第2話 始まり



『おはようございます。9月14日火曜日、岸谷綾野です!

 今日もハッピーな1日で行きましょうね』


『今日のラッキーアイテムは……』


(あーラッキーアイテムは赤い帽子かぁ……無いな)


ユイは毎朝学校へ行く準備をしながらラジオを聞く習慣になっていた

番組名も知らないナビゲーターも誰だかよく分からない。

ただ、優しい声が好きだった。

毎日聞くうちに親友の様な親しい関係になっている気がした。


「お母さーん! 今日はお弁当できてる?」


部屋に向かって呼んでみるも、母からは返事は無かった。

机には500円玉が置いてある。これが母からの返事だった。


「ユイ。お母さんは調子悪いんだから、あまり大きな声を出すなよ」

父は新聞を読みながらユイに注意をするが、父親の言葉を無視していた。

(調子が悪いのはお父さんのせいなのに…)


憂鬱な気持ちで制服に着替え、紙を赤いリボンで結び、玄関を出た


外は真っ暗な雨が降っていた。


ユイはハアっ…と溜め息をつき、重い足どりで学校へ向かう。

(全部面倒くさい。家族も友達も学校もLINEもツイッターも)

ぽつぽつ地面に落ちた雨が丸い波紋を作っている様子を見つめながら思う。


「全部無くなれば良いのになあ…」


勿論冗談だったが、あえて小声で口に出した。

神様がこの哀れな少女の願いを聞いてくれないか

こんな自分をもう少し幸せにして欲しいと願いも込めていた。


学校に着いたユイはクラスメイトが話している話題に少しワクワクした。


「日本終わりって掲示板知ってる?」


ユイは通りすがりにチラッと話している女の子を横目で見た。

彼女はスマホを出して何かのサイトを見ている様だった。


「えー…2ちゃんの終わりラジオって話でしょ?都市伝説じゃないの?」


ユイはもう一人のクラスメイトが発した「ラジオ」と言う言葉に少し反応したが、自分の席に座り、鞄を横に降ろし、黙って空を眺めた。

(後から見てみるか そのサイト)

雨も激しくなり、空はさっきよりどんより真っ暗になっていた。


ふと何かに気づき校庭に目をやると、校門の所に女性が立ってこちらを見ていた。

髪が長く、細身で、綺麗な女性だった。


(何あの人…私を見ている? 何だろうちょっと怖いかも…)

ユイはすぐ教科書に目をやり、女性を見ない様にした。


少しして気がつくと、女性は消えていた。




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