第19話 太陽の女神
教室がいつもより騒がしい。もしかしたらそれは喜んでも良いものなのかもしれない。けれども私を囲むそれは、小学生の頃に感じたあの風景と何ら変わりのないもののように思えた。
「テレビ見たよ!すごい可愛かった!」
「私も見たー!良かったね!」
知った顔の女の子たちが、見たことのなかった表情で私に声をかける。
「すごいじゃん、写真取らしてくれよ!」
「俺も俺も。これにサインしてよ!」
話したこともなかった男子達。
「久しぶりじゃん!学校最近来てなかったの、こういうことだったの?」
「なんで言ってくれなかったの!?言ってくれれば応援したのに!」
「ほら、この子だよ。ね?一年の頃仲良くしてたもんね!」
同じダンス部だった子達から話しかけられたのはあれ以来だった。
覚えていない顔もあった。それでもその目は全て、仲の良かった友人であることを完全に信じ切っていた。
いろんな方角から浴びせられる言葉のどれにも、しっかりと反応することができなかった。
ただ目の前のそれに圧倒されて前に進むこともできず、教室の入口のところで立ち止まってしまう。
うつむく私に気付いているのかいないのか、声の嵐はとどまるところを知らない。
彼らの顔とは正反対に、悪い夢の中にでもいるような感覚。
覚めたくても覚められない夢の中で、ふいに小さな手が私の背中に触れた。
そっと優しく接しているその手は、色白で整っていて華奢で、それでもそこには確かな力強さがあった。
「じゃまぁー!!」
嵐を起こしている雨雲のそれぞれに、パンチを繰り出すふりをしてかき分けていく。
私の前に道が開き、私はただその道を前に進めばよかった。
私の背中にゆっくり力がかかる左手も、グーの形で攻撃を繰り出す右手も、どちらもやさしい。
私はその両手によりかかる。支えてくれる柔らかさにただ身を任せてさえいるだけで、自分の席まで無事にたどり着くことができた。
「ふう。」
私をここまで導いた手はいつもの可愛らしい姿に戻り、汗ばんだ額を拭うような仕草をしている。
「おめでと、奈緒。」
つぶらな瞳が、真珠のように誇らしげに輝いている。言葉で発されるよりも先に、その目が私に語りかけていた。
「だから言ったでしょ?」
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