カクヨムアンダーグラウンド vs カクヨム看板作家

ちびまるフォイ

そして深淵へ・・・

カクヨムを初めて数年。

書籍化も成功し、WEB小説では常にランクイン。


とめどなく応援コメントと開くたびに増えるフォロワー。


「ふふ、さしずめ俺はカクヨムの王ってところだな」


今日もほかの作品を読み進めていると、

作品に気になるタグがつけられているのが目に入った。



[カクヨムアンダーグラウンド]



「……なんだこれ? なにかの新企画か?」


クリックすると共通のタグ登録が行われた作品がずらり並ぶ。

どれもジャンル、長さ、書き方に一貫性はない。


ただひとつだけ共通点がある。


「こ、こんなの何考えて投稿してるんだ!!」


どれを読んでも同じような感想が出る。

安いエロや、雑な暴力描写とはまるでちがう。


"作者の頭がおかしい"


そんな作品が「アンダーグラウンド」の中に溢れている。

まさに狂気。


恋人を壁の中に埋めて部屋と一緒に過ごす男の話や、

全部の人間の皮膚が裏返り別人になる世界の話、

スマートフォンが世界にあふれ、人間が端末化されている話……などなど。


「こんなの……コメントできねぇよ」


それもそのはず。

どの作品にもレビューはおろか応援コメントはつかない。



★0



誰にも注目されず、誰の目にも届かない作品。


「ようし、カクヨムの王が直々に作品を紹介してやろう」


その中のひとつの作品にコメントを付けた。

こんな底辺作家のことだからコメントで有頂天になり、

ひいては俺の狂信的なファンになってくれるだろう。印税あざーす。



>プロの作家として活動している当方ですが

 この作品は及第点として紹介できるレベルです。



「これでよし。どんな反応してくれるかな」


犬みたいに尻尾振ってお礼フォローしてくれるか。

それともお礼コメントか。レビューだろうか。


結果はそのどれでもなかった。



>このコメントは削除されています。



「はぁあああ!? なんで俺のコメント削除されてんだコラァ!!」


俺のコメントが削除されたことで小説の評価はふたたびゼロへ逆戻り。

せっかく、プロ作家の俺が評価してやったのにそれを消すなんて正気か。


すぐに作者へ連絡を取る。


「おい、どうして俺のコメントを消したんだ!」


「はい。僕らはアンダーグラウンドで作品を投稿していますから。

 評価やレビューをされると活動できなくなるので不要です」


「ふ、不要?」


「カクヨムの表で掲載されている作品の多くはテンプレです。だからいい。

 僕らは自分たちの自由で、身勝手で、独創的なものを描き続けられるんです。

 でも注目されればこれがスタンダードになってオリジナルは生まれない」


「つまり……"誰も見てない"って状況だから好き勝手に書けるってことか?」


「はい。ですから評価はいらないどころか、創作の邪魔です」


カクヨムの王のコメントを邪魔だと……?

こいつ何様のつもりだ。


「てめぇら底辺作家が粋がってんじゃねぇよ!!

 評価もされねぇクソを量産してるくせにお高くとまりやがって!!


 読んで評価されたから一流なんだよ!!!

 評価もされねぇクソ作品なんていくらでも書けんだよ!!!」



「評価されるテンプレ作品だけ作ることを、僕らは創作ではなく量産と呼んでいます」


「このっ……!!」


よくあるエッセイでのテンプレ批判なら「うるせぇザコ作家」と一蹴できるが、

アンダーグラウンドの奴らは妙に意識が高い。そこがますます腹が立つ。


「俺にそんな口を聞けるのも今のうちだ。崇高な創作活動(笑)を続けてるんだな」


「はい、喜んで」


アンダーグラウンドとのひと悶着を終えてすぐに運営へと連絡する。

通報理由なんてなんでもいい。


大事なのは「あの看板作家が通報してきた」ということ。


書籍化までしている俺からの通報とくれば運営も無視できない。

底辺作家と売れっ子作家の影響力の違いを見せてやる。



これでアンダーグラウンドも終わりだ!!



「ああ、カクヨム運営ですか? 実は問題のある作品を見つけました」


「問題のある作品?」


「そうですねぇ、公序良俗に反するというか……。

 まぁ、読んだ人の気分を害するのは間違いないです。

 事実、俺はすごく気分を害されました」


「なるほど。それで、私どもになにをしてほしいんですか?」


「カクヨムアンダーグラウンドの作品をすべて消してくれ。

 データの藻屑にすれば頭も冷えるだろうよ。

 底辺作家の妄想の掃きだめなんて消して差し支えないだろう?」


「…………はぁ」


運営のやや後ろ向きな姿勢を察して俺は脅しをかける。



「なぁ、運営さんよ。カクヨムを背負う人気作家ひとり失うのと、

 底辺作家の落書き帳を消すのと、どっちがいいかはわかるよな?」



「わかりました。では該当の作品を削除しましょう」


「っしゃあ! やっぱりカクヨム運営は話がわかるな!

 それじゃ跡形もなく消してくれよ!!」


「ええ、ですがその前に……」


運営は静かに告げた。



「あなたの作品に含まれている

 アンダーグラウンド作品との類似部分もまとめて削除します。

 ちょうど……100話分でしょうか?」



「ち、違う! これは作品を読んでインスピレーションがわいたってだけで……」



「どうしますか? アンダーグラウンドを残して新たな発想の畑にするか

 もとのさら地に戻すのか」


答えはひとつだった。



「すみません……残してください……」




カクヨムアンダーグラウンド。


人知れず誰からも評価されない奇作がひそむ魔窟。

今も誰かがそっと深淵に投稿し、誰かの作品の隠し味になっている。



あなたも時々のぞきに来てください――。

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