第31話 犬野郎と黒いアレ
いかにも中ボスっぽい相手。そりゃ燃える。アップテンポのBGMが欲しい。しかし……。
「だー、やりずれぇ!!」
一応、銃撃は加えているし、姐さんとバルボア、それに三井はまともにその顔面を狙ってはいるが、効いている様子がない。真面目に加勢すべきだが……。
だってお前、トイプー、チワワ、シーズーだぞ? ガタイはデカいが、いちいち可愛いんだよ。ちくしょう!! 俺は猫派だがな。
「アイリーン。あのいちいち可愛い面、どうにかならないか?」
もっと憎らしい顔なら俺も本気で戦える……と思う。
「うん、分かった。えっと……」
腰に下げていた何かの分厚い書物をパラパラ捲り、そして呪文を唱えた。
「メタモルフォーゼ!!」
犬の顔が……アメショ、ロシアンブルー、スコティッシュホールドに変わった。
「馬鹿者、逆効果だ!!」
全く気にせず攻撃していた、姐さんやバルボア、三井の手まで止まってしまった。ぬぅ、お前らも猫派か!!
「この魔法、ランダムなんで。もういっちょ!!」
……今度は、なぜか俺の顔に変わった。
瞬間、皆が一斉に猛攻を開始した。お、お前らぁ!!
「うぉぉぉ、死ね!!」
もうヤケだ。M-16を乱射しながら、手榴弾をぶん投げる。俺の顔でも中身はデッカイ犬だ。くそっ!! 死ね、俺!!!
「……バハムート!!」
アイリーンが何か魔法を放った。空中に複雑な紋様が現れ、巨大なドラゴンが現れた。
……うおっ、すげぇ!!
「カタストロフィ!!」
アイリーンが叫んだ瞬間、巨大なドラゴンは三つの俺の顔に向かって、見たことがないような強烈なブレスを吐いた……複雑だ。
「追い打ちの、メガ・フレア(物理)!!」
姐さんがフルオートも真っ青の、凄まじい早撃ちでバレットを連射した。だから、腰に来るって!!
「追撃のファイガ(物理)!!」
三井がRPG-7を地面に並べ、片っ端から叩き込んでいく。ふむ、魔法名のネタが思いつかなかったな。
「終局のアトミック・レイン(物理)!!」
ランボー、その魔法名はやめろ!! そしてお前だけ曳光弾の乱射って……地味だな。ああ、曳光弾ってのは光りを引っ張って飛んで行く弾丸や砲弾の事だ。
まあ、ともあれ、一通り俺たちの波状攻撃が終わった。肝心のケルベロスは……。
「おいおい、効いてないのか?」
さすがにダメージを負ったようではあったが、三つの首は顕在だし……。
「フン!!」
まるで立木でも叩き斬るように、バルボアが斧を首の根元に叩き込んだ。
それこそ、立木が倒れるように3本の首がへし折れる。そのへし折れた傷口めがけて、俺は手榴弾を投げた。また生えてくると嫌だからな。
しばらく様子を見たが、ケルベロスに特に動きはない。
「片付けたかの……」
バルボアがつぶやいた時だった。首を失った胴体部分が、猛烈な勢いでダッシュしてきた。
「くそ、間に合わ……」
「ベヒモス!!」
ほぼ反射のレベルだろう。アイリーンがサイに似た巨大生物を呼び出し、首なしケルベロスと真っ向から衝突した。まるで巨大重機の正面衝突。凄まじい轟音が洞窟内に木霊した。
もはや、通常兵器の出番はなかった。手持ちの武器でどうなる状況ではない。
「アイリーンの援護を!!」
頼みはアイリーンの魔法のみ。洞窟という場所で、まさかこんなもんが出てくるとは思っていなかったので、重火器はさほど持ってきていない。こんな事なら、もっと対戦車ロケットを持ってくるべきだった。
俺たちはアイリーンを邪魔しないように横一線に並び、一斉に銃を構える。ああ、バルボアは斧だが……まあ、細かい事は気にするな。
「指示するまで撃つな!!」
射撃はしない。薄く目を閉じて額に汗を浮かべ、精一杯集中しているアイリーンの邪魔は出来ない。俺は念のため指示を出した。
目の前で繰り広げられる「怪獣大決戦」をジリジリと見守る事しばし。不意に巨大な「サイ」が消え、アイリーンが倒れた。
「撃て!!」
俺は考えるより先に叫んでいた。かなり勢いは削がれていたが、首なしで巨大な戦車の台車だけみたいになったケルベロスが、なんの迷いの様子もなく突っこんでくる……。なぜか、俺の方向に。
「またかよ!!」
ったく、マグロ野郎といいコイツといい……。頭の中で何かがキレる音が聞こえた。はっきりと。
「俺は……」
手榴弾を掴んでピンを抜いた。
「その犬のしつこさが嫌いなんだよ!!」
手榴弾を思い切りぶん投げた。狙い通り、ちょうどケルベロスの腹下で手榴弾が爆発し、無慈悲に破片を撒き散らす。ここに来てようやく動きが止まり、ケルベロスの体は静かに消えていった。
「終わったか……」
念のため、周囲を警戒したが異常はない。俺はため息をついた。
すでに、アイリーンの手当が始まっているようだ。
「一時的な魔力切れだ。休めば治る」
介抱する三井と姐さんにバルボアが助言している。こちらは、この三人に任せておいていいだろう。
「俺と荒木の旦那で奥を見てくる。アイリーンの手当頼むぞ!!」
俺はランボーを引き連れて、ケルベロスが塞いでいた通路を潜ったのだった。
「ほう、これは……」
恐らく魔法だろう。そこは明るく広大な空間だった。そして、その中央にあったのが……。
「……どっかで見たよな。これ?」
ランボーが聞いてきた。
「ああ、『猿を人間に進化させた』り、『木星を太陽に変えた』り、『人類を滅ぼそうとした』り、色々楽しいアトラクションだよ」
そう、あれだ。黒くてのっぺりしたあの物体。それは、「モノリス」と名付けられたそれそのものだった。それがなんと豪華にも三つ、静かに地面に立っている。サイズはかなりデカいが、各辺の比は1:4:9のはずだ。アレと同じならな。
「これが神?」
ランボーが怪訝な様子で、とりあえずという様子で銃を構えた。
「ご神体とかいうやつじゃないか? さすがにこんな神はいないだろう……」
いたら嫌だな。そう思った時だった。モノリス? が分裂を開始した。あっという間に部屋がモノリス? だらけになっていく。
「ほら、楽しいアトラクションって言ったろ。撤収だ!!」
「分かった!!」
急いで空間から出ようとした俺たちだったが、すでに通路はモノリス(確定)に塞がれていた。ランボーが発砲するが、モノリスには全く傷は付かない。
「無駄弾を撃つな。なんか、嫌な予感がするぜ」
「俺も……」
そんな言葉を交わした時、視界が真っ白な光りに埋め尽くされたのだった……。
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