海のチャペル

蒼野海

あなたへ

 あなたへ


 おはよう。朝起きて私が居なくて驚きましたか?ごめんなさい。マリッジブルーとかではありませんよ。駆け落ちなんて昼ドラ展開でもありません。私はあなたと出会って、結婚出来て、今日式を挙げられて幸せです。心の底から。

 今私は、外にいます。ちゃんと帰るので、それまでにこの手紙を読んで下さい。

 さて、この手紙は2つの事をあなたに伝えたくて書きました。長くなりますが、どうか付き合って下さい。まあ、読書家のあなたならば、すぐに読み終わってしまうでしょうけれど。


 ではまずひとつめ。あなたと出会う前の私の話です。私が高校生の時、親友が亡くなりました。自殺でした。彼女が命を絶つ直前、彼女は私に電話をかけてきていました。その電話で、気づいていたんです、私は。彼女がこの後死ぬつもりだと。けれど、止めませんでした。最高に幸せな時に死ぬというのが、彼女の決めたことだったから、私に止める権利なんてないと思ったんです。彼女は電話口でいつもと同じように話し始めて、いつもと同じように電話を切りました。いつもと違ったのは、風の音がずっと聞こえていたこと。最後に電話をかけてくるということは、止めて欲しかったのかもしれないと後から考えました。若かったんです。私も、彼女も。それだけで片付けてはいけないのかもしれないけれど。

 彼女の部屋には遺書がありました。私に宛てては、「海に連れて行って」と書いてありました。なので、私はご両親に遺骨を分けてもらって海に撒きました。

 今回、海が見えるチャペルで結婚式がしたいと言ったのは、それが理由です。幸せを抱きしめて死んだ彼女に、私の幸せな瞬間を見て欲しかったからです。

 何だか罪の告白のようになってしまいましたが、後悔はしていません。海にこだわる理由をずっと教えていなかったので、ちゃんと知っていて欲しかったというのが書いた理由です。重い話でごめんなさい。繕っても良かったのですが、それも違うような気がして。


 次にふたつめ。あなたと出会ってから今までの話です。仕事で初めて会ったあなたは、女性が苦手でしたね。10も年下の私にもずっと敬語で、人見知りも相まってか、とても話しづらそうでした。かく言う私も初めてのお仕事だったので、膝が笑うほど緊張していたんですよ。知ってましたか?あなたの第1印象は、「賢くて優しい人」でした。言葉選びが上手だったので。

 その夜、他の人も含めてご飯を食べに行きましたね。私はまだお酒を飲めない歳でした。たまたま隣同士に座って話していくうちに、少しずつ打ち解けていって、どういう訳か、次会う時はちゃんと話せるね、なんて話していたのを覚えています。

 それから3年経って、私が成人した日。あなたはお酒を飲みに連れて行ってくれました。それまでにも1ヶ月に何度か仕事で会う機会があったけれど、2人きりでどこかに行くのは初めてでしたね。そこで、あなたに告白されました。あなたはあまり器用な方ではないだろうと思ってはいましたが、あんなにストレートに告白されたことが無かったので、大変照れましたよ。でも、とても嬉しかったです。一目惚れと言われたのは驚きでしたが。成人まで待ってくれてありがとうございます。私もあなたがずっと好きだったので、法律に引っかかったりはしなかったんですよ。なんてね。

 それはさておき。

 10代で仕事を始めた私にとって、同じく10代から仕事をしているあなたは尊敬の対象でした。その尊敬がより大きくなって、不器用で、真っ直ぐで、口下手なあなたを好きになって、もう5年経ちます。あなたに釣り合うにはまだ背伸びをしても足りないけれど、そんな私でもいいですか。私は、大好きなあなたと幸せになってもいいんですか。

 大好きです。これ以上ないほどに。幸せです。嘘が下手で優しいあなたとこれからも一緒に居られる幸せを噛み締めて、あなたを支えられる人になります。

 ありがとうございます。結婚してくれて。これからも、よろしくお願いします。


 やっぱり長くなってしまいましたね。読んでくれてありがとうございます。

 あなたの事を親友に話し終わったらちゃんと戻りますよ。朝ごはんでも食べて待っていてくださいね。

 それでは。

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海のチャペル 蒼野海 @paleblue_sea

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