アイドルファン その1

第20話 ショー

「お披露目会」は公式サイトに配信されたものの、主要メディアで大きく報じられることはなかった。ただインターネット上での知名度は、それと対照的だった。


 - 歌ヘタすぎwわろたwww


 - え?これみんな別々で踊ってんの??笑


 - たしかにダンスひどいな


 - SOPRANOに謝れ


 - すごい学祭の出し物感


 - 客の少なさwww


 - トーク、ちょーギスギスしてね?


 - そろそろアイドルの基準をルール化しようぜ。

 これで金もらってるなんて、ひどすぎ


 - SOPRANOグループ終了のお知らせwww



 アイドルになって半年足らずの少女達が、急にプロレベルで仕事ができるはずもない。はじめから見守っている人達には当然のことが、途中から覗き込む人達には通用しない。

「人前に出る」ということは本来、見せ物として完成していた。けれど今の時代は未完成のものでも、誰もが見ることができる。見る側の人たちの意識は、見せる側の現状に追いついていない。あたかも見せられるショーの全てが完成されていて、質が保証されているものとして見ようとしてしまう人が大勢いる。彼らは自分たちの見たショーに期待を裏切られたとき、やり場のない気持ちを便所の落書きにするのだが、現代ショーの仕組みを知らない彼らは、その便所の落書きでさえもショーになりうることを知らない。

 抱いていた期待が大きければ大きいほど、失望も大きい。失望が大きいほど、落書きショーも過激なものになる。


 どうして未完成のものを、誰もが見られるようになったのか。そもそもそんなものが、人前に出ないようになっていれば、傷つく人達を出さずに済んだはずだ。

 今、私はその問いに対する答えを持っている。未完成のものを見ることは、はっきりいって楽しいのだ。

 お披露目会の前にアイディーさんが言っていたことを、まさにその数分後に体感することになった。ステージ上で繰り広げられていたのは、プロ基準ではひどい質のものであった。宴会芸でも褒められない歌と踊り。それにもたつくフリートークの時間。質の高いパフォーマンスを期待すれば、さぞかし不満な時間だっただろう。

 それでも私は確かに感動していたのだ。“たった半年で”普通の十代の少女達がここまで変わることができるのかと、自然と鳥肌が立っていた。完成されているべきと期待して見るのではなく、未完成であることを求めて見る。正しく言えば、それを見続けていくことはこの上もなく幸福だ。


 パフォーマンス一つ一つは、まだそれだけで人を喜ばせるほどのものではない。けれどFORTEというアイドルグループの物語は、人を感動させる可能性に満ち溢れている。


 - 結衣たん、ちゃんとメイクするようになってる!!かわいい!


 - きれいすぎる真由様の場違い感w


 - 希美一人だけトークの切れ味はんぱない、、、


 - みなみうるさい。だが許す。


 - 馬場ちゃん、歌上手くなってるやん!!


 - 奈緒、緊張しすぎwww がんばれ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る