に赤黒い血だ。
反撃のパンチがついさっきまでクルノがいた場所に振り下ろされ、衝撃で地面が揺れ、土埃が舞い上がる。
深追いをしていれば、クルノは魔物の拳に潰されていただろう。
もう一度舌打ちを一つ挟んで、相棒の傭兵に向かって叫ぶ。
「ノア! こいつら例の新種の魔物だ! 肌も固いし力も強い! 一撃も貰うなよ!」
「りょーかい!」
今クルノとノアが戦っているのは最近目撃されるオーガと言われる新種だ。
体長二メートル程度の大男の様な見た目だが、体は木炭のように黒く筋肉も有り得ないほど膨れ上がっている。動きは鈍いが強靭な筋肉は刃を簡単に通さず、一撃で敵をバラバラにする。王国の兵士達でも迂闊に手を出せない強敵だ。
馬車が襲われた時に分断されてしまい、オーガは三体ずつ二人を取り囲んでいる。それぞれ一対三と非常に不利な状況である。
クルノはオーガ達の鈍いが強力な拳を軽やかに避け、槍を的確に首やわき腹等の急所に入れていくが、クルノの攻撃ではオーガ達に掠り傷をつけるのが精一杯のようで全く怯む様子が無い上、異常なまでの代謝がせっかくつけた傷をどんどん塞いでいってしまう。
小さい頃から命のやり取りをし、尊敬する師匠の下で修行を積んだクルノはこの状況でも絶対に負けない自信があった。
だがしかし、今は余裕を持ってオーガの攻撃に対処できても、長期戦になれば集中力や体力を消耗し一撃を貰ってしまう可能性がある。このオーガの拳を一撃でも貰えばそのまま死が待っている。
放たれたオーガの重い拳をかわし、後ろに飛んで距離を取りながらチラリと、クルノは護衛対象の荷馬車の方を見る。商人達はクルノ達を残して荷馬車を走らせ始めていた。
クルノとノアを置き去りにして逃げたのだ。合理的ではあるが人情は無い。
クルノは舌打ちしながら、オーガに視線を戻す。
護衛の仕事は終了。後は心置きなく戦うのみだ。
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