第3話 嘘



「神様嘘です。ごめんなさい。」

「みんな無くなれば良い何て嘘です。お願いですから元に戻して下さい。」


ユイはあれから何百回も心の中で叫んでいた。

身体中の水分も無くなり、流すべき涙も枯れていた。


あの大地震から3日経ち。両親は建物の下につぶされてしまった。


ユイは1人砂漠の中を歩いていた。

砂漠とは大袈裟だが、ユイにはそう思えた。

3日前まではあった家や公園、近くのコンビニ、学校、全てが無くなっていた。


何故自分なんかが生き残ったのか?特別な子供でも無い自分が?

頭も良くない、スポーツも不得意、カラオケも上手くない自分が?


LINEやツイッターで冗談も言えない自分を今更後悔していた。

たとえ練習しても、もう誰にも冗談を言えないのだから。


携帯も壊れてしまった。あちこち擦りむいていた。

風に舞う砂埃とあちこちで燃え残った家財等の煙や灰が目に入る。

中には人の焼けた……ユイは何度も嘔吐した。


「嫌だ!嫌!もういやだ」

ユイはまたうずくまって震えた。両親も友達もいない。

地球で一人ぼっちの感覚になった。


どこに行くあても無く、自分の家(であったであろう場所)にパジャマ姿で座り込んでいた。


「もし友達が来たら はずいな。」

ほんの少しの希望と、期待を込めてパジャマ姿の自分を見られる恥ずかしさが

頭をよぎる。もうそんな事も無いのは分かっていた。



座り込んで少し眠っただろうか、今何時かは分からない。


『ガガガ…ガガ…』

何かの音に気付いて目を覚ます。


後ろを振り返ると、グシャグシャになった家財の下から聞こえる。


「あ!」


ユイは説明しようの無い期待感が芽生えた。心はポッと寒い部屋にストーブが着いたあの感じと同じだった。


ガサガサガサ!


一心不乱に粉々になっている家財をどけた。

指から血が出ようが爪が割れようが気にしなかった。

痛みより今の状況の方が苦しかった。


『ガガガ!ザー…』


ようやく掘り出した物はラジオだった。いつも聞いていたラジオ。

何日も離れていた家族に出会った気分だった。


「ううっ…グスッ。」


いつも自分が使っていた物を見つけ、まだ動いている。

ようやく自分が存在し、生きている実感ができた気がした。

枯れていたと思っていた涙がブワッと流れてきた。


ラジオを抱きしめ、自分がさっきまで居た場所に戻る。


ラジオは電池式の古いラジオ。電池式で良かったと思った。

ユイはアンテナをギリギリまで伸ばし、届くはず無い放送を待った。

あらゆる周波数に合わせてみた。


いつも聞いている周波数にも合わせてみた。

普段は聞かない周波数やデタラメな周波数も試してみた。

まるで無人島でSOSを出している映画のヒロインみたいだった。


人の声が聞きたくて、必死になっていた。

今地球はどうなっているのか?日本は?学校の皆は?

少しでも情報が聞きたくて、はやる気持ちで胸がザワザワしていた。


結局何時間待ってもラジオは砂嵐のままだった。


「何でなの…誰か助けに来ないの?日本はどうして何もしてくれないの?」

再び絶望がユイを襲った。


『ザーザザッ!……の…が』


「えっ!え!?」


ユイは慌ててアンテナを握った。途切れそうな糸を掴む気持ちだった。

それはいつも夜電波が悪い時に握ったら音がよく聞こえたからだ。

原理はどうしてなのか自分では分からないが、そうしていた。


「んー!んー!」

力の限り握った。強く握れば音が聞こえると思って握った。


『ガガガ……こんにちは!あやのんです。』


「あっ聞こえた!!」



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