#1
「あ、あの、探して欲しい、んですけど」
何か失くなってしまったのかい?
「いえ、コロは失くなったというよりは、居失くなった、んですけど」
つまりは『居なくなってしまったペット(コロ)を探して欲しい』ということだった。探偵をやっている以上、何かを探す依頼は尽きない。その中でも動物を探すのは難しい仕事だ。そう、以前───私が考えを巡らせているうちに、右曲君は少女から事態の詳細を聞き出していた。
「瑞季ちゃん、少し質問させてね、えーっと、その、居なくなってしまったコロちゃんは、なんの動物なの?」
「犬です。小さい、茶色の」
「小さな茶色い犬、と、他に特徴とか、犬種、えっとどんな名前の犬か、とか分かるかな?」
「名前は、コロです」
「あ、えーと、トイプードルとか、チワワとか、ゴールデンレトリバーとか、そういう名前なんだけど、分かる?」
「ごめんなさい、分からないです」
「ちなみに見た目に特徴は」
「無いです」
「そっか───」
右曲君も子供と接する機会はなかなか無いのだろう。少し難儀していた。普段彼は話すことが、聞き出すことが得意だ。それは隣に座って聞いていた私がよく知っている。その彼が困るということは、───つまりイメージとリアルに差があるのだろう。言ってしまえば、私も正直この少女のことはよく分からない。ただの九歳の女の子がこんなところへ来るだろうか───。
話は進む。
「ふぅ、次に、居なくなっちゃったときのことを教えてね。まず場所、どこで居なくなっちゃったの?」
「この近くの、モミジ公園です」
「大きな
「そうです、昨日のちょうどお昼頃、モミジ公園をお散歩してて。暑かったのでその『大モミジ』の下で休んでたんです。そこで靴紐が解けていることに気づいて、少し紐を離してる間に………」
「居なくなってしまった、と」
「とても仲良くしてたんです、昨日の夜は心配であまり眠れなくて、」
そう言った声は少し震えていた。
ここでイメージとリアルの話に戻ってしまうが、私の中での少女像はかなり大人びたものであった。九歳にしては敬語がしっかりしているし、一人で探偵のところへ来るという行動力もそういうイメージの基礎となっていた(右曲君が麦茶を勧めたときなど、『お構いなく』とまで言っていたのだ。少なからず驚かされた)。
しかし、表情は読めないものの、声の震え方が泣いているときのものであることは容易に想像できる。その声を聞いて私は、そしておそらく隣の右曲君も、少し安心してしまった。泣いているだろう少女を前にして安心してしまう大人二人もどうかとは思うが、ここで
「そうか、そうだよね、心配だよね」
「うん、早く捕まえてください」
「そうだね、早く見つけよう」
右曲君は私の方へ向き直った。
「先生、そろそろ現地調査、行きますか?」
行きたいところだけれど、瑞季ちゃん、私からも幾つか質問していいかい。
「はい、大丈夫です」
ありがとう。そうしたらまずは、そうだな。コロが居なくなったとき、公園に君以外の人は居たかい。
「居ました。けれど誰もこちらを見ていませんでした」
そうか、やはり目撃者は探しても意味が無いね。次の質問だ。瑞季ちゃんがコロと出逢ったのは何日前だい。
「二日前………です」
まあ、それくらいだろうね。それじゃあ最後の質問だ。
コロは、空を飛べるのかい。
「はい、飛べます」
よし分かった、必ずコロは見つかる。さあ右曲君、瑞季ちゃん、椛公園へ行こう。
事態はすべて終束したよ。
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