冷静と情熱の外様 桃園アニメメディアミックスマックス学院声優学科
「おぉ……ロメオ。どうして、あなたはアルファロメオなの?」
王の機嫌を量る側近のように、横目で演技の供述を願う、先生の顔色を伺った。
演技指導の先生は、
「違う! この下手くそめぇ!!」
クソ、またかよ?
「そんな下等生物な演技で、誰かに感動を与えられるか!」
「す、すみません……」
下等生物な演技って、なんだ? モラハラだろ、コレ?
ここ、桃園アニメメディアミックスマックス学院声優学科で、講師を務めるホリ先生は、かつてアニメ界の伝説とされる、少年ジャンク原作漫画「ドラゴンズ
先生の怒号は続く。
「そんな演技では、プロどころか大根役者にすらなれない。まだまだ演技の世界では蚊帳の外、言わば貴様は"
何かにつけて演技が下手と因縁つけて、居残り授業させやがる。
てか、まず脚本が駄目だろ?
ロミジュリでアルファロメオって。
しかも、何で俺が女役なんだよ?
演技指導する部屋は、真冬だというのに暖房が利かず、俺が着てるジャージだけでは、震えが止まらないほどだ。
身体を動かせば体温が上昇して、寒さなど気にならないと思ったが、甘かった。
一方の先生はというと、極寒のような寒さの中、白のタンクトップに青のスパッツという、ほとんど皮膚を保護できない仕様の服装だ。
しかし、奴には暖房など必要ない。
その暑苦しいまでの熱量で、自身の体温を上げ、寒さを遠ざける。
おまけに筋肉流流、胸板は鉄板のように厚く、何より髪は燃え盛る炎のように逆だっていた。
眉間にシワを寄せ尖らせた目は、さながら虎か獅子。
俺が独り言で自身の演技を、再確認していると、先生はドスドスと、近寄り真っ向から俺に立ちはだかる。
先生の体温で蒸発した汗が、熱気となり俺の顔を、スチームのように覆う。
おかげで美肌効果か生まれ、最近、俺の肌は指で押すと、吸い付く程の張りが出てきた。
再び先生の罵声が飛ぶ。
「貴様の目には、炎が宿っていない! 火がつくまで、なんどだって居残りさせてやるぅ!」
形容するなら、松岡修造にあやかったパワハラだ。
先生が継いだ二の句は、
「最初からやってみろ!」
最初も何も、最初しか演技してないだろ? という文句を押し殺して、役柄の感情を呼び起こし始める。
「はい……おぉ、ロメオ、どうして……」
「違うっ!」
何が違うんだよ!?
さすがに我慢も限界。
今、俺の頭は
あからさまに舌打ちをして、不満をぶつける準備を整えた。
「チッ」
「何だ貴様? 俺様の前で、舌打ちしたのか?」
「先生、ずっと思ってたんんですけど……なんで、女の方の役なんですか? 配役おかしくないですか?」
「役者は、いついかなる役が与えられるか、解らない。声優なら男も女も関係ない。それどころか、アライグマの役だってあるんだ。これぐらいでダダこねて、どうする!」
ふて腐れる俺の顎を強引に掴み、目線を奪う。
「や、やめろよっ!」
「こっちを見ろぉ!」
「見たからって何が……あるんだ……よ」
俺はその時、初めて知った。
厳密には今まで先生の目を、一度も合わせたことがなった。
だから、その魔術のような眼力に、圧倒される。
な、なんて熱い眼差しなんだ?
目の中に――――炎が宿っている。
錯覚でも蜃気楼でもない。
本当に瞳の中に、メラメラと揺らめく炎があった。
まるで、ビッグバンアタックを喰らったような衝撃。
この眼差しが、全てを教え導いている。
先生の蒸発した汗を、思わず吸い込むと、
この胸板に、包まれたい。
先生は顎から手を離して、俺に背を向けて去ろうとした。
「俺様の伝えたいことは、今ので全部だ。後は貴様の好きにしろ」
先生は足早に出口に向かい、ドアノブに手をかけて、部屋から出ようとした。
なぜにこんなセリフが出たのか、自分でも驚くが、あの情熱的な瞳に当てられれば、誰だってそう叫びたくなる。
「先生! 俺を……抱いて下さい!!」
先生はきびすを返し、驚いた表情で返す。
「何? 貴様、本気か?」
「はいっ!!」
「悪いが俺様に男を抱く趣味はない……と言いたいところだがな。貴様がそれで本気の演技ができるなら、抱いてやってもいいぞ?」
「俺、本気です!」
「ふん! ようやく火がついたか? レッスン1……いや、最後の最後、レッスンZまで、イカせてやるぜぇ!!」
「お願いします!」
先生の顎が少ししゃくれる。
「本気なればなんでもできる! この瞬間から、お前は外様ではなくなった。餓鬼のように演技の肥やしを望む、真の役者だ!」
「先生!」
「今夜は朝まで、ファイナルフラッシュだぜぇ! カカ◯ット!」
真冬だというのに、抱かれた先生の胸板は、火傷しようなくらい熱かった。
完全なる小ネタ置場の日 にのい・しち @ninoi7
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