第34話 やっぱり……

 ……まあ、なんとなくだが、本能的に察してはいた。どうせ、こういうパターンだと。しかし。

「なんで『ファイアフライ』なんだよ!!」

 村の裏手にある高台から双眼鏡で偵察をしながら、俺は思わず叫んでしまった。

 分かる人にはもう分かっただろう。村の近くでたまっていたのは、wwⅡ当時大量に投入された「偉大なる凡作」こと、M4シャーマン中戦車の一団だった。

 そろそろこのマシンが来るなとは思っていたし、ゴブリン・シャーマンの名を聞いた時に真っ先に想起したものだが、マジでこのパターンとはな。

 しかし、残念ながらただのシャーマンではない。イギリスで対ティーガーのために、当時最強と言われた17ポンド砲を搭載という魔改造をした、攻撃力だけなら凄まじいシャーマン・ファイアフライだった。まあ、防御力等は「通常型」と変わらないがな。

「さて、どうしたもんかね……」

 村の周辺は遮蔽物などない一面の草原。最悪とも言える環境だ。

「危ない!!」

 アイリーンが薄く光る膜を展開した瞬間、バカスカと何かが跳ね飛んだ。

 慌てて双眼鏡で見ると、ゴブリン共がファイアフライを西部劇のガンマンのように横一列に並べ、一斉射撃しているのが見えた。距離は二キロ。あいつらにしたら、十分射程距離だ!!

「戦闘開始。鈴木、本間、ぶちかませ!!」

 あまり好条件ではないが、草原に下りたら格好の的だ。

『待ちくたびれたよ~』

『了解』

 鈴木と本間の声が聞こえ、派手なジェット音と共に頭上をトーネードIDSとハリアーが通りすぎっていった。普通なら、ファイアフライなどどうってことないはずだが……

 無数の光球が上空に向かって撃ち上げられた。ああそうだ、あいつら魔法使えたんだっけ……。

『ちょっと、気色悪いもの撃つな!!』

『一両撃破』

 鈴木と本間、そのテンションがまさに両極に別れていた。

 さて、空からの殴り込みで砲撃の手がかなり弱まっている。今のうちだ。

「アイリーンは引き続き防御、あとは対戦車ミサイル用意!!」

 と叫んだ時には、全員地面に伏せてミサイルを構えていた。バルボアなど「二刀流」だ。気持ちは分かるが、それってそういうもんじゃねぇし、なんかの戦闘ロボみたいだぞ!!

「撃て!!」

 派手な発射炎を巻き上げ、対戦車ミサイルが飛んで行く。このミサイルは最新のジャベリンだ。「打ちっ放し」能力があるので、さっさと待避行動に……。

「こ、これはちょっと!!!」

 アイリーンが悲鳴を上げた。まるで防御膜を破壊するかのような勢いで、砲弾が集中し始めたのだ。

 対戦車ミサイルもロケットも同じ。派手な炎と煙を上げるので、発射位置が特定されてしまうのだ。だから、すぐに待避しないといけないのだが……のんびり解説してる場合じゃなかったな。

「私が引き継ぎます。アイリーンさんは次の一手を!!」

 タマが明らかに強力な光りを放つ膜を張った。そうだ、こやつも魔法を使えたんだった。

「ふぅ、助かった。ありがとう!!」

 アイリーンは地面に腰を下ろしてしまった。その間にも、残りの面子はなにも言わずに次のミサイル発射体勢に入る。

 敵の数はだいぶ減ったが、まだまだ結構な数が残っている。これは、なかなか骨が折れそうだ。

「よーし、行くぞ!!」

 アイリーンが復活した。そして、いつしか聞いた呪文を唱え始めた。

 ……よし。

「撃ち方よーい!!」

 皆が一斉に構える。

「バハムート!!」

「合成魔法、ジャベリン!!」

 ……すまん、ちょっと悪のりしてみた。

「カタストロフィ!!」

「撃て!!」

 アイリーンが呼び出した、巨大ドラゴンが吐き出した光線の方が早かった。

 横一列に並んだファイアフライを光線が横薙ぎにして、ど派手な爆発が巻き起こった。おおよそ戦車とは思えない様子で、その車体が軽々と宙を舞って消滅していく。

 なんだ、タイトルが思い出せないが、似たような光景どっかのアニメで見たぞ。印象的なセリフだけは覚えているが、あえて言わん。

 壊滅的な状態になったゴブリン戦車軍団だったが、俺たちが放った高価なミサイルは全て外れた。ロックオンしていた目標が全部ぶっ飛んだのだ。ここまでとは……。

「……よし、今度から拡散波動砲と呼ぼう。さて、残りだな」

 呆れるくらいいた敵戦車も僅か。慌てて撤退を始めたようだが、もう遅い!!

「うてぇ!!」

 パシュー!!

 ゴブリン・シャーマン共を殲滅するのに、さほど時間は掛からなかった事だけ記しておく。所詮はゴブリンだった。


「……うぐぐ、完璧に『赤』だ」

 調子に乗って、つい手持ちのミサイルを全て撃ちまくったのがいけなかった。

 俺は電卓を叩き、そして喫茶店のテーブルに突っ伏した。こっちでは、ジャベリン一発で貴族の館が一つ建つ。そのくらい高い。それに加えて、マーベリック。あれも高い。その他、燃料代やアイリーン、バルボア、タマの生活費などを計上すると……完全な持ち出しだった。

「全く、うちはなんでこういつもいつも……」

 しょっぱい依頼でコツコツ貯めて、派手な依頼でパーッと使う。その繰り返しである。

 これは間違えていないとは思うのだが……。今回は派手にやり過ぎた。

「やれやれ……」

 今は俺一人だ。みんな初心者の街で、好き勝手やっているはずだ。

「はぁ、電卓叩くのは趣味じゃねぇんだがな……」

 俺は喫茶店の窓から見える人の流れを見ながら、バター味の妙なコーヒーをチビリとやった。

 しかしまあ、平和だねぇ……財布以外は。

 そんな時だった。外で派手な小銃と思しき連射音が聞こえた。この街では、所定の場所以外は、武器を使ったらいけないという決まりがある。まあ、当たり前だがな。

「ひょー、異世界最高!!」

「マジヤベぇべ、これ!!」

 日本語でいかにも頭の悪そうな、明らかなガキンチョの声が聞こえてきた。

 バシバシッと喫茶店の防弾ガラスにもヒビが入り、俺は一つため息をついてから喫茶店を出た。すると、すぐ近くでAK-47を振り回している二人組の馬鹿がいた。

 AK-47シリーズは正規軍からテロリストまで、世界中で使われている有名な自動小銃である。通称「カラシニコフ」。元はロシア製だ。同期のライバル(?)であるM-16に比べてとにかく壊れにくく、少々反動は強いがいい銃である。

 皆が遠巻きにする中、俺はさりげなく二人に近づいていった。ホルスターには拳銃を収めてあるが、この馬鹿共には必要あるまい。

 馬鹿共はAK-47を手にして盛り上がり、俺の事など気がついていない。そして……。

「おっと、手が滑った!!」

 とりあえず、銃を持っている馬鹿一の鳩尾に軽く「ご挨拶」して、自動小銃を地面に落とさせる。続いて右腕を取って、派手に背負い投げっと……。

 ゴッという馬鹿一の後頭部が石畳に叩き付けられる音がしたが……まあ、平気だろう。受け身を取らなかったお前が悪い。馬鹿一は沈黙した。

「ああ、すまん。体まで滑った。全く歳は取りたくないねぇ」

 俺は落ちているAK-47のマガジンを引っこ抜き、コッキングレバーをガチャっと引いて完全に「弾切れ」の状態にすると、馬鹿二の方を見た。

「いかんな、うっかりするとまた手が滑りそうだ……」

 血相を変え、まるではぐ○メタルのように逃げ出していった馬鹿二。

 ふん、ずいぶんとまあ、薄い友情だな。

「ったく、暇つぶしにもなんねぇな。まだ、ゴブリンの方がマシだ」

 俺は喫茶店に戻り、冷めたコーヒーを一気に飲んだのだった。

 異世界にもルールあり。努々忘れぬよう……。

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