第5話

 一葉たちが家に帰ると東條家と國廣家が勢ぞろいしていた。家が近いわけではないが、お互いの両親は親友同士。月に一回お互いの家で食事会を開催していた。

「和泉君、おかえり。一葉は? 」

和泉がリビングに入ると一葉の父、あきらが声をかける。

「風呂行ったよ。後で借りるね」

「一葉ちゃんの部屋に着替え置いといたよ」

和泉の母、弥生やよいが悪戯っぽく笑う。隣にいる一葉の母、千佳ちかも楽しそうだ。いつものことながら、和泉はため息をつく。本当にこの人たちは、と呆れているのだ。

「それにしても、一葉ちゃんがまた剣道始めるなんてな。嬉しいだろ、和泉」

 買い物から帰ってきた和泉の父、将輝まさきが嬉しそうに笑う。和泉は返事をせず、大人たちは会話を続ける。

「一葉の剣道は丁寧だったな。だが、丁寧すぎて動きが悪かった。もっと大胆に打ちにいけばよかったのにな」

「そうね。型にはまりすぎてたって感じはあるわね。でも、あなたみたいな隙だらけの一か八かの勝負よりはマシよ」

千佳が同意を示すが、最後には晃を口撃しじゃれあっている。

「でも、思い切りが足りないってのは言えてるな。臆病になっていたんじゃないか」

「最初の頃と比べたらそんな感じかもね」

 それからも、和泉はああだ、一葉はこうだと盛り上がる4人。お酒が回っていつもより会話が弾んでいるようだ。酒の肴にされている和泉はいい気はしないようで、ガタリと立ち上がる。

「言われなくてもわかってるよ、自分のことぐらい。一葉も、俺も」

 いつもは自分たちの会話に割って入ることのない和泉が声をあげ、4人は口をつぐむ。そのまま呆然と部屋を出ていく和泉を見つめていた。

 タイミングよく一葉がお風呂場から出てくる。

「一葉、悪いけど俺の着替えとってきて。母さんが置いてったらしい」

 いつもなら自分で取りにいくのだが、和泉はなんとなく一葉にまだリビングに入って欲しくなかった。

 一葉は首をかしげるも「わかった」と階段を上がっていった。

「ねえ、髪乾かして」

 一葉が着替えを渡しながら、和泉にそう頼む。断られることはないとわかっている口調。和泉も断ることはなく一葉の部屋に行き、ベッドの端に腰掛ける。ドライヤーを受け取ると、慣れた手つきで乾かしはじめる。

「ありがとね、和泉」

「何が」

「おかーさんたち、また好き勝手言ってたんでしょ」

わかってたのか、と苦笑を浮かべる。

「あと、今日も。止めてくれてありがとう。危なかったよー」

うつらうつらしながら付け加える一葉に、優しい眼差しを向ける。

「いいよ、別に。いつものことだろ」

「そうだね〜」

 もうほとんど眠っているような口調。髪を乾かし終わる頃には、静かな寝息をたて座ったまま寝ていた。

 また慣れた手つきで一葉をベッドに寝かせ、着替えを持ち静かに部屋を出る。

 一葉の弟、和翔かずとがちょうど部屋の前に立っていた。

「姉ちゃんは? 」

「髪乾かしてたら寝たよ」

 和翔は扉をじっと見つめた後、和泉と視線を合わせる。和翔は和泉より少し背が低いから見上げる格好になる。

「兄ちゃんさ、姉ちゃん襲おうとか思わないわけ? 無防備な姿してんのに。……もしかして、ヘタレ? 」

和泉が何も言わないのをいいことに、つらつらと言葉を並べる。和泉は声を抑えて笑う。

「あいつを襲ったら俺が蹴飛ばされるだろ」

言葉を切りニヤリと悪い笑みを浮かべる。

「ゆっくりじっくり追い詰めていくんだ。俺が1番だって、唯一だって思わせるようにな」

「兄ちゃん……怖いわ。他の男が言い寄ってきたらどうすんだよ」

聞かない方がいいと、和翔の本能は言っているが好奇心が勝つ。

「まぁ、それは、なぁ? ……お話するしかないだろ」

より一層人の悪い笑みを浮かべた和泉に呆れ混じりに怯えたような表情を見せる。

「そこまでするのかよ……。兄ちゃん敵に回すの、やっぱダメだな」

 階段を降りていく背中を見つめながら、ボソッと呟いた。



 ◇ ◇ ◇



「あの子たち、いつになったら付き合うのかしらね」

「まだ付き合ってなかったのか? 」

将輝は呆れ混じりに千佳に尋ねる。

「まだみたいよ。家の外ではあんまり仲よさげにはしてないみたいだし」

えー、と驚きの声があがる。全く仕方のないやつらだ、と言いたいことは全員同じようだ。

「ま、いきなりプロポーズもありだと思うけど」

茶目っ気たっぷりの弥生の言葉に3人は、うんうんと大きく頷いていた。



 ◇ ◇ ◇


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