第29話 ヤバい依頼
とんでもない依頼を受けたものだ。止められれば良かった。何度後悔したか……。
例によって姐さんが持ってきた依頼……ではなく、いつもの喫茶店のマスターからだった。金になる仕事があるが、やってみないかと……。
まあ、そういう胡散臭い依頼はロクな事がない。俺は体よく断ったのだが、トイレに行っている隙に受けてしまったのだ……三井が。
かくして、こうなったわけだが……。
「C-17 グローブマスターⅢ」輸送機に山と積まれた木箱。中身は変な薬ではない。ある意味、もっとヤバい。この素敵に銃火器が溢れる異世界ですら、絶対的にタブーとされている物。
それは、W-80熱核弾頭だった。小型で巡航ミサイルにも積めるものだが……やめよう。解説する気にもならん。
要するに、これを運ぶ事を依頼されたのだ。目的地は、海の向こうにあるパルス王国。目下隣国と戦争状態にあり、起死回生の一打としたのがこれだ。最悪の一手である。
今機内のカーゴルームにいるのは、俺、三井、姐さん、ランボー、本間だ。しかし、誰も会話しない。出来る空気ではない。三井など今にも泣きそうだ。
まあ、俺もただでは転ばない。一手は打ってある。今、この機を鈴木と佐藤が乗るトムキャットが、付かず離れずぴったり追尾しているはずだ。セールで買ったが高かった。
探知される事を避けるために、トムキャット自慢のレーダーは使っていないだろう。時刻は完全に夜だが、鈴木なら食らいついてくるはずだ。
作戦は簡単。適当なところで鈴木機がこの機のエンジンに2、3発当てて、どこかに不時着させるのである。荒っぽいがそれしかない。操縦席にいる、クソッタレの黒服の腕がヘボでない事を祈るのみだ。
機が大きく旋回した。間もなく海に出る。海水浴はごめんだ。やるなら今しかない。鈴木!!
瞬間、4機あるエンジンのうち、右翼にあるエンジン二機が小爆発と共に火を噴く。操縦席の警報がここまで聞こえた。
「よし、対ショック対閃光防御!!」
すまん、ちとふざけすぎた……。
葬儀会場のようだったカーゴルーム内がにわかに活気づく。全員壁際の簡易シートにしっかり座りベルトを締める。鈴木、やり過ぎだ。一発でいいのに!!
ちなみに、核弾頭は安全装置が付いているので、例え墜落しても爆発する心配はない。輸送機はエンジンから派手に火炎を吹きながら、急速に降下していく。この辺りには小さな飛行場しかないが、短距離で止まれるC-17なら問題ないだろう。もっとも、エンジン二発を失った状態で、どうだか分からんが……。
それは墜落に近い着陸だった。俺はまだ機が動いているうちに素早くワルサーを抜き、ダッシュで操縦席に飛び込んで黒服達を倒した。急いで外に出ると、そこはトウモロコシ畑だった。ダッシュで燃える輸送機から離れる俺たちの上を、ジェット音を響かせながら、何かが通り過ぎていった。鈴木だろう。
「伏せろ!!」
俺は叫んで自分も伏せた。数秒後、漏れた燃料に引火した輸送機は、ど派手に爆発した。なんかもう、アクション映画の世界である。
「全員無事か?」
俺は軍用仕様の懐中電灯をつけた。みんな顔が泥だらけだったが、とりあえず無事のようだ。
「さて、どうする?」
ランボーに聞かれて、俺は返答に困ったが、トウモロコシ畑と言うことは農場主の家があるはず。この爆音でさすがに目が覚めただろう。
『三木、生きてる?』
突然無線から鈴木の声が聞こえた。
「ああ聞こえる。お前、やり過ぎだ!!」
俺はとりあえず文句を言っておく。
『あはは、大丈夫そうだね。今初心者の街から回収部隊が向かっているよ。ちょっと待ってね』
こうして、俺たちは初心者の街から飛んできた「MV22 オスプレイ」に回収されたのだった。
「だから、知らなかったって言ってるだろ!!」
ここは初心者の街にある警備隊の取り調べ室。ああ、警察みたいなもんだ。こっちの数が多いので、代表の俺が取り調べを引き受けたのだが……。取調官は同じ事を聞くばかりで、にこやかに笑みを浮かべている。こういう争いは嫌いである。同じ事を何度も聞くのはセオリーとはいえ、さすがにイラッとくる。
「分かりました。この時点をもって、あなたを「禁止物資輸送」の罪で逮捕します。恩情で他の皆さんは無罪放免とさせていただきますが、代表者のあなたはそういうわけにはいきません。いい大人です。「知らなかった」では済むわけがないとお分かりでしょう?」
ほらな、ロクな事がない。大体予測はしていたがな……。
「では、こちらに……」
屈強な警備兵が二人俺の両脇を固め、そのまま地下の留置施設へ。はぁ……。
なお、この世界には裁判というものがないらしい。取調官が有罪と決めたら有罪。地下の留置施設でそれなりの期間過ごす事になるらしい。
「なんか、俺って悪い事したっけ?」
三井のやつ、変な依頼受けてくれたものだ。まあ、全力で阻止しなかったのは俺だ。やっぱり俺なんだよな。
パーティーの代表者として、その責任はあるわけで……しゃーないか。
俺が地下の留置施設に連れていかれ、人生初となる檻に放り込まれた。独房なので誰もいない。
「……暇だな」
ジタバタしてどうなるものでもない。まず感じたのがそれだった。期間はどれくらいか知らんが、あーあ、また無断欠勤かよ。
「まっ、これも異世界か……」
俺は何年使っているか分からないくらいの、ぺったんこなせんべい布団にくるまったのだった。昨日から暴れて眠い……。
釈放は思ったより早かった。違法兵器密輸団への手入れがあり、俺に構っているどころではなくなったらしい。それでも、2週間掛かったがな。
お仕置き期間終了ということで解放された俺は、とりあえずいつもの喫茶店に行った。
「お勤めご苦労様です!!」
ビシッと敬礼までして、最初に声を掛けてきたのは鈴木だった。
「うるせぇ!!」
とりあえず席に座り、飲み物と食べ物を適当に注文した。
「あ、あの、ごめんなさい。私の軽率な行動で……」
半泣きの三井に、手をパタパタ振って応えた。
「たったの2週間だ。クソマズいメシも食えたし、いい経験だ。
この話はこれでおしまい。引っ張るようなものでもない。
「ところで、うちって変に航空戦力多いよなぁ。ハリアーⅡ+にF-111、トムキャットときたもんだ。少し整理するか?」
鈴木は首を横に振った。
「F-111はトーネードIDSに代わってるよ~。やっと入荷してね。このくらいあってもいいんじゃない?」
うーん、どうだか……。
「陸上の兵器も考えないといかんな。豆戦車の武装強化を考えた方がいいか……」
俺が呟くと、タマが反応した。
「20ミリ対戦車銃でも積みます?」
……うーん。
「いや、やめよう。33は33だ。ただ、もう少し攻撃力を上げたいな……対戦車ミサイルでも付けようか。戦闘室の脇もでも……」
時代を超えた魔改造。しかし……。
「やっぱり難しいな。しばらくはこのままでいこう」
こうして、陸上兵器の増強は棚上げになった。あの二人と会うまでは……。
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