第28話 お買い物

 はい、ただ今異世界です。

 とういうわけで、特に航空隊の装備を更新するため、俺たちは鈴木が馴染みという店で物色していた。超が付くほど広大な格納庫には、様々な航空機が並んでいる。本間が希望するハリアーとその練習機型はすぐ手に入った。F-35という米国で開発中の最新型戦闘機の垂直上昇型がそろそろ出るということで、在庫一層セール中だった。

 問題は、鈴木・佐藤の乗機だが……。

「えー、ないのぉ!?」

 店の親父に絡む鈴木。そう、目指すトーネードIDSの在庫が切れていたのだ。

「いやー、ちょっと前に「爆買い」していったパーティーがいてねぇ。B-1Bなんてどうだい?」

「嫌だあ、それガチの爆撃機じゃん!!」

 鈴木がごねるが当たり前だ。あんなバカデカい機体をどうしろと? 4人乗りだし。

「じゃあ、F-14……」

「それも微妙。欲しいけどあれ基本的に要撃専門じゃん。爆装ってイメージじゃないのよねぇ……」

 前回のクラーケン戦でも出てきたが、F-14トムキャットは純粋な要撃……つまり、迫り来る敵機を叩き落とすために開発された機体だ。退役寸前の頃は、半ば無理矢理爆装も出来るようにしたが、コストが掛かりすぎて結局F/A18に引き継がせる形で退役していったのである。今欲しいのは、コレクションではなく実用機だ。

「うーん、F-111じゃダメか?」

 店のオヤジか困ったように言った。

「むぅ……」

 鈴木が考え始める。「F-111 アードバーグ」。ストライクイーグルの「先輩」だ。戦闘機を示す「F」マークが付いているが、戦闘機としては失敗作に終わる。しかし、攻撃機としては大成功。小さな爆撃とでも言うべき爆弾搭載量を誇り、比較敵近い所では湾岸戦争で大暴れした機体だ。

「じゃあ、一時的にそれで。トーネードIDSが入ったら言ってね」

 こうして、我がパーティーの航空戦力は徐々に形を取り戻しつつあった。


「へぇ、これは強そうだな」

 サーバントの前に立った俺たち。ランボーが一つ呟いた。「戦闘偵察車両」というだけあって、武装もバッチリ。屋根はないが代わりに(?)大ロングセラーのM2重機関銃を装備し、車体前部にも機関銃が二丁ある。余談だが、このM2重機関銃の弾丸を使うのがバレットだ。実にイカレている。

「もしかしたら、豆戦車より強いかもしれんな……まあ、これが時代ってやつか」

 俺は思わずつぶやいてしまった。

 タマが少し悲しそうな顔になった瞬間、三井のゲンコツが頭に落ちた。うん、痛いぞ。

「モフモフを泣かせるとは許せません!!」

「ああ、すまんすまん。ただの独り言だ」

 全く……。

「じゃあ、試運転いくか?」

 俺が聞くと、姐さんが例によって依頼書の束をめくり……。

「これでどうだ?」

 それは、商隊の護衛依頼だった。ここから近くの「アリススプリングス」から 、王都「ケルスシティー」まで。推定3日間。単純な移動も含めると……一週間はかかる。パス!!

「もっと近場にしてくれ。お手軽なやつで」

 これ以上欠勤はヤバい。会社の創立記念日が金曜日に重なったため、3日で済ませられる程度がいい。

「じゃあ、これで……」

 姐さんは一枚の依頼書を差し出した……。


「どこがFランだぁ!!」

 俺は豆戦車の機関銃を乱射しながら、もう何度目か分からないくらい同じ事を叫んだ。敵弾がガンガン装甲板に当たる。

 依頼内容は、違法薬物の密造をしている隠れ里の始末だった。まあ、バレている時点で隠れ里ではないのだが、曲がりなりにも全面装甲の豆戦車が、戦闘も辞さない威力偵察に出たのだが…… 近づいた途端これである。銃弾が狂ったように飛んできた。こりゃ堪らん!!

「荒木、一旦停止!!」

 俺は、別方向からこの村に向かっていた荒木チームを止めた。オープントップで軽装甲のサーバルでは、この状況は厳しい。

 俺たちも攻撃しながら後退して、ゆっくり逃げていく。この偵察で分かった事は、空爆が必要ということだ。

『こら-、置いて行くな!!』

 という怒号が無線から聞こえ、村のあちこちで爆発が起こる。恐らく、無誘導の自由落下爆弾。着陸するんじゃないかというほど低空で、F-111が通過していった。

「お前、本間の訓練していたんじゃ……」

 そう、今回の仕事の前に空港エリアに寄ったら、熱心に訓練をやっていたので、地上で見守っていた佐藤に仕事にいくとだけ伝えて、俺たちだけで出てきたのだ。近づいただけで、これほど激しい銃撃を受けるとは想定外だった。

『アホか。訓練は訓練、仕事は仕事!! それ、もういっちょベギ○ゴン!!』

 一度遠ざかったF-111が再び戻ってきて、さらなる爆撃を行った。鈴木よ、お前もか!!

 それはともかく、敵の銃撃が急激に静かになった。よし!!

「ランボー……じゃなっかった、荒木、突っこむぞ!!」

 今度は全速前進。時折、銃弾が装甲を弾く音を聞きながら、村の入口でランボーチームの到着を待つ。威嚇のために機関銃を散発的に撃った。

 視界の限られた戦車だけで村に突っこむのは危険だ。歩きのチームが「綺麗に」してくれるのをサポートするのが、戦車の役目になる。死角が多い市街地では、戦車はあくまでも脇役だ。程なくサーバントが到着し、乗っていた4人がM-16片手に飛び降た。歩調を合わせて、豆戦車も村に入る。建物のドアというドアを叩き開け、中に潜んでいた人間を叩きのめす。その動きは、まるで訓練された兵士のようだった。こいつら、俺が寝ているうちになにやっていたんだ!?

「おい、どこでその動き倣った?」

 俺は全員が聞いているであろうチャンネルで無線を飛ばした。

『ユーチューブ!!』

 三井の朗らかな声が返ってきた。

 ……お前ら、今すぐ厳しい訓練を積んでいる兵士の皆さんに謝れ!! まあ、それを言ったら俺もだが……。

「前方に車両!!」

 タマが叫んだ。スリットから見ると、年季の入ったジープが4両が接近してきていた。

 俺は黙って機関銃を撃った。ジープは次々に火だるまになり、爆発していく。装甲車両でなければ、コイツでもやれるのだ。

 こうして、一つの仕事は無事に終わったのだった。肩慣らしにしては、ちょっと強めだったがな……。


 俺たちは、例の喫茶店でささやかな祝宴を上げていた。みんな元気な中、本間だけがテーブルに突っ伏して伸びている。よほど疲れたのだろう。

「ったく、私だけ置いてきぼりって酷いわねぇ。あのまま行かなかったらどうなっていたか……」

 鈴木がまだブチブチ言っている。

「せいぜい、見張りが5、6人って読んでいたんだが、まさか総出で攻撃されるとは……」

 変な味のドリンクをチビリ。あのままだったら、手の付けようがなかった。

「読みが甘い!!」

 三井に怒られた……。

「にしても、お前ら本気で強くなったな。動画を見ただけで真似できるもんじゃ……」

「ああ、これでも営業だからな。俺のつてに米国海兵隊員がいて、ちょっとな……」

 ランボーよ、ちょっとなじゃねぇぞ。触りだけとはいえ、ちゃんとプロ仕込みかよ!!

 つか、俺の会社ってなにやっているんだ? サーバばっかり見てるから、よく分からんのだ。

「なにかこう、ちょっと歯ごたえがなかったな。ドラゴン退治の依頼が……」

 姐さん……。

 こうして、異世界の夜は過ぎていくのだった……。

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