忘れてしまったモノ①
「くっそー! あいつら、せめて金置いていけよなー!」
「まぁ、前金だけでも良しとするしかないな」
街道に転がる石ころを蹴り飛ばしながら、ノアは愚痴る。
森を切り開いて馬車が通れる様にした街道は景色も代わり映えせず、オーガとの戦闘後ずっと王都に向かって歩を進めているせいもあって疲労感だけが蓄積されていく。
そもそもその日の内に歩いて王都に着くのは不可能で、日も暮れ辺りも暗くなり始めていた。
「もうすぐで旅砦に着くから、そこで一泊しよう」
街の外へ出る時は傭兵を雇うのが加えて、夜は避けるのも常識中の常識である。なぜなら魔物達は一日中活動を続ける事ができ、夜でも昼と同じように周りを見ることが出来る為、圧倒的に不利になりやすいからだ。
街と街を移動する時は日中を馬車等の乗り物で駆け抜けるのがもっとも安全とされているが、経済的な理由で乗り物を用意できない人が夜を凌ぐ為に、街道に人々から――旅砦と呼ばれる小さな砦が王国内の所々に造られている。
王国の兵士が旅砦一つに二人ほど駐屯しており、旅のお供以外にも伝令、補給、防衛拠点として魔物達との戦いに幅広く利用されているアルムハイド王国が誇る政策の一つである。
「なぁクルノ、あそこなんか光ってる?」
ノアが右の森の中を指差しながら言う。
辺りは薄暗くなってきたとは言え、それでも言われなければ分からない程の小さな光がぽつぽつと茂みの向こうの林の中から零れていた。
さっきまでのだるそうな様子とは打って変わり、今でも走り出さんと言うばかりの様子である。
クルノは空とすぐそこまで迫った旅砦を交互に見る。
「確認するにしても、明日だからな。いくら魔物の気配が無いとはいえ、この辺は死角も多いしもう暗くなる。それに怪し過ぎる」
「……いーや、今見ないとダメだ! こんなの見たこと無いし、ほら、もう消えそうだ!」
そう言いながら、ノアは走り出す。
距離的にはすぐの距離だが、一瞬で状況は変わることがある。リスクは出来るだけ避けたいクルノだったが、好奇心全開のノアは昔から人の話を聞かない。
クルノは溜め息を吐きながら、着いて行く事にした。
茂みを掻き分け近づいてみても、光を発しているものが何かは分からなかった。
ただぼんやりと地面で小さく光り、近づくと風に吹かれたように消えていく。それが中心に近づく程、多くなっていた。
その中心で、クルノ達は少し後悔する。
――光の道標の先で、クルノ達と年もほとんど変わらない少年が血溜まりに沈んでいた。
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