第9話 被弾のち、ケ○ル or ホ○ミ
その日、初心者の街に隣接する空港はラッシュを迎えていた。ほぼありったけの航空機が飛び立つのだ。巨大な爆撃機の離陸は、それはもう迫力満点だった。
ここまでど派手に動いておいて、もはや機密もなにもないような気がするが、そんな事は依頼を受けた鈴木の責任だ。俺たちには関係ない
「さて、いよいよあなたたちよ。準備はいいわね?」
今回の作戦に先立って、俺たちは自動小銃を装備に追加していた。屋外での戦闘も考慮しての事だ。さすがにサブマシンガンや拳銃では限界がある。
「……なんで、陸上戦力が俺たちだけなんだ?」
ここは勝手に設営した仮設本部のテント。俺はため息交じりに鈴木に聞いた。
大した大きさの島ではないが、たった四人で制圧出来るほど甘くはないと思うが……。
「いやー、私って航空関係とか艦船関係の知り合いは多いんだけど、陸上はあなたたちくらいしかいなくてさ。大丈夫、生きていても死んでいてもちゃんと連れ帰るから」
……やめようかな。この依頼。
「ほら、いったいった。帰ってきたら、お姉さんがいいこと……」
強烈な殺気。三井がニコニコ笑顔で俺の足を思い切り踏んだ。戦闘用のブーツなので痛くはないが、なぜ俺なのだ。変な事を言ったのは鈴木だぞ?
「やれやれ、じゃあいってくる」
俺たちは前回と同様に巨大なヘリに乗ると、初心者の街を離れたのだった。
機内はインカムで会話が出来るが、皆何も言わない。かなり危険な依頼である。先日の柏原の件もあり、死が近い実感として湧いている。冗談の一つでも飛ばして和ませるのが俺の役目だが、生憎ネタを持ち合わせてはいなかった。
結局無言のまま、三〇分後に問題の島上空に差し掛かった。
「あーあ、また派手にやっちゃって……」
やっと言葉が出た。ヘリの窓から見える島の姿は、ズタボロの一言だった。まあ、あれだけの爆撃機がバカスカやったのだ。小島など消え失せかねない。
「俺たち必要なのか?」
ラ○ボーがポツリ。同感だ。
「残党狩りだろう。空からでは叩けない連中もいる……」
姐さんが新装備のM-16A4を見ながら呟いた。言われなくても、誰もが分かっているであろう事だが、声を出す事は重要だ。
「はいはい、皆さんリラックス、リラックス~」
わざとおどけて言う三井。可愛い顔して、裏では……何でもねぇ。
「……着陸ポイントまで五分!!」
ヘリのパイロットの声が聞こえた。さて、始業時間だ。
ちなみに、俺たちはラペリングというロープを伝って下りる技術はない。危険だがヘリに一回着地してもらうしかない。
ヘリが地面に着いた瞬間、俺たちは素早くドアから飛び降り、セオリー通りその場に伏せる。隙だらけで狙撃には絶好の瞬間だからだ。
巨大なロータで猛烈な風を残し、ヘリは去って行った。
「さて、下りたわけだが……」
爆撃でぺんぺん草一つ残っていない荒野。上空には支援してくれる攻撃ヘリや攻撃機が大渋滞。鈴木はいつもやり過ぎる。地図は渡されているが、俺ら意味あるのか? これ。
「とりあえず、あの山のてっぺんに旗でも立てるか……」
なぜか渡されていた旗を広げ、俺たちは一応警戒しながら山の頂に向かっていった。あちこちに原形を留めていない何かが燃えているが、恐らくは叩き潰された地対空ミサイルの残骸だろう。派手にやりやがって……。
ほとんど焦土だが、歩いてみれば所々僅かに森林が残っている。あの辺はマークだなと思った時だった。
いきなり左肩の辺りに焼け付くような痛みが走り、俺は思わず地面にひっくり返ってしまった。一瞬なんだか分からなかったが、狙撃だ!!
そう思った時には、全員身を伏せて姐さんのバレットが火を噴いていた。
「外れだ。しかし、気配はある」
元々、仕留めるためでなく牽制で撃ったのだろう。俺は痛む左肩を押さえつつ、そっと伏せて双眼鏡で確認した。僅かに残った森。ここから撃たれたのだろう。距離は約800メートル。いい腕をしている。たった一人の狙撃手がいるだけで、その場から身動きが取れなくなってしまうものなのだ。
上空でワサワサしていた航空部隊が、ここぞとばかりに森に集中砲火を浴びせ始めたが、それをあざ笑うように再び一発。すぐ頭上を風切り音が飛んでいき、発射音が追いかけてきた。姐さんがそれに対して答えを返す。イージーな仕事だと思ったら、途端にハードになりやがった。しかし、いってぇ!!
「ケ○ル!!」
三井が救急キットで俺の止血をしながら叫ぶ。結局魔法じゃないしどっちでもいいが、俺は「ホ○ミ」派だ。
「魔法、使いたいなぁ……」
ラ○ボーが威嚇の射撃をしながら、なにやら呟いた。お前、その格好で魔法か? どっちかって言うと、デッカイ斧とかハンマーみたいのが……いてて。
「メラ○ーマ!!」
姐さんが叫びながら、バレットの引き金を引いた。うぉ、姐さんそんなキャラだっけ!?
なんだろう、俺が撃たれてからみんな元気いいぞ。痛い思いをした甲斐があったな。
「排除。あの森を掃討しよう」
ガチャリとバレットを背中に背負い、M-16を構えた姐さんがいう。痛いには痛いが、俺も行動に支障はない。
新たな狙撃手が出るかも知れないが、周りはなにも身を隠すものがない。俺たちは身を低くして突撃するしかなかった、800メートル先の森に。
森の中は、異常な静けさだった。動物の気配がまるで感じられない……。
「上!!」
姐さんが真上に向かって一発撃つと、銃を持ったオークがドサッと振ってきた。……すげぇ。ラ○ボー頑張れや。
(表は)みんなのアイドル三井も負けていない。今までサブ的役割であまり戦闘行為はしてこなかったが、俺が負傷した分をサポートするかのように、茂みに隠れていたコボルト三体を銃弾で叩きのめす。もはや、男性陣の出る幕はなかった……。
こうして五時間ほど掛けて森を丁寧に「掃除」し、そのままノリと勢いで島で一番高い山の頂に王家の旗を立て、犯罪組織の拠点はこの世から消え去ったのだった。
ヘリによって帰還した俺を待っていたのは……予想もしていない事だった。
「おお、帰ってきた。あれ、被弾したの? 上手く止血されているみたいだけど、大丈夫?」
鈴木が俺の体に触れた瞬間だった。パーンと発射音がして、今度は背中から左肩を射貫かれた……うげっ!?
痛みに目眩を起こしながら見ると、手にグロックを持った三井が、ニコニコ笑顔で額に怒りマークを浮かべていた。
「ははーん、そういうことか。なら、もっとさわっちゃおう♪」
「よ、よせ!?」
クソッタレな笑みを浮かべた鈴木が、俺の体をベタベタ触りまくる。三井は何も言わず、カチリとグロックのセレクターをフルオートにした。多分。
「よせ、殺される!!」
俺はその場から逃げようとしたが、鈴木がそれを許さなかった。
「さてと、ここ触ったら……」
タタタタタタ!!
その反動が故に射線はメチャクチャだったが、三井のグロックから銃弾がひたすら吐き出され、今度は無傷だった右肩まで負傷した。それだけで済んだのは暁光か……。
「ねぇ、あの子結構ヤバいと思うんだけど、あんたも物好きね」
鈴木が耳元でささやき、頬に軽くキスなどしやがった。うぉお!?
ちらりと肩越しに見ると、三井の手には……対戦車ロケットがあった。在庫一掃の特売で買ったRPG-7が……終わった。俺の人生。
ああ、RPG-7とは……って解説している場合じゃない!!
バッシュー!!
「ぎゃぁぁ!? あれ?」
あれ、なんで生きているんだ俺? それとも、これから神様的ものでも出てくるのか?
落ち着いてみたら、ここは初心者の街にある医療センター。そのベッドの上だった。
「あはは、びっくりした? 寸前で私ごと地面に伏せてRPGは外れ。オシッコ漏らして気絶するんだもん。なっさけないわねぇ」
ベッドサイドにいた鈴木が腹を抱えて笑った。
この時、俺の心に明確な殺意が生まれたのは言うまでもない。
「……三井は?」
俺は殺意と声を押し殺して聞いた。
「ああ、買い物に行ってる。話したらいい子じゃん。もう同盟組んじゃったから、あんたが変な事したら、ストライク・イーグルで粉砕してやるからね。あはは」
……出た、女の子同盟。うっかり敵視されると、本気でこの世にはいられなくなる。
「お前が変な事したんだろうが……まあいい。いや、よくないけどあえて言わん。頼むから、命がけのイタズラはやめてくれ!!」
命がいくつあっても足らん。全く。
「あのくらい避けろ。フォース的なもので」
アホか!!
「ああ、そうだ。致命傷にはならなかったけど、結構いいところにヒットしちゃったみたいで、全治三ヶ月だって。まあ、頑張って!!」
そう言い残し、鈴木は去って行った。さ、三ヶ月……あのやろ!!
「ごめんなさい。ついカッとしてしまって……」
鈴木と入れ替わるように、三井が顔を出した。
「あ、あのな、次からはビンタくらいにしてくれ。いちいちRPG食らっていたら、身が持たないってか普通に死ぬ!!」
『……死んだら私だけのもの』
「ん? 何か言ったか?」
なにか蚊の羽音のような小声で怖い事を言われた気がして、俺は聞き返した。
「いえいえ、何でもないです。たまたま出会った、エルフの回復士さんを連れてきました。ちょっと診てもらいましょう!!」
すると、いかにもな白いローブ姿の男が現れた。噂通り、エルフは男女ともに美形が多い。このイケメンが!!
「すでに報酬は貰っている。出来るだけの事をやってみよう……」
エルフは俺の両肩に手を当てた。なるほど、わざと男を選んだな。三井め。
「ふむ、一日寝込めば治る程度までは回復できるな。但し、私は腕が悪い……結構痛いぞ」
えっ?
「ちょ、ちょっと、心の準備が。ぎゃぁぁぁ!?」
こうして、俺は二度目のノックアウトを食らうハメになったのだった。
なぁ、俺なんか悪い事したか?
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