第27話 日常の退屈さ
はい、久々に会社です。すんげぇ怒られました。当たり前です。はい。
俺は三井と久々にランチをしていた。ああ、これが本来の世界なんだなとシミジミ。
「しっかし、お前に狙撃センスがあったとはなぁ」
コンビニで買ってきたサンドイッチを囓りながら、俺は三井に言った。
「自分でも驚きました。でも、普通のライフルだとダメなんですよねぇ……」
三井が残念そうに言う。
「多分だが、銃の重さだろうな。バケモノみたいな銃弾を使うが、それ相応の重さがある。銃口が跳ねにくいから、変にぶれにくい。ライフルだと軽いからな。そう簡単にゴ○ゴにはなれんさ」
あとは、慣れと訓練か。
『三木大介様、お客様がお待ちです。一階ロビーに起こしください』
いきなり館内放送が流れた。客?
三井と顔を見合わせてから、俺は二人でロビーに移動した。
「ほ、本間!?」
またぞろ鈴木かと思ったら本間だった。確か、戦闘ヘリって、九州とかその辺に配備されていたような……。
「ど、どうしたんですか?」
さすがに三井も驚いた様子で聞いた。
「相棒がいなくなってしまったので、見つかるまで暇を出されてしまいました。それで、東京に来てみたのですが、さすがに都会ですね。高層ビルの間を歩いていると目眩がします」
ああ、そうか。相棒はまだ異世界の病院。しかも、もう飛びたくないと……。
でも、それで休暇とは……まあ、いいが。
「と、東京見物でもします?」
三井が切り出した。
「えっ、ご迷惑じゃないですか?」
珍しく驚きの表情を隠さず、本間が逆に聞き返した。
「ああ、構わないよ。せっかく来たんだし。三井の方が、女の子が喜ぶ場所や店に詳しいだろう」
俺がそう言うと、三井が「あっ」と言った。
「今日は会議なんです。二一時には終わりますので、それから合流しましょう。えっと、このお店で。予約取っておきますね!!」
これぞ会社員の悲しさ。大した事ないのに「会議」がある。よくあることだ。
「分かった。じゃあ、適当に回ってくる」
俺は三井に言った。メモは……赤坂か。
その間にも、三井のお勧め観光スポットが本間にインストールされていく。
かくて、昼休みは過ぎていったのだった。
ど派手に休もうがなにしようが、定時は定時である。俺は地下から車を出すと、本間の到着まで路駐で待った。
さすがというか、こちらも定時である。約束の時間ぴったりに、本間がそそっと現れた。
「お疲れさまです!!」
いや、敬礼は要らんって。
「あんまり恐縮するなって。で、どこに行きたいんだ?」
告げられた行き先は水族館だった。都内には意外と多いのだが、その中でもメジャーな場所が次々に告げられていく。意外ではないが、好きなんだな。水族館……。
一通り回ったところでいい時間。俺は車を赤坂の店に向ける。鈴木と違って平和でいい。
店近くのコインパーキングにボロいソアラを駐め、店の中に入る。ほどほどに高級な飲み屋と言ったところか……。
店には、先に三井が来ていた。
「おう、お疲れ」
「お疲れさまです!!」
だから、いちいち敬礼は要らんって……。
そして始まるささやかな酒盛り。もちろん、俺はノンアルだけどな。
まあ、正直、シラフで女の子同士の会話に付いていくのはキツいので、俺はなにも言わず料理をつまみながらノンアルビール。なんか、妙に美味いなこれ。
そのまま女の子達がどうでもいい話しを続けるうちに、時刻は日付を越えた。
「おーい、明日も仕事だ。そろそろ出るぞ~」
三井に散々文句を言われたが、半ば引っ張るようにして俺たちは店を出た。本間は普通だが、三井はベロンベロンである。あのなぁ、そういう飲み方は居酒屋でやれ!!
とりあえずボロなソアラの後席に本間が座り、ベロベロな三井を助手席にシートベルトで括り付けると、俺は駐車場から車を発進させた。ついでだからとレインボーブリッジへ……。
「なるほど、これが噂の……」
なんの噂だか知らないが、喜んでいるようではあったので、遠回りした甲斐はあった。
そのまま首都高を突っ走り、まずは本間が止まっているホテルから。名も知らないような、小さなビジネスホテルである。
「色々考えたのですが……。私、カモフ50かハリアーかで悩んでいるんです」
……「カモフ Ka-50」。二重反転翼という特徴的な外観をしていて、戦闘ヘリとしては異例の一人乗りだ。搭載する対空ミサイルが多いので、一時は「対空戦闘ヘリ」等とも言われた面白い機体でもある。対地攻撃力も申し分ない。ハンターか猟犬か。悩みどころではあるだろう。
「固定翼機の操縦経験は?」
俺は手短に聞いた。
「ちょっとしたアルバイトで、単発のセスナならあります」
これほど有名な機体もあるまい。セスナは会社名だがあまりにもシリーズが多すぎて、とても書き切れない。二から六人乗りの小型プロペラ機のイメージが強いだろう。
「免許は持っているって事だな。じゃあ、簡単だ。無理がない方をを選べばいい。どっちもマニアックだがな」
俺は小さく笑った。完全なヘリのカモフはちょっと練習すれば馴れるだろうが、ハリアーは結構な癖があるという。なにせ、垂直上昇出来る固定翼機などそうはない。しかし、空中で面白い機動が出来る。ホバリングといって空中停止出来るので、それを生かせば普通の固定翼機など目ではない。
本間はしばらく黙り、そして決断したようだ。
「ハリアーにします。今までより濃密な援護が出来ると思いますので……」
またマニアックな選択を……しかし、気に入った!!
「よし、今週末あっちに行ったらさっそく探そう。鈴木にも声を掛けておかないとな」
セスナと攻撃機では当然違う。牛丼屋に行って、フレンチのフルコースを頼むようなものだ。しっかりと訓練する必要がある。
俺は制限速度ちょい上でソアラを走らせ続ける。現在は二時半だ。ちと遅くなったな。
「あの、三井さん寝ちゃってます?」
三井は完全に潰れ、ガーガーいびきを掻いている。
「ああ、寝てるっていうか、酔いつぶれているというか……いずれにせよ、意識はないぞ」
百年の恋も冷めるってか? なんちて。
「なら、言えますね。私、実は三井さんの事が……」
「ストップ!! なんか分かった!!」
俺は慌てて止めた。それ以上は禁断の領域だ!!
「あら、どうしたんですか? いつも危なっかしいので、陸にいるときはコンビを組みたいと言いたかったのですが?」
ええい、紛らわしいわ!!
「ああ、そういうことなら構わないんじゃないか」
いつの間にかパーティーの人数も増え、最小限の編成であるツーマンセルが組めるようになった。三井・本間、ランボー・姐さん、鈴木・佐藤、俺・タマ……上等だ。まあ、航空部隊が戻ったら、また話しは変わってくるが……。
「すまん、本間。三井を部屋に上げるのを手伝ってくれ。俺一人じゃ死ぬ……」
正体のない人間は驚くほど重い。本当は逆だが、手伝って貰わないと難しい。
「はい、分かりました」
本間が了承し、三十分ほどで三井の住むアパートに着いた。もちろん、合い鍵は持っている。本間と苦労して部屋に引きずり込むと、布団を引いてそこに転がし……イタズラを思いついた。掛け布団を三井の体に巻き付け、ガムテープでちょいちょいと固定してやる。ちょっと力をいれれば簡単に外れる程度にはな。
「天罰じゃ。さて、本間。遅くなったがホテルまで送る。行くぞ」
「はい、ありがとうございます !!」
……だから、敬礼はよせ。
こうして俺は本間を送り、一日を終えたのだった。
ほら、つまらないだろ? これが日常だ。
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