第7話 ファイア・ボール!!(兵器)

 さて、いきなり航空支援を受けながらの戦闘だ。どこかにいる狙撃手を見つけないと、俺たちはこのまま釘付けである。俺は無線のスイッチを切り、辺りの気配を探った。第六感なんていうと嘘っぽいが、戦闘モードの俺は目に見えない何かを探り、ギリースーツで身を隠した狙撃手を探す。ああ、ギリースーツというのは、姿を巧妙に隠すために迷彩服の上に様々な細工をしたものだ。狙撃の達人になると、目視で発見する事はほとんど不可能に近い。

 と、いきなり姐さんがバレットを撃った。悲鳴すら上げず、ガサガサと何かが落ちてくきた。

「狙撃手排除」

 姐さんが一言つぶやいた。おおう、クール!!

「よし、それじゃ行くぞ!!」

 俺たちは一気に森の中に突入した。すると、いるわいるわ。自動小銃で武装したオークの大軍が一斉攻撃をかけてきた。中には対戦車ロケットを放ってくる者までいて、全く肝が冷える戦いである。

「囲まれています!!」

 三井が叫ぶが分かっている。くそ、こんな事なら全員に自動小銃を装備してもらうべきだった。ああ、自動小銃というのは、まあ、いわば連射出来るライフルだ。歩兵の基本装備である。有名どころではM-16とかAK47が知られている。映画にもよく出てくるので、名前は知らなくとも見たことはあるはずだ。

「柏原、こっちの援護を頼む。ポイントは……」

 俺は森の中央付近にいるはずの柏原に指示を出した。

「了解しました。すぐに向かいます!!」

 一分も掛かっていないだろう。すぐさますっ飛んで来た柏原のヘリは、機関砲で根こそぎオーク共を吹っ飛ばしていく。そして……。

「ファイヤ・ボール!!」

 おまけとばかりにロケット弾の一斉掃射。一瞬焦ったが、魔法ではなかった。気持ちは分かるが……それは魔法ではない。ただの兵器だ。

『こんなところでどうでしょうか?』

 柏原が言った時だった。殺戮の生き残りだったらしいオークが、ヨロヨロと立ち上がった。そして、手にしていた筒状のものを上空に向け……ヤバい!!

「柏原、待避!!」

 俺が叫んだ瞬間、それは発射された。携行対空ミサイルだ。姐さんが腰だめにバレットを撃ってオークを粉々にしたが、もう遅い!!

 しかし、柏原の反応は俺たちより数段早かった。おおよそヘリとは思えない機動で空を駆け、大量のフレアを撒き散らした。フレアというのは、熱線追尾式のミサイルを避けるために放つ火炎弾。オークが放ったミサイルは、その火炎弾の群れに突っこんで派手に爆発した。

「ったく、あんなもんまで持っているとはな。ここのオークはどうかしてるぜ……」

 オークといえば棍棒的なモノを片手に突撃してくるのがセオリーだが、携帯対空ミサイルまで持っているのは異常だ。

「まっ、考えてもしかたねぇ。このまま突っこむぞ!!」

 途中で出会ったオークを何もさせないまま倒しつつ、俺たちは森の中心部に近づいていく。そして、ほどなく開けた場所に出た。

「ほう、ここまで……」


 ドカーン!!


 なにかこう、ボス的な者が現れたが、姐さんが12.7ミリで粉々に粉砕した。酷いぜ姐さん。せめて口上くらいは……。

「まぁ、いいか。さて、残りをぶちのめすぞ!!」

 柏原ばかりに仕事させるわけにはいかねぇ。俺たちはオークを求めて森の中を進む。当然、罠などの警戒も怠らない。この調子じゃ、地雷くらい持っていても不思議じゃねぇからな。

『間もなく接敵します!! 12時方向。距離100メートル』

 上空の柏原から警告が入る。12字方向。真っ正面か……。

「荒木、一掃射してやれ!!」

 背丈の高い草に阻まれ相手の姿は見えないが、ラ○ボーは雄叫びを上げながら軽機関。を撃ち始めた。……いや、雄叫びは要らん。

 ギャアギャア叫ぶオークの声を聞きながら、おれは柏原に聞く。

「他にオークはいるか?」

『ほぼ壊滅ですが、殲滅となるとまだ残党がちらほらいます』

 柏原から即座に返事が返ってきた。所詮改装を続けて厚化粧した戦闘ヘリだろ? とナメてはいけない。コイツは米軍の海兵隊向けにバリバリ弄られた機体で、もはやコックピット周りしかオリジナルではないという、ほとんど新型機なのだ。アパッチより性能は一歩落ちるが、「神の目」とでも言える装置が取り付けられるので、こういった索敵では心強い。

「柏原、ナビ頼んだ。あんまり働かせちゃ悪いから、掃討はこっちでやる」

 場所さえ分かれば、こちらで処理する。ヤバかったら呼べばいい。

『了解しました。近くでいうと……あれ? この赤外線画像は……戦車です!!』

 ……冗談だろ?

 そう思った俺だったが、盛大なエンジン音と細い立木がバリバリと押し倒される音が聞こえてきた。

「全員どっかに身を隠せ!!」

 俺たちのように徒歩の連中を相手に戦車など愚の骨頂。単なる的にすぎないのだが、追い詰められて出したかったのだろう。ただの的とはいえ戦車は戦車だ。砲塔が丸いキュートな? T-55。博物館ものの旧型。姐さんのバレットでもエンジンを叩けばイケそうだが、柏原が黙っていなかった。

『フフフ、こういう的を待っていたんです。いくぜ、バースト・フレア!!』

……いや、それただのヘルファイヤ。兵器です。そして、人格崩壊してます。

 現用ミサイルはダテではない。オークが繰り出してきた戦車は、あっさり潰された。せっかくいいオモチャが出てきたのに……。

『あ、あれっ、私またやっちゃいました……』

 無線から元の人格に戻った柏原の声が聞こえてきた。

「まあ、いいって事よ。とっとと掃討を済ませよう……」

 こうして、俺たちは丸1日掛けて大掃除を終え、とりあえず村に戻ったのだった。


 夜の移動はあまりお勧め出来ないと村長に言われ、疲れていた事もあり村に一軒だけあるという宿に泊まることにした。今日は土曜日。時間はまだある。

「お互い、夜は頑張ろうな」

 ラ○ボーがこっそり耳打ちしてきたので、とりあえず蹴りを入れておいた。優しくて純朴そうな顔をしたゲスめ!!

 部屋で二人きりになった途端、三井が俺に飛びついてきた。少し長めのキスをしたあと、三井がそっと俺の服を脱がしていく。……ちょっと待て。さっき食った晩飯がキツいんだが……。

「ねぇ……」

 三井のやたら艶っぽい声が、なにか怖い。

 そう、俺は子供なのだ。分かってらい!!


「いってぇな。全く……」

 思い切り首を寝違えた。アイツは寝相が悪い。ぞれだけだぞ。

 朝早く起きた俺は、部屋からそっと出て村の散歩に繰り出した。朝靄が出ている。

「ふむ、ただのボロい建物が幻想的に見えるな……」

 石作りの家に朝靄がかかると、ここまで雰囲気が変わるもんなんだな。

「素敵な風景ですよね」

 おわぁ!? 三井じゃねぇか!! 起こしちまったか……。

「ま、まあ、幻想的ではあるな。じき晴れちまうだろうが……」

 二人で景色を楽しんでいると、足音が聞こえた。

「おや、こんな早くにどうされましたか?」

 そこに現れたのは、すでに顔を合わせている村長だった。

「おや、その手にあるレミントンはどうされましたか?」

 ニコニコ笑顔の村長は、オーソドックスなライフルを持っていた。レミントンM700。スポーツ射撃や狩猟、軍用にも使われる名銃である。

「いえ、大した事はないんです。オークがいなくなった今、ちょっとあなた方には死んで頂きたいと思いまして。金貨1000枚なんて出せるわけないですよ」

 村長が俺に銃口を向けた瞬間、やや背後にいた三井が素早くグロックの引き金を引いていた。額の真ん中に穴が開いた村長は、そのまま崩れ落ちた。

「排除。フフフ……」

 どうした、怖いぞ三井よ。お前、そういう奴だったのか。なんか、ヤバいな。まあ、いいけど。

「さて、早々に出発しましょう。この村は、多分ヤバいです」

 お前もヤバいが、三井の提案に俺は頷いた。長居は無用だ。

「でもな、その前にやる事がある。慈善事業じゃないんだからな」

 俺は三井の頭を撫でた。


 俺はハンヴィを初心者の街に向かって走らせていた。上空には柏原の攻撃ヘリ。荷台には村中からかき集めた、なんかこう金目の物っぽい奴が満載だ。まるで強盗だが、村長がセコい事を考えたからこうなったのだ。ああ、もちろん、村長宅は根こそぎ剥いできたぞ。

『七時の方向から大軍。装甲車を主体とした集団です。恐らく、盗賊ですね』

 柏原の声が届いた。下手な魔物より面倒、それが同じ人間だ。初心者の街周辺は慣れていない者を狙って、とかく盗賊が出やすいエリアなのだ。

「柏原、ヘルファイアの雨でも降らせてやれ。まだ残っているだろ?」

『はい、あと十発残っています!!』

 言うが早く、ヘリは戦闘態勢に入った。ここからは見えないが、向こうには視界外から敵を発見出来る便利な装置がある。そして、ヘルファイアの射程は長い。こっちが見る前に、相手は粉々になるだろう。

 バシューっともの凄い轟音がこちらまで聞こえ、柏原のミサイルは彼方まで飛んで行った。味もなにもないが、装甲車に乗っている盗賊など、真面目に相手にする方がおかしい。そう、帰るまでが依頼なのだ。

『前方に障害物。別働隊と考えられます。さっそく排除……!?』

 柏原がそこまで言ったとき、ヘリは大きく旋回しながら急上昇した。前方から白煙をたなびかせ、何かが飛んでくる。対空ミサイルだ!!

 その頃になると、前方にバリケードを築いている馬鹿野郎共の姿が見えてきた。柏原の戦闘ヘリは待避行動中。俺たちだけでやるしかない。

 ハンヴィから飛び降りて、街道の石畳の上に伏せる。辺りは青々と背の低い草が広がる草原だ。身を隠す場所はない。向こうからも丸見えだろう。

 双眼鏡で確認すると、木で造られた即席バリケードの周りに、何かの拳に出てきそうな連中が5人。そのうちの一人がこちらに向けて……やば、対戦車ミサイル!?

 ズドーンともの凄い音と共に、姐さんが対戦車ミサイル野郎を粉々にした。セミ・オート式のバレットは素早く次の目標を吹き飛ばせる。5発入りのマガジンで相手は5人。偶然だったが、ちょうどピタリだ。この距離だと、全ては姐さんの腕に掛かっている。ここから、約二千メートルあるのだ。普通の銃では届かない。

 ちなみに、ライフルには大きくわけて二種類あり、一発づつガシャコンとやるのをボルトアクション式といい、一発撃つと次弾が自動的に装填されるタイプをセミ・オートという。ボルトアクションは面倒だが精度がいいとされ、狙撃銃は大体この方式ではあるが、軍用は結構セミ・オートが多い。

 まあ、それはともかく、姐さんの腕は凄まじかった。確かに二千メートル先の標的を撃てる能力がある銃ではあるが、訓練を積んだ狙撃手でも一発クリーンヒットは難しいとされる。

 それを、当たり前かのように、涼しい顔で事もなげに撃ち抜いていくのである。間違っても、姐さんを敵に回さない方がいい。今はラ○ボーまで付いているからな。間違いなく消される。

「よし、こっちは片付いた。柏原は……」

 無線で呼びかけたが応答はない。この状況で、楽観視もいい予感もするわけない。俺はハンビーの屋根に上り、双眼鏡で辺りを見回す。すると、草原で激しく炎が上がっている場所を見つけた。

「いた、行くぞ!!」

 全員が素早くハンビーに乗り込み、道なき草原を突っ走った。正直……厳しいかもしれん。

 現場に到着すると、そこは悲惨な墜落現場だった。燃え上がる炎で乗員の安否確認も出来ないが、とてもこれでは……。

 なんの考えもなし、反射的に飛び出そうとした俺を、必死に止める三井。姐さんが素早く救難信号を示す信号弾を上げた……。


 さて、言いたくはないが、結果だけ言おうか。柏原は死んだ。その遺体は酷いものだったが、ドッグタグという首に下げる金属の名札みたいなものが決め手だった。

 そう、ここは異世界。誰にも平等に生命の保証はないのだ。

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