第25話 復活そして進め!!

 どうやら、ごってり生命力とやらが削られたらしい。やたら元気な鈴木と対照的に、俺はやっと自力で歩けるようになった。ここまでで一週間。もはや、どう誤魔化していいか分からないくらいの、無断欠勤である。色々終わったな。これ……。

「そういや、鈴木。お前あっちに戻らなくていいのか?」

 俺に見せつけるように変なダンスを踊っていた鈴木が、カチリと固まった。

「ダメに決まってるじゃん。だから、逃げているの!!」

 ……おいおい。

「小学生じゃないんだから、きっりり怒られてこい。全く……」

 病室のドアがノックされた。

「はい~、どうぞ~」

 鈴木が応えると、姐さん、ランボー、三井が入ってきた。

「おう、具合はどうだ?」

 俺は三人に聞いた。

「ああ、大丈夫だ。問題無い」

 姐さんが答えた。

「むしろそっちが心配だよ。無茶しすぎだ」

 今度はランボー。三井はただニコニコ……怖い。

「やっと歩けるようになった。問題ない。仕事は問題ありそうだがな……」

 俺は苦笑した。

「それは問題無いですよ。それなりの部署に、それなりの圧力を掛けておきましたから」

 出た。ブラック三井!!

 これが怖いのだ。マジで。

「三人揃ってきたって事は週末か。病院にいるとボケちまってな」

 実際、分からなくなるのだ。メシ食って寝るだけだしな。

「そういえば、大きな猫さんがこの部屋の前でモジモジしていましたけど、知り合いだったりします?」

 三井が聞いた。ああ、タマか。

「お前らが抜けている間に仲間になったケットシーだ。すんげぇ戦車乗りだよ。入ってもらえ」

 三井が病室のドアをあけ、手でおいでおいでした。

 すると、オドオドしながら入ってきたのは、やはりタマだった。

「あ、あの、大丈夫ですか?」

 何か怯えるように、タマが聞いた。

「大丈夫だが……なんだ、怖い物でも見たか?」

 俺はタマに聞き返した。

「い、いえ、人間がたくさんいる場所が苦手で……」

 なるほど……。

「少なくとも、ここにいる連中は大丈夫だ。安心しろ」

 佐藤、本間、本間の相棒がいないが、ほぼパーティーの全員が揃っている。この連中なら問題ない。

「そうですか……」

 うーん、まあ、慣れの問題かな……。

「あのぉ、一つ聞いていいですか?」

 三井がタマに口を開いた。

「は、はい!!」

 なにを聞く気だ。三井よ。

「思いっきりモフモフしていいですか!?」

 ……オイオイ。

「え、ええ、お好きなだけモフモフなさってください」

「あああ、でわぁ!!」

 ……ネコ好きだったようだな。

「ほぼ全員揃ったところで、お前たちが抜けている間にちとパーティーの編成が変わった。俺とタマが豆戦車に乗って、航空機部隊が臨時で陸戦をやっていたんだ。どっちも愛機の修理に手間取っているようでな。三井たちが復帰したのなら、改めて編成を考えたい。航空部隊はいずれ航空機に戻るとして、特に陸戦部隊を……」

「修理?」

 姐さんが短く聞いた。

「ああ、ある依頼で敵弾をしこたま食らってボロボロでな。俺が知る限り、少なくともアパッチは再起不能かもしれん。もし、アパッチじゃなかったら、撃墜されていただろうな。本間の相棒はまだ回復していならしい……」

 俺は手短に答えた。

「それはまた、結構な大事だな。大変だっただろう?」

 ランボーが言った。

「ああ、まあ、それなりにな。でだ、今までの流れもあるから、俺とタマで戦車であとは……車両を考えなきゃならんが、二両編成で行きたい……って、三井。聞いているか?」

 やたらめったら、タマをモフモフしまくっていた三井が頷いた。

「悪いネコはいません。人間の女の子だったら殺さないといけないですが、この子とならペアでいいですよ~」

 ……さりげなく、怖い事を言ったな。

「よし、俺の体がもうちょっとマシになったら、車両探しに行こう。今は臨時でボロいランドローバーを使っているが、あれじゃちょっとな……」

 ランドローバーを馬鹿にしているわけじゃないぞ。あの個体がボロすぎるだけだ。

「なぁ、戦車って何人乗りだ?」

 ランボーが聞いてきた。

「そうだな、車種にもよるが自動装填装置が付いているなら四人。ないなら五人だな」

 俺はそう答えた。砲弾を自動的に装填する自動装填装置なら装填手が要らないので、車長、操縦手、砲手、通信手。手動装填なら、さらに装填手が付く。あのでかい図体で車内はかなり狭いので、五人も乗ったらパッツンパッツンだ。

「俺らにも戦車ってどうだ?」

 ランボーが提案したが、俺は首を横に振った。

「あれは簡単には動かせない。それに、機敏に動ける人間がいないと困るんだ」

 戦車は歩兵を守り、歩兵は戦車を守る。これが基本だ。それに、「動かせる」のと「乗りこなせる」のは違う。下手に戦車なんか選んだら、格好の的になるだけだ。

「そうか、そうなると……」

 思考を巡らせるランボーだったが、こういうことは俺の方が詳しいだろう。

「まずは、治せ。全てはそこからだ」

 姐さんの一言で、とりあえずこの話しは終わった。

「ところで三井。お前いつまでモフモフしているんだ?」

 タマも満更せはなく、三井の頭をそっと撫でたりしているが……まあ、いいか。


 さらに一週間後。俺はやっと退院した。

 初心者の街は相変わらず混んでいる。俺と三井たちは、まずタマの戦車を見に行った。

「うわっ、ちっちゃ!!」

 三井が声を上げた。

「ほう、変わった戦車もあるものだな」

 姐さんが関心した声をあげ……。

「もっとデカいの想像していたよ。へぇ……」

 ランボーも感動(?)の声を上げる。

「すいません、古いもので……」

 なぜかタマが恐縮した。まあ、確かに古い。

「さて、以上を踏まえて、車両探ししますか……」

 俺たちは人混みをかき分け、車両を売っているエリアへと向かう。そして、いきなり目に入ったのが……。

「おお、AGF サーバル!!」

 この世界ではレアな車両だ。ドイツ軍が使っているベンツのGクラスをベースにある程度の装甲と、機関銃をいくつか装備したなかなか侮れない偵察戦闘車両だ。豆戦車より強い……かもしれない。

「これがいいと思うぞ。ちょうど4人乗りだし、珍しくて面白いし」

 ランボーは黙って頷いた

「お前がそう言うなら間違いないだろう。また死ぬのはごめんだしな」

 かくて、まだ航空要員が陸戦隊のため、ランドローバーは売却できないが、一端の戦力を誇る立派なパーティーが出来上がったのだった。


 久々にくる喫茶店。まあ、相変わらずだった。

「さて、復帰戦だ。この依頼はどうだ?」

 姐さんが依頼書の束を捲り、テーブルに置いた。

 ……

「え……マジ?」

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