#2

「お兄さん、もう少し右、あ、行き過ぎ、ゆっくり戻って──────そこ!」

 右曲君は「大モミジ」に登り、引っかかっていたらしい紐を掴んだ。その紐の先に、少女の探していた『コロ』は居た。

「コロ!」

 木登りをしていた右曲君からコロを引き取る少女。

「良かった、!」

 年相応の喜び方をする少女を見て、『先生のほうが背が高いのになぜ僕が木登りなんて』とずっと文句を言っていた右曲君も嬉しくなったようだった───いや、安堵感の方が大きかったかもしれない。

「まさかコロが木に引っかかっていたとは全く思いませんでした」

 

 コロは、少女の話にあった茶色い子犬は、命を持たない「物」だった。時々街の中で配っている、ヘリウムガスが詰まった空飛ぶ子犬だったのだ。

「先生はいつから分かっていたんですか?」

 そうだね、靴紐を結んでいるうちに逃げてしまった犬が見えなくなるほどこの公園の野原は狭くないというのがまず一点目だね。

「それだけだったら可能性なんていくらでもあるじゃないですか」

 それが無いんだ。右曲君は一番最初の少女の言葉を憶えているかい。

「最初の、あ、そうか」

 迷っていたんだよ。少女は質問に対しての受け答えはハッキリしていたが、最初だけ迷っていた。

「瑞季ちゃんは探してほしい、としか言わなかったんですね」

 そう。『何を』を隠したんだ。

 まあそこでただのペットではないと思ったからこそ、最後の突拍子もない質問ができたのだけれど。

「瑞季ちゃんが離したのは、首輪に繋がったリードじゃなくて、正真正銘の紐だったんですね」

 そういった話をしていた私たちは、少女の声でまたそちらを向く。

「お兄さんたち!」

 どうしたんだい。

「ありがとう!」

 どういたしまして。

 満面の笑みで感謝の言葉を伝えたらしい少女の声は、それ以降、聞こえることは無かった。

 さて私は少女の姿を一度も見ていないのだが、どんな姿をしていたのだろうか。

 声だけの少女は、見えない風船とともに消え去った。

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