第2話
私立如月学園。大会ではいつも一葉たちの通う学校と一位争いをしている。しかし、そもそもの学校数が少ないので、他の地域より一位になりやすいという一面がある。
今日はそんなライバルとも言える学校との合同練習で、一葉以外は闘志をみなぎらせているように見える。
「先輩たちも熱くなりすぎ……。試合じゃないのにさ。もっと冷静にならなきゃ」
「文句でもあるか、市川」
「文句あるの、匠」
慧と樹咲に同時につっこまれた
その様子を最後尾を歩く一葉はため息を噛み殺しながら見ていた。
お互いの挨拶が終わり、練習に移る。
一通り練習を終えた後、掛かり稽古に移る。相手が作ったすきに素早く反応し、確実に打つ。如月学園では30秒経つと攻守が交代する。
休憩を挟み、それから練習試合。
団体戦を行うようだ。望美と一葉、そして相手2人も面をつける。
剣道の団体戦は
それぞれのポジションによって基本的な役割はある。簡潔にいうと先鋒、中堅、大将はそのチームの中で強い人。次鋒、副将は次に流れをつなぐ人だろう。
一葉の高校は先鋒から、望美、一葉、風夏、優香、樹咲の順だ。
剣道の試合では声援は禁止。応援は拍手のみ。だから、試合中は選手の声と竹刀の音、踏み込みの音、応援の拍手、そして審判の声。そこには一種の静けさがある。
如月高校との練習試合は、試合さながらに行われる。
先鋒の望美は安心してみていられる試合運び。相手に隙を与えず、闇雲に面を打つ相手の隙をつき小手で一本をとる。二本目は相打ち面ではあるが、確実に中心を取り有効打突とする。
「頑張って」
かすかに呼吸を乱してはいるが、あまり疲れた様子もなく一葉にそう声をかけ、拳を胴に軽く当てる。
「お疲れ」
それに応えるように、一葉も同じ動作をする。
試合とは比べものにならないほどの僅かな緊張を抑え込み、開始の合図を待つ。
「始め」
力強い落ち着いた声。素早く立ち上がり、第一声。相手の悲鳴のように高い声と一葉の高くもなく低くもない声が混ざる。うるさいな、と頭の片隅で考えながら竹刀を交える。相手が先に仕掛ける。迫る竹刀を受け止め、鍔迫り合いに。一声上げるのに合わせて一葉も声を出す。一葉は後ろに下がり相手と距離を取る。最初と同じ剣先が交じる間合い––一足一刀の間合い。
ファミレスで散々に言われていたのだ、勝たなくては。そんな思いで一葉は竹刀を振るう。面を打つフリをして相手の手元が少し上がる。できた手元の隙を見逃すことなく小手を打つ。有効打突ではなかったが、味方から拍手が起こる。
それから面や小手面、引き技などを繰り出すも有効打突にはならない。攻めきれていない。焦る思いを反映するように動きが乱れる。それでも負けないように、一本取られないように一葉は残りの時間を凌ぐ。4分経ちブザーがなる。結果は引き分け。
(またダメだった)
底なし沼にはまっていくような錯覚に囚われながら、風夏に引き継ぐ。
「頑張ってください」
「お疲れ様」
物言いたげな表情で、一葉にちらりと目をやるがそれ以上何も言わず試合に向かった。
結果をいうと、勝った。望美が二本勝ち、一葉は引き分け、風夏が一本勝ち、優香は一本負け、樹咲が一本勝ちだった。
樹咲の剣道は綺麗の一言に尽きる。何をもってして綺麗なのかというのは一葉だけがわかることだが、綺麗だった。無駄な動きが最小限で、構え、打ち、足さばき、残心、どれを取っても基礎がしっかりとしている。だからといって応用が利かないわけでもなく。冷静な剣道だと一葉は感じた。
一葉はその樹咲の姿を忘れないよう何度も何度も頭の中で映像を繰り返す。これだ、と思えたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます