第2話 その笑顔で
「うわぁ~、先客がいたか~」
声のする方を見るとそこには私と同じく、本を片手に持った男子がいた。
察するに彼も読書しに来たのだろう。
「まぁいっか。横、失礼するよ」
そう言って彼は私の横に腰かけた。
一瞬ビックリしたが邪魔になるわけもないので気にしなかった。
横をちらっと見ると彼も読書を始めていた。
彼の読んでいる本は私が以前読んだことがある小説だった。
内容自体は悪くはなかったが少し消化不良気味になった。
しかし彼はその本をよっぽど気に入っているのか、その本はかなり読まれている跡がある。
私は少し意外な気持ちになったが、自分の本へと戻った。
「お前も本が好きなのか?」
すると彼が口を開いて問いかけてきた。
YesかNoで答えるシンプルな質問だ。
だが私は答えなかった。
私は他人としゃべるのが極端に苦手である。
他人としゃべると基本皮肉しか言われない。
だから小さいころから他人としゃべるのを拒み続けた。
しゃべるのも必要最低限にと決めていた。
「無視か~。キツイね~」
彼は笑ってそう言った。
普段ならすぐに立ち去るのだが、何故だろう....悪いような気がしなかった。
皮肉を言われているような気がしなかった。
それから数分、私はずっと考えた。
彼とならしゃべれる気がする。
しかししゃべることに抵抗がある。
どうするべきだと考えた。
そして、勇気を出して話しかけることを決めた。
「ね、ねぇ」
私は話すことさえ決めてないのに話しかけた。
話しかけて公開した瞬間である。
「ん、なんだ?」
早く何かを言うんだ私!
このままではただの意地悪になりかねない!
早く何か言わなければ!!
「....そ、その本、私も読んだことあるけれど、そんなに読み続けるほど面白い?」
私にしてはよくやった!
なんかすごくスッキリした気がする。
満足げにしていると彼が口を開いた。
「面白いぜ。俺は頭がいいわけではないから難しいことはわからないけど、これを読んでいると辛いことも忘れるんだよね~」
「辛いことを忘れる?」
私は気になって緊張を忘れ彼に聞いた。
「そう、これを読んでいると人間って小さいものでそんな小さいものに同じ意見なんて求めたらいけないんだなって思わせられる。あれだ、十人十色ってヤツ。そう思うと自分の悲しみなんてこの世界全体から見たら本当に些細なことなんだって思えるんだ」
「十人十色ね....」
私は小さいころから天才だと言われてきた。
常日頃から他人と違っていた。
しかしそれも些細なことなんだと言われたような気がする。
再び読書に戻ろうとしたら運悪くチャイムが鳴った。
まだ読み始めてから1ページも読んでいない。
「鳴っちゃったか~。いいとこだったのに....」
そう言って彼は立ち上がってドアに向かった。
「ね、ねぇ!」
私は声を上げた。
「ん?」
「あ、明日も....来てくれる?そ、その....その本について、もっと....喋らない?」
自分自身こんなことを言うのはありえないことだと驚いた。
しかし彼なら対等に話せるような気がした。
「もちろん。俺なら毎日ここにきているから」
そう言い残し彼は屋上を後にした。
彼が見せた笑顔はとても眩しかった。
君に出会えてよかった 荒神 辰 @tatsu0928
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