第20話

ペットロスというのは、可愛がっていたペットを亡くした悲しみで

陥る深刻な心因性の鬱状態の事ですが、自分にはその様な方々に是非

お伝えしたい実体験があります。

父が転勤族だった為、ペットは小鳥等の小動物ばかりで好きだった

犬なんかは飼えませんでした。

でも、中学から母の実家に住む事となりここには、伯父が買って来

たカニクイザルや、すぐ死んでしまいましたがおバカな雑種犬とか

がいました。サルは、後から来た自分や子供等は全くなめて掛かり

態度がデカくて自分には懐いてくれませんでした。

都内の大学を卒業後実家に戻り、生まれて初めて念願の自分の犬が

飼える事となり、さらにチャボも数羽飼育したりと動物と一緒に暮

らせる生活が始まりました。

ペット犬は、小さなポメラニアンの雌でしたが中々に利口で、私を

小馬鹿にしていたりとまるで姉妹の様な間柄でした。

それから何年も過ぎ、彼女は11歳でとうとう病死してしまいました。

丁度、阪神淡路大震災の日の朝、自宅で息を引き取りました。小さ

く、軽くなって…。生まれて初めての自分のペットとの死別は、想像

以上にショックで、普段は低血圧気味の私が高血圧の薬を処方される

程でした。

それ程悲しい思いをしたというのに、時間とは実に薄情なものです。

いつしか、悪いけど犬の事とも思わない様になっていました。

そんなある日の事…。和室で昼寝をしようと布団に横になりました。

ふかふかの高級羽毛布団を掛けて目を閉じると、暫らくして自分の

掛布団の左端の足元の方から、「ボスッ、ボスッ…」と布団を踏んで

何者かが私の胸元の方へと上がって来ます。てっきり「目を開けると

そこには白髪のお婆さんが…」なんて事を想像して身を固くしました。

すると、襟元で私を覗き込んでいるのは犬でした。あのペットの犬で

す。その喉の辺りに白い毛がちらほらあるのも見えました。犬も年を

取ると黒い毛も白髪になりますが、それが目の前に見えます。

犬?●●ちゃん?!と意外な訪問者に呆気に取られていると、不意に

消えて行きました。重さも感じ、あまりのリアルさに呆然としましたが

そんな事も忘れた頃、偶然全く同じシチュエーションで布団を踏みなが

ら何かが上がって来るのを感じました。今度は冷静に「お婆さんだった

ら、もっと凹み方が大きいよね、小型犬だからこん位だね…」等と分析

したり出来ました。やはりペットの犬でしたが今度は何かを咥えています。

よく見るとそれは、生前買い与えていた犬用のボールでした。犬はチョコ

レートの匂いが好きだというので、スペイン製のチョコフレーバーの付い

たボールを買ってやったのですが、舐めたり齧ったりする内、匂いも薄れ

た為、二代目のボールを買ってやりました。最初のは赤で、二個目のもの

は青いボールでした。どちらかな?と思って見ると、青い方でした。

それを頻りに私の喉や首筋に押し付けて来るので、よだれでべたべたになり

ました。何と、幽霊犬によだれを付けられたのです。少なくとも、濡れて冷

たいと感じたのは事実です。本人(犬)が悪戯っぽい表情だったので、遊ん

で欲しいのかなと思い、ボールを受け取って寝たまま自分の右斜め上方へ手

を伸ばすと、それを追う様にしてそのまま消えました。

やはり、人も動物にも霊魂はあるんだなとしみじみ思い知った体験でした。


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