第17話 リメンバー黄身野郎

 なんだか異世界ばかり記しているが、それは現実世界が退屈だからだ。

 今日もサーバスレイヤーが「サーバスレイブ」を放ったお陰でぶち壊れはしたが、まあ、その程度だ。

 俺は一方的に三井と結婚している。迷惑かもしれんが、文句は言わせない。もちろん、ハネムーンも式もなしだ。少し寂しくはあるがな。

 ちなみに、三人の行方は不明で捜索願いが出されている。俺は行方も場所も知っているが、言えるか? 異世界で死んだなんて。誰も信じないだろう。

 屋上から空を見上げていると、陸自のブラックホークが六機ほど、見事な編隊飛行をして通り過ぎて行く。知っている機体だ。珍しくもなんともない。

 と、スマホが着信音を奏でた。相手は鈴木だ。

「おう、どうした?」

 電話が来たということは、少なくともこの世界にいるということだ。

『いや、暇でさ。今から三沢に来られる?』

 ……あのなぁ。

「今昼休み中だ。行けるわけないだろ!!」

 全く、何を考えているんだが……。

『F-2で遊びに行こうか? 暇だし』

「アホ!!」

 全く……。

「それで? 冗談言うために電話したしたなら切るぞ」

 俺は本当に通話を切ろうとした。

『全くつれないわねぇ。といっても、私も特に用事はなかったわ。じゃぁね~』

 ……コノヤロウ!!

 こちらの世界は概ね平和ある。やれやれ。


 今週末、異世界へと飛んだ俺たちの元に、鈴木が依頼を持ってきた。

「はい、今回は海外派兵よ。海を越えたところにあるラムセス王国でトラブル。魔物が溢れて手に負えないみたいね」

 依頼書は緊急度A。つまり、「直ちに対応を要する」だ。依頼料も破格ではあるが……。

「遠すぎるだろ。週末に受ける依頼じゃない」

 俺は断った。これ以上勤怠を悪くするわけにはいかない。

「大丈夫、輸送機を手配したから。五時間もあれば着くわね」

 ……手際のいいことで。

「戦車と本間さんのアパッチはもう積み込みました。後は私たちが乗れば出発できます」

 タマがさらっととんでもない事を言う。豆戦車はともかく、アパッチまで!?

「おいおい、どんだけバカデカい輸送機を用意したんだよ!!」

 俺は鈴木に問いかけた。

「それは見てのお楽しみ。さて、行くわよ!!」

 こうして、俺、鈴木、本間、タマの4人は空港エリアに向かっていったのだった。


「ほぇ~……」

 間抜けな声しか出ない。そこにあったのはC-5M スーパーギャラクシー大型輸送機だった。ちょっと前まで現役だったジャンボこと、ボーイング747みたいな姿と言えばいいか。主力戦車まで運べる凄まじくデカい輸送機だ。コイツなら、俺らの装備など余裕で運べるだろう。

 機の後部ではなく、前部がガバッと開いている姿は、なにかの巨大肉食獣の口にすら見える。

「さぁ、乗った乗った!!」

 鈴木に促され、俺たちは広大な輸送機の中に吸い込まれた。鈴木はスライクイーグルで追いかけるらしい。当然、佐藤も一緒だ。

 輸送機のドアがゆっくり閉まった。エンジン音が高まり、輸送機は滑走路に向けてタキシングしていく。この初心者の街にある空港は、いつでも大体混んでいる。待たされる事が当たり前のはずだが、さすが優先度Aの依頼である。

 軍用機ゆえに窓はほとんどない。まるで、空飛ぶ体育館だが、エンジン音でなんとなく状況は察しがつく。エンジン音が一気に跳ね上がり、巨体に見合わぬ猛烈な勢いで加速を開始した。外から見たら、なかなかの迫力だっただろう。少し長めの加速を終え、じんわりとプラスGが掛かる。エレベータが上昇するときに感じるあれだ。

 こうして、俺たちは始めての国外へと向かったのだった。


 ラムセス王国王都プリングスシティ間近のリス空軍基地は、世界各国から集まった戦闘機や輸送機でごった返していた。その中をスーパーギャラクシーの巨体が進み、俺たちはまた地上の人になった。

 豆戦車を降ろし、本間のアパッチを降ろして、折りたたまれていた機体を元に戻す。そう、アパッチに限った事ではないが、軍用機は輸送を考慮して折りたためるものが結構ある。これにより、全世界どこにでも急速展開できるのだ。

 全ての作業を終えると、基地の建物に行き挨拶をする。中はてんてこ舞い状態だったが、それでも何とか割り当て表と地図を貰った。

「この辺りだな……」

 渡された地図を参考にして、道なき道を進むことしばし。そこは、大きな湖の畔だった。

「こりゃまたすげぇな……」

 見渡す限り魔物の山。ここまで来る間だも結構戦ったが、すぐ上空を飛び回る本間の援護で凌いできた。しかし、この密度は……。

「考えていても詮ないですよ。戦いましょう!!」

 タマがそういった時、まるでタイミングを合わせたかのように、本間がロケット弾をばらまいた。よっしゃ、行くか!!」

「前進!!」

「了解です!!」

 機銃を乱射しながら、俺たちの戦車は魔物の群れに突入していった。本間が大まかに数を減らし、細かい所を俺たちが綺麗に「掃除」していく。

 戦車ぁ? と思っていたが、なかなか便利だなと思う。最初は馬鹿にしていたこの豆戦車だが、小回りが利くので非常に使えるのだ。もっとも、これでドラゴンと戦えと言われたら泣くけどな。

「洞窟です!!」

 タマの声に俺は我に返った。行く先にはちょっとした崖があり、少し大きめの洞窟があった。俺は頭上のハッチを開き、上半身を外に出して双眼鏡で見る。どうも、やたらと魔物の色が濃い。なにかあるな……。

「本間、あの洞窟に一発ぶち込んでくれ!!」

『了解』

 無線から本間の声が聞こえ、アパッチがヘルファイアを発射した。ミサイルは洞窟の中に飛び込み。中で爆発して魔物を吹っ飛ばした。まあ、コスパはともかく対戦車ミサイルだって爆発物。こういう使い方もある。

「タマ、いけぇ!!」

「了解です!!」

 魔物がぶっ飛んだ隙に、洞窟の中に豆戦車ごと突っこんだ。もちろん、暗視装置は装備している。中はかなり広く、戦車で駆け抜けて行くには問題がない。これも、小ささの恩恵である。

 体を車内に引っ込めてしばらく進むと、カンカンカンカン!! と何かが装甲板を叩いた。

「原始的な罠ですかね?」

「多分な」

 つまり、誰かがいるということだ。まさか、戦車で突っこんで来るクレイジーなやつがいるとは思うまい。

 そのまま突撃していくと、すぐに洞窟の奥にぶつかった。そこで見たのは……。

「また、こいつか……」

 そう、コボルト事件の時に見たあの「黄身野郎」だ。お前か!!

「あれは、通称で『モンスター・ボックス』ですね。完全に暴走していますが……」

 タマがポツリと言った。

「分かるのか?」

 俺が聞くと、タマは頷いた。

「世界各地にある謎の物体です。多からず少なからず、適量の魔物を生みだし続けているようですが……この国の魔物大量発生もこれが原因でしょう。暴走したこれが一つあっただけで、崩壊した国はいくつもあります」

 ……こわっ!!

「じゃあ、ぶっ壊すか。でも、前はドラゴンが出たんだよなぁ……」

 記憶にも新しいこの腐れ卵。最後っ屁にドラゴンを出しやがったのだ。

「ああ、もう知っているのですね。これは無理に壊すと、かなり大変な事になります。それなので、こうします……」

 タマは何やらブツブツ唱え始めた。うぉっ、まさかの魔法使い(本物)!?

「ストップ!!」

 瞬間、黄身野郎が青い光りで覆われた。

「五秒間だけです。今すぐ破壊を!!」

 俺は慌てて機関銃の照準を合わせ、黄身野郎に銃弾を叩き込んだ。パリーンと音を立てて、黄身野郎は粉砕された。ドラゴンは出てこない。これで、この国に溢れる魔物の元凶を絶った事になる。

「お前、魔法使えたんだな?」

 俺はタマに聞いた。

「はい、ケットシーの嗜みです」

 ニッコリ笑うタマ。ほうほう、覚えておこう。

「さて、とりあえずここから出よう。超進地旋回!!」

「この戦車では出来ません。あんな高度な事は……」

 ……

 超進地旋回とは、左右の履帯を前後に動かして、その場でくるっと回る曲がり方。実は、結構な技術力が必要なのだが……コイツには難しいか。

「じゃあ、バックするしかないな。俺が誘導するから、ゆっくりな」

「はい!!」

 俺はハッチを開けて頭を出し、久々となるバック誘導を試みる事となった。

「はーい、バック誘導しまーす。オーラーイ、オーラーイ、はい、ちょい右に……あっ、違った左だ左!!」

 ゴン!!

 この国の「救世主」にしては情けない姿である。しかし、これがきっかけで、この国では空前のタンケッテ……豆戦車ブームが起きるとは、全く想像もしなかったのだった。

「あー、ストップ、ストップ!!」

 ドゴーン!!

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