第十一話 ~蝶々効果~ ③

-クリニック・診察室(深夜)-


       何かを隠すように黙ってタバコを吸い続けている先生、その何かを

       聞こうにも言葉が見つからないシテツ、二人の間に重く淀んだ沈黙

       が流れていた。

       そこに診察室の外からノックの音が飛び込んできた。

先 生 「遅ぇぞ! 早く入れ!」

       苛立った先生に促されて診察室に入ってきた男にシテツは驚いた。

シテツ 「えっ! モーノさん?」

モーノ 「あれ? お前なんで居んの?」

       扉から半身を出していたのは、帽子を被らず質の良さそうなスーツ

       に身を包んだモーノだった。

先 生 「お前等、知り合いか?」

シテツ 「デンシャの常連さんです。あと、サービス向上の窓口としてお客さんの

     意見を伝えてくれるんです」

モーノ 「そんな所だ。それよりも遅くなって悪かった」

       モーノは入ってくるなり勝手に椅子を出して座った。

モーノ 「で、ドクターに伝えたい事ってのは……」

先 生 「轍洞院コクテツの件だろ?」

モーノ 「…! そうだが、どこでそれを」

先 生 「お前、コイツ知ってんだろ?」

       先生は目の前のシテツを指差した。

モーノ 「そうか… でも、どうしてコイツがたれ込みに?」

先 生 「そりゃたまたまだ。本来は別件で来たんだが、お前と同じ所に行き着い

     ちまったんだよ」

       蚊帳の外へと出されたシテツはどうしていいか分からず二人の顔を

       交互にキョロキョロ見回していた。

先 生 「ま、出来過ぎた偶然だからよ… 今がコイツに俺等の隠し事を全部言う

     タイミングなんじゃねぇのか?」

シテツ 「隠し事って… 何かのサプライズですか……」

       それまでの話とは逆に急に話の中心に連れてこられたシテツは少し

       怯えていた。

モーノ 「安心しろ、お前の想像以上の事を俺たちは隠してる」

シテツ 「それ、不安にしかならない」

モーノ 「まあ聞いてくれ。とは言っても、この話は俺の仕事の説明からした方が

     いいな」

シテツ 「そう言えばモーノさんの仕事って知らないな」

       モーノは周囲をキョロキョロ見回した。

モーノ 「ドクター、盗聴されてないよな?」

先 生 「お前… 俺が知ってたら盗聴になってねえぞ。まぁ、安心しろ。そこん

     所の対策はしっかりしてある」

       盗聴という単語が何も知らないシテツの不安感を更に煽った。

モーノ 「じゃ、手の内明かすか… 俺は『レキシソウサカン』をやっている」

シテツ 「歴史… 捜査って事は考古学者みたいな感じですか?」

モーノ 「あー、字が違う。歴史を、調べる『捜査』じゃなくてコントロールする

     『操作』をする国家公務員だ」

       字は分かったが、肝心の彼の仕事内容が全く分かっていないシテツ

       はポケーッとモーノを見ていた。

モーノ 「そうだな… お前、『カタストロフィー』って知ってるよな?」

シテツ 「はい、高校で習いました。あの隕石が降ってきて過去の文明が全部消え

     ちゃったヤツですよね?」

モーノ 「アレ、隕石なんかじゃないから。それは俺たち歴史操作官が後世の為に

     都合良く書き換えた歴史」

シテツ 「は? えっ、じゃあ何なんですか!」

       モーノは腕と脚を組んだ。

モーノ 「人災だ。人が自分たちの文明を滅ぼした」

シテツ 「ほぇ? どういうこと?」

モーノ 「お前が言った過去の文明、俺たちが第四世代と呼んでいる今の一つ前の

     文明は『Z.E.U.S.』って都市システムというか人工知能が支配

     していたんだ。早い話それが暴走したから人の手で壊した事自体が本当

     の『カタストロフィー』。本来は『Z.E.U.S.』だけを破壊する

     つもりだったが、『Z.E.U.S.』の支配下にあった全ての機械類

     は使い物にならなくなり、その機械が中心だった第四世代の文明は崩壊

     したってこと」

       彼の説明をシテツはただ感心して聞いていた。

モーノ 「それでだ、俺が『カタストロフィー』の話をしたのは最も分かりやすい

     事もある。さらに、俺たちの最も重要な案件だからでもある。しかし、

     これがお前等姉妹に直接関係している話だからこの話をしたんだ」

シテツ 「ふ~ん。 えっ! 私たちが関係してる!」

       それまで楽しげに話を聞いていたシテツが椅子から立ち上がった。

シテツ 「そんな、歴史の教科書に出るほど長く生きてないよ!」

モーノ 「それも書き換えてる。実際は10年前の出来事だ」

       ほんの一部ではあるが自分が常識だと信じていたものが嘘だったと

       言われたシテツは酷く混乱していた。

モーノ 「ま、急にこんな事言われても信じらんないよな… 一応だ、証拠として

     『カタストロフィー』が起きた場所を教えてやるよ」

シテツ 「分かるんですか!」

モーノ 「ああ、エターナルフィールド1-1だ」

       場所と言ってもまさか住所だとはシテツは思っていなかった。

       さらに、彼が言った住所に彼女は心当たりがあった。

シテツ 「それって… ウチの住所じゃないですか!」

先 生 「そうだ。関係者以外立ち入り禁止の土地にほとぼりが冷めるまで全ての

     関係者をぶち込んじまえば誰も入れないって寸法だ」

       話を聞くだけだった先生が口を開いた。

先 生 「住んでて不思議に思わなかったか? 大都会イストシティのど真ん中に

     ドラゴン農場を開けるほどの土地があるなんて」

シテツ 「…… だとしても、何で私たちが」

モーノ 「俺も先輩とかからしか聞いてないが、お前等姉妹があの爆心地で唯一の

     生き残りらしい…」

       モーノは何気なく窓を見た。

       そこにはこちらを覗き込んでいる真っ白い顔が張り付いていた。

モーノ 「…! なっ、何だアレ!」

       驚き椅子から転げ落ちたモーノは窓を指差して叫んだ。

       彼の様子にシテツと先生も窓を見た。

先 生 「何だ… シャーマンじゃねえか」

シテツ 「ドレドさん、何やってんの……」

       しかし、二人とも窓に張り付いた顔の正体を知っていたらしく特に

       驚いた様子は見せず、むしろ呆れていた。

ドレド 「開けて! 開けて!」

       シテツは窓を開けドレドを中に入れた。

先 生 「おいチビ、何しに来た。薬はまだ頼んでねぇぞ」

ドレド 「薬売りだけがシャーマンの仕事じゃないよ!」

       ドレドが入ってくるなり彼女と先生は口論を始めた。

シテツ 「二人ともお知り合いですか?」

先 生 「ああ、たまにコイツから法律の外の薬を買ってる」

ドレド 「先生は予のお得意さんなの。そうそう、折角来たからサービスでゾンビ

     パウダー置いていくね」

先 生 「おう、置いていけ。ハーブやキノコも有るだけ貰うぞ」

       腰を抜かしていたモーノは怖がっていたのが自分だけだと分かると

       スッと立ち上がり、スーツの汚れをはたき落として何事もなかった

       ように再び椅子に座った。

モーノ 「で、そいつ何者なんだ? サラリとヤバい話してたけど…」

ドレド 「予はオガサーラのシャーマン、ドレド・ノト。今は世界の崩壊を防ぐ為

     の旅をしているんだよ」

シテツ 「そんなどっかの勇者みたいな事してんの…」

       ドレドは自己紹介を終えると椅子が無かったのでその場にドッカリ

       とあぐらをかいた。

ドレド 「ところで、窓の外で話は聞かせてもらったよ」

モーノ 「おいドクター、情報漏洩してんじゃねえか!」

先 生 「そりゃ、壁やら窓やらに耳当てれば聞こえんだろ。文句あんなら糸電話

     でも使うか?」

ドレド 「まあまあ、今回は予の盗聴スキルが上だったって事でいいでしょ。それ

     よりも、過去の話をするなら予に任せて」

       妙に自信満々な態度のドレドに他の三人は疑いの視線を送った。

先 生 「お前みたいなちびっ子に何を任せればいいんだ」

ドレド 「フフン、その子の過去を映像で見たくな~い?」

モーノ 「そんな事できんのか?」

ドレド 「予を信じるか信じないかは… あなた次第!」

       どこかで聞いた事ある台詞に三人とも嘘だと判断した。

先 生 「置く物置いたらとっとと帰れ!」

ドレド 「えっ、ちょ… ドレドちゃんやればできる子だから信じて!」

シテツ 「じゃあ、どうすればいいんですか?」

ドレド 「簡単だよ! 君は予とおでこを合せて、他の野郎供二人は予と手を繋ぐ

     だけ。ヨガより簡単で安全だよ!」

       妙な胡散臭さを感じながらも、シテツはドレドの前に正座をした。

シテツ 「お願いします」

ドレド 「よし、他の野郎供は?」

       舌打ちをしながら先生はドレドの右側に座った。

ドレド 「ちょ… 何で舌打ち…」

先 生 「気のせいだろ」

       モーノも舌打ちをしながらドレドの左側に座った。

ドレド 「だから何で舌打ち……」

モーノ 「空耳だろ」

       両サイドの二人に怯えながらドレドは目を閉じた。

ドレド 「じゃあ、野郎供は予の手を取って」

       二人とも舌打ちをしながらそれぞれの手を取った。

ドレド 「あの… ごめんなさい…」

シテツ 「私は?」

ドレド 「まずは心を落ち着かせて。深呼吸、深呼吸」

       シテツは言われるままに深呼吸を何度かした。

ドレド 「どう? 肩の力抜けたかな? そしたら目を閉じて、予のおでこと君の

     おでこを合せるんだ」

       シテツはこれも言われるままに目を閉じてドレドの額に自分の額を

       当てた。




-シテツの記憶-


       黒髪の少女二人が仲良く公園で遊んでいた。

シテツ (あれは… 私と… コク姉?)

ドレド (みたいだね… コクちゃんって髪黒かったんだ)


       場面は切り替わり、幼い頃の姉妹は夏の海辺で遊んでいた。

シテツ (…… やっぱり私なんだ)

ドレド (どういう事?)

シテツ (全然覚えてないけど、凄く懐かしい)

       その後も次々とスライドショーのように幼い頃の轍洞院姉妹が二人

       揃って何かをしている光景が流れていった。




-シテツの記憶・市街地-


       失われていた記憶が走馬燈のように駆け巡る中、あるシーンだけが

       ハッキリと蘇ってきた。


       真っ白く大きな入道雲が澄んだ青空に立ち上っていた爽やかな夏の

       陽気の中、小学校低学年くらいのシテツが1頭の蝶をひたすら追い

       かけていた。

       彼女が追っていた蝶はそこだけが空間が切り取られたように真っ黒

       だったが、日食のように翅の縁から神秘的な光を放っていた。

       その姿は過去を失っていた今のシテツの脳裏にも微かに焼き付いて

       いた。

シテツ (あの蝶…… 見た事ある……)

       幼いシテツは延々と飛び続ける蝶を魅入られたように追っていた。

       大人ばかりの人混みの中や自動車が行き交う交差点も優雅に飛ぶ蝶

       と共に通り抜けて木々が生い茂る深い藪の中へと入っていった。

シテツ (行っちゃダメ!)




-シテツの記憶・謎の施設-


       藪を抜け出したシテツの前には広い敷地内に無機質な機械ばかりが

       立ち並ぶ整然とした、それでいて不気味な景色が広がっていた。

       ほんの一瞬だけ、幼いシテツはその光景に目を奪われた。

       そして、その一瞬で蝶を見失った。

       蝶を見失い我に返った彼女は自分の居る場所に戸惑い、ただ怖くて

       大声で泣き出した。

幼シテツ「おねぇーちゃーん! おねぇーちゃーん!!」

       彼女は泣きながら何度も姉を呼び続けていた。

       すると、彼女が出てきた藪の中から後を追うように姉が現れた。

       泣き叫ぶシテツに姉はすぐ駆け寄り、彼女を強く抱きしめた。

幼コク 「目を瞑って!」

       姉は強い口調でシテツに言った、彼女は訳も分からないまま強く目

       を瞑った。

       しかし、それでも白く眩しかった感覚がシテツには残っていた。

シテツ (ああ… だからあの時白かったのか)

       シテツが姉に抱きしめられた直後、幼い轍洞院姉妹を白く眩い閃光

       が包み込んだ。




-シテツの記憶・病院-


       全てが真っ白くなった視界の中に徐々に色や形のあるものが戻って

       きた時、シテツは病院のベッドの上で横になっていた。

シテツ (この間の記憶は完全に無いんだ……)

       ベッドの上で目を覚ました幼い彼女は自分の隣のベッドにも誰かが

       寝ている事に気が付いた。

シテツ (隣は… えっ! コク姉……)

       隣のベッドに横になっていたのは、今まで見てきた記憶とは違った

       今と同じ白髪のコクテツだった。

       姉の髪が白く変わってしまった事に幼いシテツもショックを受けて

       いる様子だった。

       その時、部屋の扉が開き若い医師が幼いシテツの元へと歩み寄って

       いった。

シテツ (……! 嘘… でしょ……)

       外見は違えど彼女は雰囲気で悟った。シテツの手当をしていた医師

       は若い頃のイエロー・アンビュランス医師だったのだ。

       それが分かった瞬間、シテツの記憶の映像はブツリと途切れて深い

       闇に覆われた。




-クリニック・診察室(深夜)-


シテツ 「……!」

       のけぞるようにドレドから額を離したシテツは大きく目と口を開き

       激しく息切れを起こしていた。

       彼女が離れた事を悟ったドレドは目を開けて、握らせていた両手を

       振り払うとシテツを優しく抱きしめた。

ドレド 「よく頑張ったね… あんな記憶… 予も体験したこと無かったから最後

     まで乗り切れるか心配だったよ」

       耳元でドレドに労いの言葉を掛けられても、シテツは何も答えられ

       なかった。ただ、激しい呼吸に合わせて目から涙を流していた。

モーノ 「大丈夫か、凄く苦しそうだが」

先 生 「何かの発作を起こしてるな、鎮静剤を持ってくる」

ドレド 「待って! 大丈夫だから」

       ドレドはまるで赤子をあやすように優しくシテツの体を撫でたり、

       軽く揺すったりを繰り返した。

       すると、徐々に彼女の呼吸も落ち着いてきた。

ドレド 「大丈夫だよ。君は強いから、大丈夫」

       ドレドに優しくなだめられてハッキリと意識を取り戻したシテツは

       自分の頬を手で何度か軽く叩いた。

シテツ 「すみません… 何か、混乱しちゃって……」

ドレド 「あれで混乱しない方がおかしいよ。大丈夫、君はちゃんと君自身の所へ

     戻ってこれたんだから」

       シテツは記憶を見る前のように何度も深呼吸を繰り返した。

シテツ 「ふぅ… 先生、聞いていいですか」

先 生 「ん? 何だ」

シテツ 「私は何者なんですか」

先 生 「何者って… お前はお前だろ」

       シテツはとっさに先生に掴みかかった。

シテツ 「最後に居た医者、先生ですよね! 知ってるんでしょ! 私が誰か!」

       先生は荒ぶるシテツを軽く押し返した。

先 生 「ああ、確かに俺だ! だけどな、過去なんか知ってどうする! 教えた

     ところで、戻れるものなら戻ってみろ!」

       先生に怒鳴りつけられシテツは赤面してうつむいた。

シテツ 「(涙声)過去じゃない… 私が知りたいのは… 過去なんかじゃない…

     今の… これからの…… 私自身を……」

       必死に涙を堪えながら反論するシテツを見た先生の頭に上っていた

       血が引いていった。

先 生 「怒鳴って悪かった… 泣くなよ……」

シテツ 「(涙声)泣いて… なんか……」

先 生 「なら、そのまま泣くな。そんでな、悪いが俺が知ってるのは過去のお前

     だけだ。お前が知りたいヤツはお前自身が一番知っているだろ?」

シテツ 「(涙声)分かんないよ… 分かんないから、聞いてるのに……」

       泣く寸前のシテツの肩にドレドが腕を回してなだめた。

先 生 「分かんないなら、好きに書き換えちまえよ」

シテツ 「(涙声)書き換えるって… どうやって……」

先 生 「それは俺より、それを仕事にしてるヤツに聞いたらどうだ?」

       先生はチラリとモーノを見た。

モーノ 「そうだな…… 河と歴史は都合が良い所を流れる、って言うのが俺たち

     歴史操作官の考えだ。参考になったか?」

       シテツは黙って首を横に振った。

先 生 「お前、下手クソだな…」

モーノ 「いや、今のは無茶振りだろ! がら空きのゴール前なら自分でシュート

     打てよ、俺にパス出す必要無いだろ!」

ドレド 「それって、QBKって言いたいの?」

       二人に茶化されたモーノはふて腐れて黙り込んだ。

先 生 「まあ、アイツの言いたかった事を具体的にいうとだな。未曾有の人災に

     巻き込まれた悲劇のヒロインぶって生きるのか… 元気だけが取り柄の

     馬鹿な小娘として生きるのか… お前自身が好きな方を選べるんだぞ。

     って事だ、分かるか?」

       今度もシテツは黙ったままだったが、先程とは違い首は小さく縦に

       振った。

ドレド 「慌てなくていいからね、じっくり自分に聞いてごらん」

       シテツは黙って首を縦に振った。




-駅前のコンビニ・外(深夜)-


       クリニック帰りのハルがコンビニに立ち寄っていた。

ハ ル 「あっ! さっきのバカ!」

       彼は店の窓に貼られていたフランの指名手配ポスターを見て思わず

       声を上げた。

ハ ル 「って、んな訳無えよな… コイツだったら刑事の俺は間違いなく殺され

     てるから」

       ハルは笑いながら店内へと入っていった。




-セルリアン家屋敷・イーグルの部屋(深夜)-


       イーグルが丹念に銃の手入れをしていた。

A J 「へぇ… 流石ね、どれも良い状態じゃない」

       その裏ではAJが壁に飾られた銃を手に取っては眺めていた。

A J 「でもそれ、今やる事なの?」

イーグル「俺なりの気晴らしだ。この時間が一番落ち着くんだ」

A J 「一応聞いておくけど、一個人相手に軍は出さないでしょうね」

イーグル「俺が行く。それだけだ」

       AJは瞬時に銃を壁に向かって構えた。

A J 「それだけじゃない、今回は久々に私も出るわ」




-クリニック・診察室(深夜)-


       ドレドがシテツに寄り添い、先生とモーノは揃ってタバコを蒸かし

       ていた。

シテツ 「あのぉ…」

先 生 「おっ、決まったか!」

シテツ 「はい…… 私は元気で馬鹿な小娘、しーちゃんになりたいです!」

       先生はタバコを消してシテツに歩み寄って、少し乱暴に彼女の頭を

       撫でた。

先 生 「俺もそうなって欲しかった」

シテツ 「でも… どうすればなれるのかが… 分からないんです……」

先 生 「そりゃ、簡単だ。なぁ?」

       先生は立ち上がりモーノとドレドの顔を見回した。

先 生 「轍洞院コクテツの」

モーノ 「頭の」

ドレド 「ネジを」

       三人は揃ってシテツを見た。

シテツ 「…… 抜く?」

先 生 「そう、簡単だろ?」

       シテツははにかみながら大きくうなずいた。


       AJとイーグルはセルリアン家の威信のため。

       シテツ・先生・モーノ・ドレドは過去を封印するため。

       こうして、轍洞院コクテツ包囲網が敷かれていった。




                            〈第十二話へ続く〉

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