第8話

ごく近い親戚の体験です。

私よりいくつか年下の男性ですが、都内でグラフィックデザイナーをしています。

彼は、理系の大学を出てコンピューターや事務機器に囲まれた近代的なオフィス

で仕事をしていました。タイプも典型的な左脳人間で、理系の現実主義者です。

今も、当時とは別の社で同じような仕事をしているらしいのですが、前の社で働い

ていた時の話です。

本人のも含め突然オフィスの機器から煙が上がるは、トイレで女性のすすり泣きの

声が聞こえるは等、明らかに尋常ではない異変が起こり始めたそうです。

会社の全員が首を捻っていました。一人の例外を除いて…。

そんな中、決定的な恐怖が彼を襲いました。

デスク脇の「ドア」が、ギィ~っという不気味な音とともに開き、バタンと閉まりました。

彼はそちらを見ないように、というか固まって身動きも出来なかったと言います。


なぜならそこは、ただの壁でドアなど無いからです。

横目で恐る恐る自分の脇を見やると、そこにはブラウン系のズボンと靴を履いて、

ベルトをした男性が立っていたんだそうです。それ以上は分かりません。

ベルトから上には何も無かったからです…。


有るはずのないドアから入って来て、有るはずの上半身の無い男性はそのまま

再び、そのドアから出て行ったんだそうです。


同僚の中にはこの男性の全身像を目にしたという者もあったようです。

私は、この話を聞いて、まだあんたは一部分しか見えてないんだからそんなに気に

しなくても良いんでは?等と眠たいことを言ってしまいましたが、却って一部の方が

やっぱり、怖いですよね。


話の続きの極めつけは、社長室に入った時です。


部屋の壁全体には、隙間なく無数の御札が貼りまくられていたと言います。

話では、前のオフィスでもこういう現象があり、場所が悪いんだろうというので、ここ

へ移ってきたんだそうですが、怪現象は収まるどころかレベルアップしているのです。

つまりは、それは場所にではなくて、社長自身に原因があったという事を意味しています。

事実関係を理解していた、唯一の例外とはこの社長さんなわけです。


話では、随分と人使いの荒い問題のある人物だったようで、何か人の恨みを買ったという

様なこともあったのかもしれません。

本人にも、こんな会社辞めろ、辞めろ!ときつくアドバイスをしておきましたので、多分今は

同じ業種であっても、別の所で働いてると思います。

でも、先日突然本人が、些細な怪我から危篤になり、心配しました。

幸い今現在は快方に向かいつつあります。





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