第24話 鈴木という女
「ただ問題が一つあってな、これは生きている者の生命力を使う。通常は山羊などを使うのだが、この術式は同じ種族でなけばダメだ。確率は五分五分。お前さん、それでも命を賭ける覚悟はあるか?」
俺となぜか鈴木が息を呑んだ。
しかし、こんな簡単な質問はない。一瞬びっくりしたが、考えるまでもなかった。
「ああ、やってくれ。一番いいやつを頼む」
悠長に会社行ってる場合ですか?……NO
躊躇する理由はありますか?……NO
自分の命を担保に三人を蘇生……出来るかもしれないって言われたら、あんたならどうするかい?
考え方はそれぞれだろうが、俺は蘇生実行への道を選んだ。姐さん、ランボー、そして三井。例え俺が死んだって生き返らせたい連中だ。あんな不条理な死に方はない。
十人のエルフたちによって、柩が三つ引き出され、そのまま墓地のちょっとした広場に運ばれて行った。地面には複雑な紋様が描かれている。いかにもそれっぽい空気が漂い始め、俺は気合いを入れた。
「それでは、ここに立って下さい」
例によって同時通訳だが、術者に言われるままに、俺は複雑な紋様の上に立った。しばらくして、十人の術者が俺と柩を囲むようにして立ち、何やら唱え始めた。紋様から怪しい光りが放たれ始める……いよいよか。覚悟を決めた時だった。何を思ったか鈴木が飛び込んできた。
「なっ、お前!?」
「一人より二人!!」
ビシッと言い放つ鈴木。光りは一層強くなり、もう周りの景色が見えなくなった。
「あんたの事が好きなんだよ。真面目に。もう三井さんの物だけどさ、それでも死なれちゃ困るのよ!!」
うぉい、いきなり告白するな。こんなタイミングで!?
「死ぬなら一緒さね。生命力二倍で一石二鳥!! さぁ、バッチ来い!!」
瞬間、強烈な電撃のようなものが体を駆け抜ける。それも、何度も。
「くっ、こいつは効くぜ……」
どさくさに紛れて、鈴木が手を繋いできた。何考えて……くっ!?
それは、やった事はないが、内臓が外に出るかのような感覚だった。こいつは堪らん!! しかし、逃げるわけにはいかなかった。
「いかん、目眩が……」
ごっそり体から力が抜けて行く感触。立っているのが辛い。
「な、なに……へこたれて……いるのよ。くっ!?」
鈴木の声が聞こえたが、それに応えている余裕はない。
それからしばらく粘ったが、もはや限界だった。俺の意識は、見事にぶっ飛んだのだった……。
「ん?」
目を覚ましたのは、ベッドの上だった。そこが、初心者の街にあるちょっと大きめの病院である事に気がつくまでに、しばしの時間を必要とした。
「おっ、目覚めたかの」
真っ先に視界に飛び出してきたのはエルフの長老だった。無論、同時通訳だ。
「蘇生は成功だ。まだ意識は戻っていないがな。一緒に飛び込んできた女性に感謝するのだな。一人なら、お前は死んでいた……」
寝起きにヘヴィな事を言うな!! ってそういえば鈴木は?
俺が首を振ると、隣のベッドに寝かされていた。色々点滴やらなにやら繋がっている。
「安心していい。ちゃんと生きている。他の三人は反対側のベッドに寝ているが、命に別状はない。今は休む事を考えるんだ」
動きたくたって動けない。体中に重りを付けたようだ。
「ああ、そうだ。かなりの生命力を使った。これは、イコールでお前さんの寿命が縮まったと考えて欲しい。無茶はしない方がいいぞ」
これは、つまり鈴木も同じだ。あの馬鹿、無茶しやがって。
「では、わしらは撤収する。くれぐれも、無理しないようにな」
長老の気配が消え去り、病室は静かになった。
「さて、どうしたもんかねぇ……」
何日寝ていたのか聞くのを忘れちまった。場合によってはクビだな、これは……。
などと、ため息を漏らしていると……。
「うぉぉりゃ、餃子定食五人前!!」
……鈴木が意識を取り戻したようだ。なんだ、その目覚め方は!!
「あれ、生きていたか。よかよか」
俺より飲み込みが早い。こちらを振り向きニヤリと笑みを浮かべた。
「あのなぁ、なんだよ餃子定食五人前って!?」
一応、ツッコミを入れておく。
「えっ、そんな事言った? これはこれは失礼を」
えへへと笑う鈴木に、何か言う気力はなかった。
「……あのさ、つい勢いで告っちゃったけど、あんたは私の事をどう思っている?」
いきなり鈴木が真面目に聞いてきた。
俺の気持ちは三井にしか向いていないが……。
「まあ、いい仲間かな。恋愛対象としているのは三井だけだ。すまんな」
俺は率直に返した。
「よし、それでこそ男だ。もし揺らぐ事があったら、これ以上あんたと関わるのをやめようと思っていたよ。でも、三井さんの後ろに私がいる。忘れないでね」
……テストかよ!!
「それにしても、体が動かない。こんなの訓練でもなかったよ」
鈴木が苦笑した。
「ああ、俺もだ。さっき長老が言っていたが、寿命縮まったってさ。多分、お前もそうだろうな」
鈴木はニヤリと笑みを浮かべた。
「いいじゃん、それで三人が生き返ったんだから」
「まぁな」
俺は肩をすくめようとしたが出来なかった。痛い……。
あーあ、まさか「異世界行ってました!!」じゃ有休取れないよなぁ。
不条理な事に、先に動けるようになったのは三人だった。無茶しすぎと罵詈雑言の嵐を浴びたのは俺。なにか、虚しい。体張ったのに……。
しかもだ、先に帰りやがったのである。こっちはまだ車椅子だというのに。
「虚しい。何もかもが虚しい……」
ベッドの上で、俺はため息をついた。
「あはは、いい仲間だねぇ」
ようやく歩けるようになった鈴木が、俺のベッドに近寄ってきた。
「あいつら……。今度死んだら絶対助けてやらん!!」
さすがの俺でも、怒る時は怒る。あの腐れ野郎共!!
「はいはい、怒らないの」
俺の一瞬の隙を見逃さず、軽くキスして離脱していく鈴木。コイツがキス魔なのは分かっている。別になんとも思わない。
「お前なぁ、それ本間にもやっただろ。口に『G』を入れられても……」
鈴木の第二次攻撃が俺の口を塞いだ。おいおい、長いって!!
「あのなぁ、そんな事したら三井に撃たれるぞ!!」
全く、アイツがいない事をいいことに好き勝手やってるな。
「いいじゃん。減るもんじゃなし」
鈴木はケラケラ笑っている。減るわ。なんかこうHP的なものとか……!!
「さてと、隙だらけで動けないうちに、やる事やっちゃうか……」
ニヤリと笑みを浮かべると、何を思ったか病室のドアを閉め鍵まで掛けると、ボキボキ手の指を鳴らしながら、俺のベッドに近づいてきた。
「あ、あの、お姉様。一体なにを!?」
これは、なんかヤバい!! 本能が告げているが、ベッドから動ける状態ではない。
「これは三井さんのため、色々教えてあげる♪」
「お、お戯れを!! ぎゃー!!!」
詳しくは言わないぞ。うん、絶対言えない。そ、そうそう、碁を打っていったんだ。ただそれだけだ。
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