カウンセラーの黒鬼

@nagiko

第1話


「助けて……誰か、助けて」


「怖いよ……お父さん!お母さん!」


「なんで、なんで誰も応えてくれないんだ!」


「なんでって……。見てわからないのかい?簡単なことだろう?皆んな死んだからさ〜。」


「な、なんで……?」


「なんで?ぶっ、あっははは!面白い事を言うね!なんでって?ふふふ、全部君のせいだろう?」


「違う……僕じゃない!僕は、僕は何もしていない!全部、お前がやったんだ!」


「うん。喜んでくれたかい?」


「何故……こんな酷い事を……。」


「何故って?君が僕に頼んだんじゃないか!」


「僕は、頼んでいない!お前が勝手に。」


「何を言ってるんだい?君が言ったんだろ?皆んなを殺したいって。」


「違っ……。」


「だから僕がやってあげたんじゃないか。君が、意気地なしだから。」


「違う。僕は……ただ……ぅぅ。」


「泣いたってもう遅いよ?君の所為でこいつらが死んだ事は変わらない」


「……。」


「さーて!次は僕の頼みを聞く番だね!」


「……。」


「僕の願いはね〜。」


「……ろして、くれ」


「ん?なんだい?何か言ったかい?」


「……ろして、くれ」


「だーかーらー聞こえないんだって!もっと大きな声で言ってよ」


「僕を殺してくれ!!」


「やっと聞こえた……それは村人に対する償いのつもりかい?」


「あぁ、そうだ。」


「ふーん。また僕に君の頼みを聞けってことかい?」


「……あぁそうだよ。お前の頼みを聞いてからだってんなら……。」


「いいよ。殺してあげる!」


「……え?い、いいのか?」


「いいよー!僕は君の事が好きだからね。頼みを聞いてあげたいんだ。」


「……そうか。」


「でもその代わり、君の身体を貰っても良いかい?」


「……!?」


「僕の頼みはね、君の体を貰う事なんだよ。その為には君を殺さなくちゃ行けなかったからさー。少し心苦しかったんだよねー。」


「でも、君が殺してくれって言うからさ!うわぁー僕って本当運がいいなぁ。こんな一石二鳥な事なんて滅多にないよ!有難う。」


「こ、う、君!」


「……煩い。さっさと殺して体でもなんでも持ってけ。」


「うん!」


「ちっ」


「有難う。これで僕は『君』になれる。」


「……!?な、何を言ってるんだ?」


「言ったでしょ?君の体を貰うって。」


「……お、お前何するつもりだ?」


「またよろしくね!こ、う、君!」


「ま、まて。お前一体……。」


「あああああああああああああああ」


僕は、『陰』になった……。





「五種神町には古くから五つの種族が住んでいた。『人間』、『妖精』、『獣族』、『女神族』そして『魔族』。五つの力は、特に『女神族』そして『魔族』の力はとても強く、他の三つによって力を抑えられていた。『女神族』は『妖精』に、『魔族』は『獣族』に、そして人間はその両方を。しかし、いつまでも途切れぬ輪というものは無く、力の均衡は遂に崩れてしまった。」

「次、ローガン」

「『魔族』は憎き『女神族』を根絶やしにしたかった。しかし、『魔族』は『女神族』に触れる事が出来ない。『女神族』の光は、魔のモノには強過ぎるからだ。そこで、『魔族』はある種族を使った。それが『人間』である。『魔族』は『人間』の心に住み付き、支配した。心を支配された『人間』は、自我を失い、次々と『女神』、そして自らの種族までも殺し始めた。」

「次、???。」

「…………。」

「おいっ???、次の文章を読め。」

僕は、読みたくない。

「読め!、???」

担任のファルは人狼である。鋭い歯を見せながら僕を怒鳴った。全く……。時間が来るまで、寝ているフリを続けようと思っていたが、無理なようだ。僕は仕方がなく、次の文章を読んだ。

「仲間を殺された『女神族』は怒り、『人間』を殺した。どの種族よりも多かった人間の数は、『女神族』そして『仲間たち』によって減り続き今では4人しかいない。その4人は後に、

【大罪を償う人間】=【リア・シンテス】

と呼ばれている……。」

担任は、にやりと笑って言った。

「よく出来ました。【大罪を償う人間】!」

次の瞬間、僕以外のクラスメイト達によってクラスが笑いに包まれた。

理由は、僕が生き残った4人のうちの1人 。

【大罪を償う人間】だからだ。

見ての通り僕達、『人間』は、全ての種族から嫌われている。否、『魔族』だけには好かれていた。彼奴らは心の弱い僕達の心が大好きだからだ。一部を除いた全種族から嫌われるのも無理はない。『魔族』にそそのかされたとはいえ全種族を巻き込んだ大戦を引き起こした元凶なのだから。

お陰様で僕達人間にはもう居場所がなく、名前さえ呼ばれない。こんな状況に陥った自分達を呪う事しか出来なかった。

しかし、僕達に救いの手が出された。

名は大和。僕が今通っている高校の校長先生で、『ドラゴン族』である。大和先生だけは僕達を個人名で呼んでくれた。僕達はそれがすごく嬉しかった。初めて僕が此処にいる。存在していると思えたからだ。

「グルルッガオガオ!!お前ら黙れ!今は授業中だぞ!!」

クラス中の笑いで中断されていた授業を、担任が怒鳴って沈めた。事の元凶は自分という事を分かってないらしい。本当、馬鹿な犬だ。

「よーし静かになったな。では次、シーラ」

前の席のシーラは、僕が読んだ最後の文章が分からないらしく、最後の文章を指差して教えると「有難う」と言って少し照れながら読み始めた。僕は、少し頷くと顔を外に向けて空を見た。窓側の席には、素晴らしい特権があり、僕はそれをフル活用して、堂々と空を見ていた。一番後ろの座席なので、馬鹿犬にもバレない。僕は、シーラの声を遠くで聞いた。

「『人間』が引き起こした大戦は300年続いていた。

【選ばれし女神】=【タローマティ】と、

【魔族の使者】=【アールマティ】は自らの種族の為に命をかけ、長として闘っていた。

どちらも引かず何年も何年も闘い続けていた。誰もが苦しみ、傷付いた。それでも大戦は終わらなかった。

しかしそれを沈めた者が現れた。誰もが予期していなかった、者。

【獣族の王】=【フィンレル】である。

彼が加わやる事によって更に長引くと、皆思っていた。しかしそれは違った。

【獣族の王】は、たった3日で2人を沈め、全ての種族に平和をもたらした。」

「次、グレイシス」

「皆は、【獣族の王】を【全種族の王】としようとした。しかし【獣族の王】は「僕はならない」と断った。皆はとても驚いて理由を聞いた。

すると【獣族の王】は言った。

「僕を【全種族の王】にしてもまた、戦争が起きる。自分達で支えあって異種族を認める事が出来れば同じ過ちを繰り返しはしない」

皆は言葉を失った。言い終わった【獣族の王】の目が寂しそうに苦しそうに見えたからだ。皆は、【獣族の王】を【全種族の王】にする事を諦めた。そして自分達で道を切り開く事を決めた。」

「次は……ローズ」

「はい!先生!」

ローズの良い返事が聞こえる。

「良いぞ、ローズ!」

褒められて嬉しそうだ。全く、煩い2人だ。

にやにやしながらローズが読み始めた。

「こうして、今の五種神町が出来た。【獣族の王】は【平和の王】として今でも崇め奉られており、【平和の王】の像はここ、『町立五種神大和高校』に建てられている。また、

【選ばれた女神】、【魔族の使者】そして【獣族の王】が今どこに生きているのか、誰も知らない……。」

ローズは読み終わると、フィル(先生)の方を見た。するとフィルは大きな声で言った。

「よく読めてたぞ!ローズ!!流石俺の教え子だなっガッハハハ」

汚い歯を見せながら思う存分笑うと、急に僕の方を見てにやりと笑って言った。

「皆んなも、特に【大罪を償う人間】はローズを見習う様に!!」

またクラスが笑いに包まれた。

本当に腹が立つ。僕達は、毎日毎日差別を受けながら学校生活を送っている。普通の暮らしが出来るだけで有難い事なのだが、嫌なものは嫌だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

カウンセラーの黒鬼 @nagiko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る