第2話


「ああ…!大崎課長!」

ふいに抱き寄せた青年の白き身体の柔肌。大崎の、その体の芯、全てが熱く…堪えられなくなっている。

「もう、止まらんのだ。おいで…!」

青年、佐藤信二は、若く初(うぶ)だ。

うつぶせにさせられ、上着の制服越しに、俺から指をすべらせ入れられながら、泣きながら哀願で俺を見つめる。


…課長のが“固い”。 

ああ…まさかそんな。!


「いやっ。いやぁぁ…大崎課長っ。――!」

「いややない!大声出すな。おとなしくしろ!!」

第1集配営業部のデスクの上に、うつ伏せに組み敷かれる眼鏡の青年。そのさらりとした髪を乱しながら…泣きながら抵抗をする君を見やって、征服感に酔いしれる。

「やめてください。嗚呼!まだ、怖いんです。いやぁ…。」

「好きなんだ。信二…。ひとつになりたいんだよ。バックが、怖いのか。信二。…」

背後から覆いかぶさり、

夜中の皆がいない時間に、―― ふたり。


―――男の“それ”が、激しく跳ね上がる。…




「わぁぁぁぁ――――――!!!」


は、なんなの?これ?

夢?ゆめ?ゆめ?…!


目覚ましは、いまで言うガラケーが、激しくなっている…。AM6時58分。

第1第2集配営業部、課長兼、部長こと、大崎良成は、ベッドのシーツを己の荒波の“聖”なる海で、水浸しにしながら、あわてふためいて、ひとり洗面所と、トイレへ往復しながら駆け込んでいた。


 知らなかった…俺がここまで

 エロティカなんて……。


はぁ…佐藤よ。ごめんよ。

朝からお前に煩悩してしまったよ。いかんいかん。これから仕事なのに。


夢の中とは云え、甘美なすごい設定の上での愛の交わり。

もしも、本当にやってみたらどうなるんだろう。…なんて、ちょっと間抜けなことを考えながら、たくさんのシーツの後始末に追われる大崎だった。


なさけないぐらいに洗濯乾燥機が、グラングラン、音をたてて回転し鳴っている。

どうかすりゃ…“聖(性)”の海で枕カバーまでが、ぬれた。


はぁぁ…。佐藤~…佐藤信二君…。

俺 今日お前と、どんな顔してあえばいいの?


もちろん、逢いづらいのは気恥ずかしさからである。

大崎部長は、結構、純情であった。――


4F身障者用トイレでの、甘美な夢のような出来事。

もう三日も経つのか。と思うほど…その後の業務時間は、濃く。満ち足りたものだった。


 お前が、いてくれるから。…佐藤――


その過ぎ去った3日間の郵便業務期間、1Fも4Fも、全フロア忙しさに追われていた。

なぜかと云うと、“国勢調査”準備が、はじまっていたからだった。

区役所から頼まれた集荷。大きな重たいゆうパック。全にして、銀座地帯かき集めてから、

また区役所が選んだ調査員あてに配らなきゃならないもので、5千は、あるのではないか?と、見込む。そのダンボール。

縦35センチ。横45センチ。長さ58センチ。程がてんこ盛りだから…、

ゆうパック自体は、もうかっているが、郵便部トラック発着区分け地帯は、戦場だろう。


――朝 8時前出勤。

男性コインロッカー室で、ちょっとだけ、うな垂れた大崎良成部長が、ためいきをつき

ながら着替えていた。

「おはようございます。!」

「おはよう。中野。」

第2集課長代理、中野とは、着替えのロッカーが、となりあわせである。

「どうしたんですか?部長?」

「ん…いや、なんでもないんだけどね…」

 はぁ…

「部長。朝から“消耗”してません?」

「『消耗』したかも知れん。」

「へ…」

中野も、大崎も、ふと…気になった大崎の方をみやれば、下腹部が、死ぬほど大きくなり

はじめていた。

びっくりした二人が、笑っていいのか。泣いていいのか。わからないシュチュエーションに郵便局中が、走った。


「わーーーーーっ!!!」


「部長…!朝から、なにやってるんですかぁ。!!!」

「はぁぁ…トイレっ…はぁ。先に行く。!!」

「元気なのもいいですが、びっくりしますよ。!」

「俺だって、わざとじゃないんだよ。怒らんでくれ。中野―…」

「怒ってませんよ。ただ、部長って…おかしく…って…。」

「中野―!」


 ばん!


ロッカーの扉を閉めて出口に向ったそのときに出会ったのは。――

「あ、大崎課長…」

――佐藤信二。!!


「おはようございます。」

「お…おはよう。佐藤。」

 じゃあ、また…

 はい。


佐藤の私服姿、かわいかったな…。

いつかのインディゴジーンズは、相変わらずで、赤と黒のH&Mをコーディネイト。

白いシャツをはおって、素敵だった。

俺はというと、そう…俺も古いジーンズだ。

気があうなぁ…。

俺のほうは、黒のランニング、毛のフードがついたジャンパーをはおって出勤。

この格好なら、互いに、吉野家の牛丼でも、いっしょに食べられるかな。

いつか…お互い、のんびり、いけると、いいんだけどなぁ。


――と、意中の佐藤信二に出会ってしまって、ほうける大崎だった。が、しかし、ほうけている場合ではなかった。その局部が高いてっぺんを張っているのだから。


「部長、やばいですよ…。」

「わ…わかっているよ!」

「何で煩悩したんですか?」

「へ!佐藤君じゃないって。!」

「え?!」

「へ。」

「さっきの佐藤君に煩悩ですか?」

「え! 違うよ。中野。! 佐藤君、いや、佐藤君じゃなくて、なんか…いろいろで、ああー 俺トイレ、行くからぁぁ。!!」


(暗転)


「…で、あるからして、秋の国勢調査を折り、普通郵便に相成って、さらなる区役所からの調査回答書の封書なども、重なる、皆 区分け…並びに、配達は大変だと思うが、気を引き締めてがんばっていただきたい。以上―」

第1第2集配営業部の号令を、大崎がかける。

気がおけない郵便の種類なので、神経を集中させるのは必死だ。―― 

ここで、郵便事故などは、あっては、ならないのである。

この号令と共に朝、1番の1便が、出発を開始する。

郵便事情、朝早くとも10時ごろになるのは、このためである。

大型エレべーターが、あがってきた。

朝一番の荷だ。

ここで、区分けされ、次の2便3便で配達をされる。

鉄の、荷車台を、持ってきたのは、矢部だった。

「ご苦労さん。矢部。」

「はい。部長。」

「1F、郵便部の方は、どう?」

「もう、大変です。」

「うん。」

「営業の竹下さんと岡部さんまで、“ゆう”の荷分けしてくれてますから。」

「そうなの。戦場だなぁ。」

「お互いさまっすよ。」

「がんばれよ!」

「はい。」


「あ…、そうそう部長?」

「ん?なんだ?」

「さっきぐらいかな。佐藤君が、足怪我して、保健室いっちゃいました。」

「おい!待て!佐藤って、佐藤信二君か。」

「はい。」


「何で、そんなことになったーー!!」


「調査票の重たい荷物、無理して運ぼうとしたら、足の親指あたりに、がーーん!!と、

荷物が落ちちゃって…がまんできないぐらい。だったみたいです。」

「そうか。わかった。」

「はい。じゃあ。」


佐藤…

俺も今朝、自宅とロッカー室で、へまやったが、お前も、どじっちゃったのかな?

俺たちって、眼鏡っ子だし、

変なところで、共通点というか…

なんというか…。


佐藤の事を聞いたからって、持ち場を離れられるわけじゃない。今こうして、監視管理し

なければならない事は、多々あるし、コールセンターからの応対もある。

ここに来たら、皆『仕事人』だ。

全員一丸となって、この24時間を乗り切っているからだ。

RRRRRRRRR…

「はい。第1集!」

コールセンターからだ。とにかく、おかしなバァさんが、配達員が気にいらない。と、

延々と、電話をかけているらしい。こういうのを、ブロックするのも、俺の務めである。

やれやれ…。

「つないで。―――」



一方その頃、1F郵便部では足を引きづりながら佐藤信二が、持ち場へ戻ろうとしていた。

右足の包帯を巻いた姿が痛々しかった。


「佐藤!だいじょうぶか?――」

「御心配かけてすみません。机仕事なら大丈夫なんで戻ってきました。」

「おつかれ。佐藤さん。まだ、休んでていいのに…。」

「矢部さん。ありがとう。でも俺働きたいから。レタックスとか、まだ更新されてる?」

「いや、それは、まだ誰もやってない。今から郵便課長代理がするんじゃないかな?」

「そう。じゃあ。俺やる。」

「じゃあ。お願いします!

「あ、そうそう、4Fで、大崎部長、心配してましたよ。」

「え、部長に話したの。」

「ごめん。耳に入れた方がいいのかな。とか思って。心配してたけど、部長も忙しそうだったから。」

「そうなの…。」

「じゃあ、レタックス、お願いします。」

「はい。」


「佐藤信二君――。矢部晶君――。!!」

はい…。

郵便部 郵便部長 義光だった。

「何をはなしているのかね?」


「話って、レタックスを今から受付処理しようか。というところでしたが…。」

「ふ… それはね。僕がやっておいたよ。」

「え、そうなんですか?」

「うん。“今から” だからだけどね。」


え……… なにいってるの?この人


「佐藤君、君、動けるの?」

「いえ。正直あまり、うごけません。」

「そう。…ならば、1Fじゃなく、上の保健室に戻ることだね。もっと動ける人が、ここは欲しいんだよ。…」

「ちょっと!あんまりな――!」

普段怒らない矢部が食ってかかろうとしたが、佐藤が静止した。

「わかりました。戻らせていただきます。」

「うん。そのあいだの時給は下がるから。そのつもりで。」


「不可抗力なのに…なんでぃ。あいつ。」

怒り狂う矢部を抑えながら、佐藤信二は、やさしくうながし、なだめていた。

営業の竹下さんも岡部さんも、心配して、こちらを見ている。

大きく見開いた黒い瞳に、やさしさをかけ、矢部に“行ってくるね。”と、伝えた人。

右足を引きづりながら玄関前のエレベーターの方へ、歩みを進めた。


保健室は総務に近い5Fにある。

そこから歩くのも大変だったのに、とんぼがえりは、正直辛かった。

“郵便部長に、にらまれてるのかなぁ…?”

男性社会独特の不安感を感じながら…エレベーターの中で、佐藤信二は泣きそうになっていた。

途中2Fに止まり、中野課長代理が、中にはいってき、すぐに4Fで下りて、すれ違ったのだが、あまり、面と良く話すことができなかった。


集配営業部の課長代理さんだったのに…、

 俺 愛想、悪かったかな? 

何も話さなくて、ごめんなさい。


                ◇


――ここは4F。第1第2集配営業部。


「おう。おかえり。中野。」

「ああ、大崎部長。さっき佐藤君と、すれ違いましたよ。」

「佐藤君って、足悪くした佐藤君?もう復帰したの?」

「いや…なんか、上の方へエレベーター向ったんで、保健室に戻ったんじゃないかな。」

「何で?」

「さぁ…なんか、朝と違って、沈んで辛そうでしたよ。」

「おい。!足悪いからって、誰か、つまはじいたんじゃないだろうな…!」

「んー…あるいは。」

「義光か。」

「ま。そりゃ、考えすぎですけどね。」

「中野!俺、1F行っていいか。?」

「いいですけど。また、トラブルになりませんか?」

「くっそー!!!」

こんな行動をしたくないが、瞬発的に八つ当たりで拳をガン!と、机にたたいてしまう…。

くやしい。

俺の佐藤が。――

誰よりも頑張っている佐藤信二が、傷ついている…。――


「区分け部隊!俺も手伝うわ!!」

「おおー!大崎部長。ありがたい!」

大崎は、くやしい時、どうしようもないやるせなさに駆られた時は、なによりも仕事をするようにしていた。

仲間とのふれあい。情熱を傾けられるやるべきことが、あるだけで…

心の憤りに、歯止めが利いたからだ。

「やろうども!俺にどんどん仕事くれ!今、仕事したい気分なんだ。」

「大崎部長、無理しないでください。」

「そうですよ。デスクワークの大変さってあるんでしょう。大崎部長。」

「ありがとう。みんな。」


 俺、行くわ。

 休み時間。行くわ。

 お前…俺と同じ仕事好きなのに。

 奪われて。どんなに寂しいか。




5Fの保健室に戻った。

そうしたら、総務の女性がすでに待っていて、そう…義光郵便部長から、頼まれたそうだ。

なんでも、今日 夕方17時までは、ここで待機。その間の時給は落とす。明日、診断書

を取りに明日、必ず病院へ行くこと。明日から3日間の間に休暇すること。

そうしてその後も動けなければ、停職扱いになるかも知れないとのことだった。

ひととおりの説明を受け、わかりました。と、認めの印鑑をついた。

罰が悪かったのか、そうそうに足早に去った総務の女の人だった。

ひとり空虚な保健室の空間の中に取り残されて、みじめで…なんか泣くに泣けなかった。

空気の入れ替えで、窓が開いていた。

無尽蔵に写るビルディングの森が、青空とあいなって、高くそびえてみえる。

“この景色も、いいもんだな…。”と、ふと、佐藤の心の孤独に、ストン…と、落ち、沈む

彩の中に浮かべていた。



トントン…

時間が経ち、たずねてくる誰かが、いた。

「いるか?佐藤――!」

「大崎課長。」

彼を心配した大崎良成が、休憩時間を前倒しにして会いにきたのだ。

「いったい。何があった。!!」

「課長…、俺、3日間で治んなかったら停職って。“つかえない”から。って。…なんか、くやしくて、なさけない。右の足の項に、重たい角が、がーんと落ちて。すごく痛くて辛かったけど。がんばろうと思って。でも、1Fの仕事のほうに、いなくてもいい。って、此処に返された。矢部さんも、そのとき怒ってくれたけど。俺――俺…。」


こらえていた分 弱さが、涙になって青年の心にあふれた。

敬愛する上司も、また、意味を理解して、涙声の部下を、なだめた。


「わかった。…心配すんな。3日後だって、なんだって、お前は仕事好きで、いい奴だ。

停職なんかさせるか。郵便部が使わんのだったら4Fで、俺がな…俺が使うよ。な。不安

になるな。明日、医者に行けよ。」

「はい。」


やさしく見上げた青年の眼差しが、いとしくも愛らしかった。


俺の黒曜石(オブシディアン)――


また、ふいに、すっ…と、彼の眼鏡を取ってみる。


 はっ…


綺麗で、端麗な、やさしい面差し。――

さらさらの長い黒髪。

肌のきめは、独特でやわらかな身体。

ベッドの上の白いシーツの上と相成って、黒と白が、美しい光を放っている。


「ちょっと待ってろ。」

保健室の鍵を中から強く、かける。

休憩時間は1時間を切った。

じゃまだてなんて、されたくなかった。

佐藤信二と、二人っきりの、この空間で――


「大崎課長?…」

まだ、“意味”を良く理解していない佐藤が、やさしく声をかける。――美しい響き。

高鳴る胸を押さえながら、大崎良成は、保健室のベッドの横、丸いすに腰掛け、さきほどの眼鏡を預かると、向こうの上の、美しい棚へ、それを置いた。

「どの辺か、見せてくれるか?」

「あ…はい。」

包帯が、厳重にまかれてある。

右側のズボンを少し、たくし上げたら、清潔にすね毛など剃られた足が、大崎をひきつけ

てやまなかった。

「お前の足…、綺麗なんだな。」

「剃ってるからですよ。」

「うん。それでも、きれいや。」

「ありがとうございます…。」

「な…」

「はい?」

「いっしょに寝ても、ええ?」

「だめですよ。ここ患者オンリーですから。」


「そうかぁ」

――と、言いながら、

すっと…その瞬間、保健室のベッドに横向きになり、入り寄る大崎。


 あ… 課長。

 いいだろ。

 だめ…

 誰も来ないから。


診察室のベッドは、せまくシングルだ。

ここに、身長187センチの大崎と、170センチの佐藤が寝込んでいるのは、相当狭く

というか、密着した寝方をせねばならず、組みさった互いが気恥ずかしい程の、唇の近づきを覚えていた。


 顔が、 唇が… 近い。


 課長?

 キスしたい。

 …そんな。

 …いやか?

 そうじゃないけど。

 ためしてみよう。


診察室のベッドは気持ちよかった。

白いふんわりとした布団も、気持ちよかった。

そして、

互いの温度と温度――

はじめてのキスみたいな。

ふれるだけの、口付け。


 …あたたかかった。…


「信二。」

「はい。」

「信二。」

「…課長。」


あとは、くすぐるように抱きすくめられ、やさしく、顔を愛撫された。

キスづくめ。

頬に…おでこに…あごに…耳たぶに…


 やだ… 課長。

 こういうの…いいな。


「いつか、吉野家の牛丼、行こう。」

「課長も好きなんですか?」

「俺も」

「ほか、おすすめ。ある?――」

「イタリアントマトとか行った事あります」

「ケーキやさん?」

「パスタとケーキと、珈琲セットで、千円ちょっとなんです。いつか…あの…デートしま

せんか。?」

「うん。いいよ。行こう。」

「よかったぁ…。」


うれしくてはずむ二人、にこやかな笑顔。

課長から鼻をつついてもらって二人、にこやかに、わらった。


ふいに、シリアスになった。――

大崎のまだ、はずされていない眼鏡がはずされ、佐藤のと、同じ場所におかれる。

見つめあい…

互いが、高鳴る打ち震え来る鼓動…――

また、3日前の、甘美な肉体の紡ぐ時間が、互いの脳裏に、よみがえる。――


「佐藤?」

「はい。」

「今日は、おまえの上半身の裸、全部見ても良い?」

…そんな、あっ――


何も言い返す前に、強引に脱がされた。

 ああ…っ…

白く柔らかな、想像以上の、美しい身体。

目に焼き付けて消したくないほどに、お前は美しかった。

荒くなった息遣いと共に、大崎も、その、上制服を脱ぐ。

互い…

せまきベッドの中で、肌触れ合う時――

はじかれた互いの理性が、脳裏の中で

パッションとなって、赤く燃えた。――


「はぁ…!あ 嗚呼、信二――。」

「課長。 ああ、大崎さん。」 

互いに抱き合い、弧を描き、回転する。

せまいなかで、シングルベッドが、きしむ音をたてる。――

柔肌のふれあいが、心地よくて、見つめてみる…信二の乳頭。赤きつぼみ。

 かわいいな…

ピンと、はじいて… いたずらしてみる。


 は… いや…

「ここが、いい?――」

「意地悪…やめて。…」

「ん。あまりに、色っぽいから…。」

「課長の、ばか…」

「ひどいな…」

その後は、もう…大崎の独壇場だった。

美しい青年の肉体を、なでるだけ、なでまわして、愛撫する。さきほどの、赤きつぼみに、

口付けをし、吸って吸って、吸い上げてみる。

身もだえした青年が、頭を振って声をあげようとした瞬間―― 

口付けをはわし青年の声をもらすのを止めた。


 んー…んー んーんんー…!!

   …苦しい か?

「だめよ。声出しちゃ。」

ああ… あーっ ああ  はぁ はぁ・・ 


 すごく、苦しかった?

 うん。

 声出したら、総務まで、聞こえる…!

 は…はい。

 まずいから。

 はい。…


「おいで…――」

今度は、大崎が下になり、青年を身体の上に乗せてみる。たくましい茶褐色の軍人の様な

身体に、しなやかな白い肌の美青年は胸ふるえ…その肉体に直接触れることに、鼓動した。

「大崎…さ…ん。」

「ん?」

「なんでもない。呼んでみたんだ…。」

「うん…」

たくましい男の胸元は、りりしかった。

その乳首に、佐藤という青年も、また…ふれてみたくて、さわってみる。


 こら…。

 大崎さん…素敵な人…

 そう。? ありがとう。


「まいったな…。」

「え?」

「高ぶったんだ。」

 え… !――

そう、大崎の男の“それ”が、欲しはじめたのだ。厳密に言えば先ほどからだったのだが、おさえられないほどの律動が、彼の中に流れ込んでいくのを、もう…

抑えられなくなっているようだった。


「今日は、おしりには、入れんよ。…」

「……。」

「まだ、早かろう。俺たち――」

「大崎さん…」

「お前が、おびえなくなるのを、待つよ。」

「大崎さん。」

「でも、いつか…本当に、お前と、ひとつになりたいって願っているのも事実だ。」

「……。」

「代わりに、肌に出させてくれんか?このあいだみたいに。」


 ああ…待って。 まだ、俺――

 なんで、抵抗するん?

 だって。

 はずかしいから?…

 わかんない。

 抵抗しても、だめだぜ。俺たちもう、結ばれてるんだから…


その瞬間、大崎の手のひらが、佐藤信二のズボンにかかる。

突然 彼の、ベルトをはずしはじめ、ズボンのチャックを下げると、そのトランクスごと、引き下げて! その青年の“もの”を出させた。

「いや…!大崎さん!!」

その瞬間 大崎の押さえられた肉棒も、跳ね上がり、同じく青年の“それ”をとらえて、

密着させ、…からめる。

「やーーっっ!! あっ…!! 」

――フェンス… 剣のように、交える聖戦。

弓なりになったそれが、互いの武器となって相成り、愛しい性(さが)として、重なる。

重なって重なって、剣をまじえ、互いの気持ちよさを到達してゆく。


「は… あ、あ、 ああ…」

「うっ… いいな。 はッ、… 佐藤。」

「――こんなの。だめ…。はっ…い や…。」

「いいじゃないか。…気持ちいい…わ。」


「あああーーっっ!」

「嗚呼――!」


堪えられなくなった男の“それ”が、あふれんばかりに、青年の下腹部と上半身をぬらす。

それが、跳ねて、立ち上がっていた分、いきおいがあまって青年の上半身までぬらした。青年のほうもまた、大崎の下腹部に、はじめての性を放ち、どうしたらいいか、…

わからないぐらいの、気恥ずかしさにふるえていた…。


「ああ…大崎さん、ごめん。ごめんなさい。」

「俺も、ごめん。顔まで、かかったんじゃないかと心配だ。大丈夫か。」

「ヒック…顔は、かかってないよ。でも――」

「はずかしかったか?」

「うん…。」

「これで、拭いてあげような。」

「はい。大崎さんのも。」

「うん。」


そうやって、拭くものがないから、互いの、ぬれたところを上掛け布団で拭いた。あとで、

こっそり、シーツを交換しておこうと思っている大崎だった。


「痛…っ。」

「大丈夫か?」

「あ、はい。足が、ちょっと…」

「無理させたな。」

 ううん… やさしく頭を振る。


まだ外は、昼間。

互いの全ての“それ”をさらけ出した姿が、気がつけば、陽のもとに照らされてしまって。

ズボンだけの全裸に近い、みだれた姿の互いに、二人は気づいた瞬間、とても…気恥ずか

しかった。


「大崎さん、もう40分経っちゃった。!ごはん食べに行かないと…。」

「俺、お前がいい。」

「もう!そんなこといっていたら、体、まいって倒れちゃうよ。食堂にいって。お願いだよ。」

「いやだ。…腹がすいても。ここにいたいと思った。後20分。俺、お前が欲しい…―」

「大崎さん…。」


ふいに、抱き寄せ、青年を組み敷き押し倒す。

もう互いは、裸同然で…高ぶった後で…どうしていいか、わからない状態で、抱いて

抱いて

抱き合う愛の恋人たちとなっていた。

重なるキス。強く激しく…鼻と鼻が交差して、強く結ばれた唇から、吐息の雫が、少しだけ流れて、大崎の口をすすった。

佐藤の方も、官能が高まり…肌のほてりが、止まらない。


 … ああ。 大崎さん。

 ふ… 好きよ。 お前がかわいい…


「ここ、さわるね。」

そういうと、大崎は青年の、柔く硬く…

弓なりになったそれを、握り、上下に、上げ、組み敷いて“それ”を、しごく。


「ああーーっっ !! やめてぇーーー!」

「馬鹿!声 大きい!」

 んー んん… うー っ っー… うー…


悲鳴があがり、あわてて大崎が、接吻で押さえ込む。

無理は無い。

青年は、自ら、己の性器を、“しごく。”事なんて、やったことも、なかったのだから…。


「ああー…あー ん。 うう… ヒック…」

「泣かんで、いい。――!!」


大崎がめずらしく、怒鳴る。


「だって、…ああ、俺… いやっ わかんない… あっ ! ん」

「こうするんや。」

濡れた上掛け布団を再び持ってきて、大きく二人を隠し、ベッドのまわりをつつみ包む。

青年を押し倒し組み敷いてから、さきほどの“それ”は、握り締めたまま、扱い…しごき

…、大崎の手のひらで、転がし、愛撫される。

声鳴き声で頭をふりながら青年が、“熱き”ものを放ちたくて止まらなくなって、また泣き出しているのを大崎は、じっくりと感じとっていた。

「俺の、“手のひら”で、いい…。早よう…出してごらん。? ――いい子だ。静かに…な。」

「ああーーーーーっっっ…っ!!!!」


 …はずかしい……

 …はずかしい…

 …でちゃう。 …いや… … 


愛する人の手のひらに、はじめての…みだらな“性”を、放った。

静かに小水のように…。それは、透明で、純粋な“蜜”のような、しっとりとした液体をしていた。


 …よほど、純潔な身体なんだなぁ…。

こんな汚くない性(液)も、めずらしかった。


きれいな液体をしていたからしばらく見つめ右手を感じ入りたいなぁ…。なんて倒錯した

事を考える大崎だったが、このままじゃ青年に申し訳ないので上掛け布団で、また、それ

をぬぐい、手を清潔にした。

「もう、お開きにしようか…。」

そう、互いに瞳で伝えた一瞬だった―――!


ドンドンドンドン !!!!!!

 ――何?

“開けなさい! ここを、開けたまえ!!”

郵便部長 義光だ!


何で? 何で!あいつ!!!―――

あわてて飛び起きて、大崎が手のひらを洗い、消毒液をかける。

「俺が対応する。そのあいだに着替えを!」

「はい。」

互いに頭を切り替え、業務用の顔に、必死で、戻そうとする。

その身じまいも、あわてず…静かに、急ぎながらもきれいに整え、制服を着る。

この潤いの余韻の秘密が、ばれぬように…。


ドンドンドンドン !!!!!!

「はい!! 只今 開けます。」

「その声は、大崎君だね。

――何故 君が、そこにいるの?

――何故 鍵を中からかけるんだね? 

開けなさい…。開けなさい!!」

「はい。只今。」

佐藤の方も、準備がいいか。目で確認した後、保健室の鍵を開ける。


 ――ガチャ!

 バン!!!!!

「――何を、やっているのかね? !!!」

「何を?って。見舞ってました。」

「お見舞いに、鍵をかける必要あるの?」

「大崎良成。私が、かけたのであります。」

「なぜかね?」

「佐藤君と、静かに、おはなししてみたかったんです。」

「鍵は 必要ないだろう。」

「無意識にかけてしまいました。」

「なんのために?」

「静かに…ふたりきりで、対話したかったのであります。」

「なぜ?私を交えてはいけないの?」

「交える…って。佐藤君と、互いに会話したかった。だけですが……!」

「佐藤君は、郵便部だよ。」

「それでも、それは…関係なく、仲良くちゃいけませんか?」

「うーん…それは、美しいんだけどね。」


 ――、 疲れる。こいつ…。


「それで、義光郵便部長は、何の御用だったんですか?」

「僕も、面談したかったんだよ。彼は、怪我をしたからね。」

「怪我でも、元気なんだし。ここで何もしないでおらせるより、郵便部の方で、仕事を与

えて、使えばよかったんじゃないですか?」


「佐藤君!佐藤君は、いるかね。」

「あ…はい。」

「佐藤君。総務から、聞いているね。」

「はい。」

「17時まで、ここで、“一時保護”という僕の判断に、“あやまり”は、ある?」

「い…いいえ。」


「――と、いうことだよ。大崎君。君のいらぬお世話だ。… そして、佐藤君。!」

「はい。」

「17時まで、待機。それまで、他人を、たやすく、“入れない”ように。」

「はい。…」

「今度は、“君が”中から鍵を、かけなさい!!!いいね。」

「はい。」

「――では。」


総務からの伝達の確認だったのだろうか?。

義光は、義光郵便部長なりの仕事をして、立ち去った。

あとに、残るのは、… 淋しさと、切なさと愛の余韻だけが、残り香となり、その雫も、

漏れながらある上掛け布団と、保健室という空間だった。


「大崎課長?」

「うん?」

「…ありがとうございました。」

「うん。」

「俺 命令通り、17時まで一人でいます。早く、治さなきゃいけないから。」

「じゃあ…俺、行くな。」

「はい。」

大崎良成部長は行きかけて、また振り返った。

“愛しい者が、ここに、ひとりで。” それを、

後ろ髪ひかれながら…再度 抱き寄せ。唇を合わせた。――

もう、互いに、熱くなった、時間の温度。肌のとけあったもの同士、はなれることなど、もう、できなくて――


もう…恋人だ――

 ん…


強く、もつれあい。激しくついばんで、唇がゆれるたび、口が開いて、はじめての舌が、少しだけ、触れた。


「あっ…ごめんよ。」

「ううん…汚くなかったよ。」

「うん。俺も、どきどきした。」

「うん。」

「じゃあ、ほんとうに、行くね。」


――そういうと、大崎は、仕事人の顔に、切り替えて、保健室をあとにした。

そこを出た瞬間―― まだ待っていた義光が、総務の方から仁王立ちで、こちらをにらんでいたが、気にせず、持ち場の4Fへ、急いだ。



大崎の休憩時間は、あと3分あった。そこで、いそいで、缶コーヒーを流し込んで、食堂で買っておいたカップめんを、すする。

 ――彼に面会できて、よかった。

味わい深い、昔ながらの麺のかやく肉を食いながら、そんな事を考えた。

「さて、俺の仕事をはじめよう…。」


大崎良成は、基本は、集配営業部 内勤だ。

緊急で外に出ることもあるが、基本は、管理し、事務方もする。

もう、ぼろぼろになった…お客様からの個人情報を、まとめた資料なども引越し後の確認

事項書類なども乱雑になっていっているので、そろそろ総務にお願いして、文具屋に頼み、

紙ファイルなど、何点かほしいなぁ。と、おもっていたところであった。

 

今日は、黙々と、小さな事務をやった。

もちろん机の雑巾がけもした。

シュレッダーもかけて、ごみ捨てにも、いった。

保健室に一人いるあいつを、思いながら…

俺も、小さな仕事を身奇麗に…

お前が普段やっているように、きれいな仕事周りにしたいと、思ってやった。

お昼を終えた配達員たちが、次々と4Fの、ここへ帰ってくる頃、俺は、皆の助けになるように、ソファーの、カバーリングもやっていた。

それから、はがき、封筒の区分けもやった。動いて働かずにはおれない…今の俺だった。



「これから、夕方の便の配達にかかる。――途中 雲行きがあやしく、雨の可能性がある。

合羽着用の義務。並びに、郵便物のビニールがけなどをして、信書がぬれるのを極力防ぐ努力をしてほしい。尚 道路事情の混雑、ならびに、道路路面工事などの弊害など、事故にはくれぐれも気をつけていただきたい。以上――」


大崎の夕方16時の号令が終わる。

17時か…。もう、しばらく経てば、佐藤は、帰る頃なのだろうか。

夕方の4便の荷が、下 郵便部からあがってきた。

「おい、中野、この区分け。お前にまかせる。俺は、本部との連絡で端末機の故障の打ち合わせで電話せにゃならんからよろしくな。」

「はい。――あ、部長。」

「ん、なんだ?」

「『休息』時間 とりました?15分がまだじゃないですか?」

「ああ…そっか。じゃあ、中野、17時ごろからとっていいかな。」

「どうぞ。それまで、がんばるんですか?」

「ああ。電話が終えたら俺も区分けするな。」

「はい。!」

「部長―!」

「ん?」

「かっこいいですよ。!!」

「――ありがとう。!」



17時を越えた。そろそろ帰ろう。

早めに保健室を切り上げた佐藤信二が、1F郵便部にまた戻って出勤簿に、終了時間を、

書き込む。

「早めにあがります!失礼します。」の声をかけてから、男性更衣室へ向かっていった。


外は雨が、降ってきた――

お昼… 空、見たときは、晴れていたのにな…。

せまい更衣室の中、ひとり、雨音を聞きながら、もたつきながら着替えをする。

右足が痛くて動けない分、私服ジーパンへの着替えは、容易ではなかった。

「うんしょ!…んー、制服は、ぬげたんだけど。」


ばん!!

そのとき更衣室のなかに突如として割り込んでくる侵入者があった。


…誰? こんな時間に――

気配が、ない。


なんで?さっき、誰かはいってきたのに…。

不安な闇に、おののき… 青年が、ふるえたときだった。


ダン!!!!

んー うううー うー ううーーーっっ…!

「しー!! しー。静かに。」

「大崎課長~…。」

「もう、びっくりさせないでくださいよ。どうしたんですか。」

「あ、うん。休息時間の15分に、お前に逢いたくてきたんだ。着替えるの大丈夫か?」

「あ…はい。実は手間取っている最中でした。ジーンズはけるか?悩んじゃって。まごまごしてたんです。」

「外、雨だぞ。制服ぬいじゃったのか…。よしよし、手伝ってやるから待ってろ。」

「は、はい。」

実は下だけがトランクス姿のままで、青年は、それを、気恥ずかしそうにして、右足をあげていた。

しゃがんで待機した大崎が、やさしくインディゴのジーンズを広げ、その足を入れやす

いようにしてくれた。


 …やさしい。

この、やさしさが佐藤信二は、ずっとずっと、はじめて出会った頃から好きでいた。


こういうときって、いつか本で読んだボーイズラブの攻めの男の人って、よく、ものに、してしまった瞬間とか、その後…、また、こういうときも乱暴するのかな?って、よぎることがあったんだけど…俺の課長は、そんなことしなかった。飾らないやさしさ。

紳士。――

やっぱり、愛しい 尊敬できる人だった。


「玄関通用口まで送るな。」

「ありがとうございます。せっかくの休息時間に。」

「なんの。あいたかったからさ。 さぁ、行こうか。」


更衣室を後にする。 

課長がやさしく背中を守ろうと、手を置いてくれている。

うれしい…。

こんな、上司がいて。俺は、しあわせものだ。

正直 まだ足が痛かったから、ゆっくりとしか歩けなくて…それでも、いらいらせずに、

いっしょに歩んでくれるこの人が、そう…とても、好きだ。と、思った。


エレべーターのボタンを押す。

いっしょに下がる。


従業員用通用口の前まで、たどりついて二人見つめあった。


「課長、ありがとうございました。」

「はい。気をつけて。」

課長から借りた傘で、さして帰る。

雨音が、ぼたぼたと…こぼれ、ドラムを重ねる。

「いつか、デート、しようーーーー!!!」

――はい。!


声にならない返事で、傘をふってかえした。

これから3日間強制休暇だから、

課長に逢えない。

それでも、この3日後―― 

自分にも、課長にも…

きっと、いいことがあると信じて、雨の中 

秋雨の雫を楽しみながら、帰宅の途につこうとしていた。




愛しの君へ。此処は眠らない東京銀座郵便局。

今日を終えた働き人たちが、愛情を交し合い

人間模様をおりなすところ。

傘を降る君が、元気一杯で帰る後姿が、

目に焼きついてはなれなかった。

いつまでも見送った。

おまえという存在が俺の中で大きく広がる…

深い森樹のやすらぎのように。

いつかそのなかの湖に、小舟を浮かせ…

歩んでみようか。

眠らない時間――

僕の恋人。



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