第一章 翼を失った世界
傭兵の厄日
ガタンと、車輪が石を踏んだ衝撃で短槍使いの傭兵――クルノは目を覚ます。
夢の内容を詳しくは思い出せなかったが、嫌な夢だった事は手や額にかいた冷や汗が物語っていた。
同じ荷馬車の中にいた二刀流の剣士――ノアが意外そうに目を丸くしながら言う。
「どうしたクルノ? 仕事中に居眠りなんて珍しいな」
ニヤニヤとした笑みで覗き込んでくるノアに対し、クルノは気まずそうに目を逸らす。いつも注意するのはクルノの方だったのに。
クルノは一言謝って手と額の汗を拭い、懐の短剣2本を確かめ愛用の短槍を握り締めた。
二人を乗せた馬車は、変わらぬ調子で走る。
――この世界には魔物という人を襲うために生まれたとしか思えない生き物がいる。
誰も詳しい生態を知らず、種類や形も様々で一切が全く不明なのである。
ただ魔物達は例外なく、遠めでも分かる程の――血の様な赤い目をしているのが特徴で、人間のみに関心を示し襲い掛かってくる人間にとっての害悪である。
魔物は一般的に人間より強い為、高い壁と兵士達守られた町の外へ出る時はそれに対抗できる傭兵達を雇うのが常識となっている。
クルノ達は王都から半日程の距離を移動する商人の護衛の仕事中だったのだ。
「ま、王都から半日位の距離でしかも馬車! 楽勝で気が緩むよな~」
そういって、ノアは大きなあくびをしながら馬車の壁にもたれた。
いつもなら気を抜くなよと言って叱る所だが、クルノが先にうたた寝してた手前なにも言えなかった。
「馬車に乗ったのもいつ振りかな~」
だらだらとし始めたノアを無視して、クルノは揺れる荷馬車の窓の外を眺める。
確かに気が抜けるような、いつもと変わらない地肌の見えた街道の景色が広がっていた。
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