第5話 リスナー


「ユイ…ちゃんて言うの?」

ユイの前に立っている少女は続けて話し掛けた。


ユイは少し間を開けて頷いた。


その時、ゴーンゴーンゴーンと低い、地響きの様な音が聞こえて来た。


「ユイちゃん!来るよ!」

「えっ!?」


少女はユイの手をグイッと引き、建物の外に引っ張った。

ユイはラジオを片手に持ち、引っ張られるがまま外に飛び出した。


その時ラジオのアンテナが小さな鞄を引っ掛けた

人気のウサギのキャラクターが書かれた赤いバックだった。


ゴゴゴゴ…ゴゴゴゴゴゴ


地鳴りと共に大きく地面が揺れた。

「きゃあっ!」

ユイは頭を押さえ、しゃがんだ。


「ユイちゃんダメ!走ろう!危ないから!走ろう!」

少女は上を見て、コンクリートなど落ちてくる物が無いか確認をしていた。

こんな状況でも、少女は冷静だった。

ユイはそれを見てアニメの主人公に重ねていた。

なら自分は美少女ヒロインなのか…そんな事を考えていた。


目の前にゴンッと大きな石が落ちて来た。上を見ると看板や電線も落ちてくる。

そんな中を少女に手を引かれ走るユイ 今はこの子を頼るしか無かった。


「……ハア、ハア…ハア、…おさまったね地震」

「……ハアッハア…うん…ありがとう。えっと…」

ユイは少女の目を見た。

「私は知子よ。木ノ瀬 知子」


「ああ、知子ちゃん…ありがとう」

ユイは赤くなりすぐ目を逸らした。


「…私パジャマだけど、ウケるよね。」

「え?別に、可愛いじゃん。」

ユイはそう?みたいな顔をしてまた知子の目を見た。


「私は結よ。山下結」

「ともちゃんはいくつ?」

そう言ってユイはあっと口に手を押さえた。

「良いよ、学校でそやって呼ばれてたから」


「そう、ありがと…最初、何でユイの名前分かったの?」

知子は不思議そうな顔をして首を傾げた、少ししてニッコリ微笑み言った

「自分で名前言って泣いてたじゃん」

ユイはそれを聞いて顔が真っ赤になった。


「でも良かった!ともちゃんと会えて、ずっと1人だったから不安だった」

知子も笑顔で頷いた。


「ユイちゃんもリスナーでしょ?」

「えっ!?何それ?」

知子の問いかけに意味が分からず口を開けたままになった。


「リスナーだから、生き残ったんでしょ?聞いてないの?」

「リスナーって何なの?」

「このラジオを聞いている子だよ。さっきラジオに雑音が入ったからてっきり…」

知子は肩から掛けていた自分のラジオを指でトントンッとした。


そのラジオの側面には「12」と書かれたシールが貼ってあった。







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