その8 後編 ~アレを超えた何か~



《対戦カード》


 ~決勝~


 ドレド・ノト VS ジャクリーン・ブラック




―コーラクガーデン ホール(夜)―


       お待たせいたしました、いよいよ決勝戦が始まります。


       一面が暗闇に包まれたコーラクガーデン・ホールを“霊人救急車”の

       パトライトの赤い光が駆け回ります。

       おおっ! ジャクリーン・ブラックがストレッチャーを押しながら

       入場してまいりました! 決勝の相手、ドレドをこれに乗せて病院

       送りにしてやろうというのでありましょうか!

       頂点まであと一歩、この過酷なオペレーションを無事に成功させる

       ことはできるのでしょうか!

       今、リングイン!


会場アナ「ご来場の皆様にお知らせします。決勝戦に出場予定でしたドレド・ノト

     選手が負傷のため欠場となります」

       えっ?

会場アナ「その為、決勝戦の対戦カードをドレド選手に代わりまして、本人推薦に

     より愚霊闘グレート 能登ノト選手がジャクリーン・ブラック選手の対戦相手となり

     ます」

       ええっ! 今、とんでもないことがアナウンスされました!

会場アナ「愚霊闘 能登、見 参 !」

       何と言うことだ! 能登がっ、能登が来たっ!

       当然、会場のお客さんもざわめきだっています!


       出たぁ! 真っ赤な忍装束に身を包んだ“悪霊の化身”がコーラク

       ガーデンに現れた!

       歓声と悲鳴が入り交じる中を能登が進んでいきます。

       今、リングに上がり頭巾に手を掛けた…

       あぁっ! 出たぁ! 漆黒の隈取りに浮かぶ狂気に満ちた目、地獄

       の炎のような深紅の顔、本物だ! 本物の愚霊闘 能登だ!


       まさか… 愚霊闘 能登選手が来るとは……

       今思えば… 今日のドレド選手の衣装も同じような格好でしたね。

       能登選手リスペクトだったのでしょうか…


       コーラクガーデン・ホールのお客さんはまだどよめいております…

       その中心ではJBと能登がただ静かに向かい合っております。


       JB選手… 急なカード変更、それも愚霊闘 能登選手との対戦に

       も全く動じている様子はありませんね。


       確かにそうですね。むしろ、引き締まった凜々しい表情ですね。

       おっと、能登がJBに近づいていって…

       ゆっくりと首を掻っ切る動きを見せつけた!


       能登選手の方は完全に臨戦態勢ですね。


       さて、試合前の取り決めが決まったようです。

       先攻はJB、最初の言葉は… 「最強」となりました!

J B 「ウルシオール」

       JBまずは「る」を取りに行く!


       能登選手を相手に様子を見ている余裕はないですね。


       おっと、能登がいきなりリングを降りた!

       リング下に潜り込んで… 何かを持って出てきた!

       何を持ってきたのでしょうか… 今リングに戻ってきて…

       あっ、あれはスケッチブックです! 能登はスケッチブックとペン

       を持ってきたぞ!

       スケッチブックに何か描いています…


       おっと、描いた絵をJBに見せつけてきたぞ!

       これは… 湯飲み? どうやら、お茶のようですね。

J B 「ティール」

       おっと、JBが言葉を発した!

       冨垣さん、これはどういう状況なのでしょうか?


       恐らく、能登選手が見せた先ほどの絵は「ルイボスティー」だった

       のではないでしょうか?

       能登選手は声を発する代わりに絵で言葉をJB選手に伝えているの

       だと思います。


       愚霊闘 能登は「絵しりとり」で戦っているということですか?


       はい、そう思います。


       何と言うことでありましょう!

       やはり、“悪霊の化身”には普通の戦い方は通用しないのか!

       おや、また能登が絵を描き終えましたね。

       今度は… 口紅ですね。

J B 「ジュール」

       どうやら「ルージュ」のようです。

       今度は… おっと、「現地報告」と文字だけが書かれています。

J B 「じゅ… ジュエル」

       JB苦しみながらも返した。

       しかし、能登の文字の意味は何だったのですか?


       恐らく「ルポルタージュ」の事だと思います。

       今のところは、能登選手はあえて「る」を返さずに拗音から攻めて

       いるようですね。


       なるほど!

       しかし、「現地報告」と書くよりも最初から「ルポルタージュ」と

       書けば良かったのでは?


       いいえ、それでは能登選手がわざわざ「絵しりとり」を用いた意味

       が無くなってしまいます。

       絵の意味を考えさせることにより、通常の返しより余計にスタミナ

       を使わせる事が狙いだと思いますので。


       「絵しりとり」がそんな目的だとは…

       どうやら書き終えたようです。

       今度は… 何だ… 刺身のようです……

J B 「…… べ… ベクトル」

       ああ、「ルイベ」か… JB選手の読解力は素晴らしいですね。


       驚異の読解力と語彙力を駆使して、暗号解読器よりも早く能登の絵

       を読み解いていきます、JB。

       今度の絵は… 「ルービックキューブ」ですね。


       いいえ、よく見てください。あの立方体は一面が4マスずつ、16

       マスあります。

J B 「ジグソーパズル」

       そう! あれは「ルービックリベンジ」です! JB選手マイナー

       な派生種をよく間違えませんでした。


       ここは能登の仕掛けた罠を冷静に回避しました。そして、そこから

       執拗に「る」の一点集中攻撃を続ける。

       さあ、能登はどう返す?

       おっと、ここでまた文字だ! しかし… これは何と書いてあるの

       でしょうか…

J B 「……」

       ここでJBの顔が曇ったぞ!


       恐らく、読み自体は「ルーン文字」だと思います。

       ただ、能登選手はJB選手がこの文字自体を読めると見込んで何か

       酷い文章を書いているのではないでしょうか?


       ドレドの『シャーマン殺法』のように精神的に攻撃をしてきている

       ということでしょうか?


       そうですね、恐らく今まで用いられたものとは比べものにならない

       くらい酷い言葉だと思います。

       レフリーに内容を解読されなければ反則を取られないので、かなり

       好き勝手書いていると思いますね。


       これはJBのショックも大きそうだ。

       おや、どうしたのでありましょうか? JBが能登に近づいて…

       おっと! 張り倒した! さすがのJBもキレたか!


       これはJB選手らしくありませんね…


       今、JBがレフリーに「ちょっと待て」と手を出して止めました。

       そして… 倒れている能登の足を腕で抱え込んだぞ!

       おおっ、そのまま能登の体をぶん回し始めた!

       1回… 2回… 3…手を放して投げ飛ばした!

       倒れている能登を追い返すように軽く手を払い、元の場所へ戻って

       いきました。


       なるほど、「ルーン文字」からの「ジャイアントスイング」という

       事ですね。感情的になりつつも、冷静にしりとりは続けています。


       もはや、言葉ではなく行動で自らの意思を見せつける。これが戦い

       としてのしりとりの姿であります。


       能登選手は今の攻撃で三半規管にダメージがあるのでかなり苦しい

       と思います。


       能登が頭を押さえながら起き上がる。

       フラフラの状態ながらもスケッチブックを手に取り一心不乱に描き

       殴っている。


       「絵しりとり」は描く時間を要するためタイムアップになる危険性

       が大きいですが、続けるみたいですね。


       さあ、時間が無いぞ!

       8… 9…

       見せ… うわ! 何だ、アレは! とても言葉では言い表せない…

       凄惨なものがスケッチブックの中にあります……

       何で、どうして、あの時間であんな絵が描けるんだ…


       今度は視覚的に不快感を煽ってきましたね… うぇっ……

J B 「クレゾール」

       おーっと! どうやらJBには全く効いていない様子だ。


       彼女はナースですからね、日頃から「グロテスク」な物は見慣れて

       いるのでしょう。

       これは能登選手のミスになりましたね。


       さあ、今度は何を描いてくるのか。

       おっと、先ほどの見るに堪えられない絵とは一変して爽やかな感じ

       がするサラダの絵を描いてきたぞ!

J B 「段ボール」

       これは普通に考えて「ルッコラのサラダ」でしょうね。


       さて、今度は…

       おっと、今見せた絵に描き足した! それを見せる!

J B 「ダンベル」

       「ルッコラのサラダ」に描き足した分「ルッコラと何かのサラダ」

       という別の物にしましたね。


       なるほど、確かに別の物ですね。

       能登はまたサラダの絵に何かを描き足しているそ!

       さあ、今度はルッコラの何サラダだっ!

J B 「だ…」

       おっと、JBの動きが止まってしまった!


       「る」で攻めても、無限に「ルッコラのサラダ」シリーズが帰って

       くることに心が折れ掛けていますね…

       意外と「だ」という濁点を絡めた言葉も出にくいですし… ここが

       正念場です。

J B 「ダイアル」

       おっと! それでもJBは「る」を続ける。


       ここで弱みを見せたら一気につけ込まれますからね、これでいいと

       思います。


       相変わらず能登はクックパッドのようにルッコラのサラダのレシピ

       を次々披露してくる!

J B 「ウミホタル」

       おっと、「だ」じゃない! JBが「だ」で続けないぞ!


       凄い! 「ルッコラのサラダ ○○風」という読みに変えてきた!

       これには能登選手も面食らっていますよ。


       さて、意表を突かれた能登は…

       また文字だ! 「試合結果」と書かれた上に「お前の負け」と振り

       仮名が振られているぞ!

       おおーっと! これにはJBが助走を付けて正面から能登の顔面を

       蹴っていった!


       「ルビ」に対して「ビッグブート」ですね! 暴言に対しては直接

       攻撃の流れを作って精神攻撃を牽制する狙いだと思います。


       なるほど! やられたらやり返すのは戦いの原則ですね。

       おっと、能登が素早く起き上がってJBに駆け寄る!

       あっ! 腕を取った! 能登が無防備だったJBの腕に組み付いて

       極めていく!


       「飛びつき腕ひしぎ十字固め」ですね!

       今のところはJB選手がギリギリで完全に極まらないように防御を

       していますが、これは危険です!


       腕が伸びきれば能登の勝利がグッと近づく所だが、JBも自分の腕

       を放さない!

       このサブミッション地獄を抜けられる…

       ああっ! 何ということだ! JBの頭にピンポイントでたらいが

       降ってきた!


       うわ… しりとり自体は継続されていたのでタイムアップを取られ

       ましたね。


       あぁ… 力が抜けたJBの腕が伸びてしまった!

       もはやここまでか!

J B 「めざし! 目刺し!」

       JB選手がしりとりを続けましたよ!

       これで能登選手は言葉を変えないといけません。


       しかし、能登は放さない!

       おタマレフリーが止めに入る!

       今、ようやく放しました。 おっと! 能登が居た場所にたらいが

       落ちてきた!


       能登選手は反則ギリギリまで極めていましたね。ただ、レフリーは

       もっと早く止めてもよかったと思います。

       JB選手は今の数秒でかなりのダメージを負ったと思いますね。


       かなり苦しそうな表情のJBは膝立ちのままで極められた腕を気に

       している。

       おおーっと! いきななり飛び込んできた能登がJBの側頭部を膝

       で撃ち抜いた!

       あぁ… JBの体が前のめりに崩れた!


       得意の「シャイニングウィザード」が出ましたね!

       これは決まってしまったかもしれません…


       このままカウントが…

       うわっ! 起きた、JBが起き上がった!

       そして、能登の背後に回って……


       おおっ! 「ドラゴンスープレックス」で返した!

       あれだけのダメージでよく投げられましたね!


       しかし、やられた能登もすぐに起き上がって倒れているJBの脚を

       無理矢理取ったぞ!

       ああっ、「ドラゴンスクリュー」だ! もう、しりとり関係無しで

       JBを痛めつける!


       かなり荒れてきましたね… しかも、今のは寝ている状態なので力

       を逃がしきれず脚に相当なダメージが入ったと思います。


       ああーっと! 能登に金だらいが当たった!

       怒り狂った能登がおタマレフリーに詰め寄る!


       ん? あ~、そうか… もしかしたら、能登選手は今のJB選手の

       攻撃を「ドラゴンスープレックスホールド」だと思って、ちゃんと

       「ど」で返したつもりだったんですね。


       なるほど! しかし、リング上では我々の推察など知らないおタマ

       レフリーと怒り狂った能登が揉めて…

       ああーっ! 能登がおタマレフリーの入った水槽を蹴り飛ばした!

       これはいけない! 水が無いとおタマレフリーが死んでしまう!

       今、ゴングが鳴らされました! レフリー暴行による愚霊闘 能登

       の反則負けのようです!


       こうなってしまっては、勝敗関係なくなった能登選手が何をするか

       分かりませんよ! 早く止めないと!


       うわ、それはダメだ! 能登がリングの上でピチピチと跳ねている

       おタマレフリーに追撃をしようとしている!

       あっ、JBが止めに入った! レフリーから能登を引き離し…

       ああーっ! 毒霧だっ! 能登が毒霧を吹きました!

       顔が緑色に染まったJBが苦悶の顔を浮かべています。

       おや、能登が…

       たらいを持っている! 能登がたらいで…

       ああーっ! …… 能登がたらいをJBに振り下ろした…

       JBを完全にKOした能登が緑色に染まった舌を出して笑いながら

       コーラクガーデン・ホールを見回しています!


       恐ろしい…

       愚霊闘 能登選手の残虐な面だけが出ていますね…


       おや、能登がJBを担ぎ上げて…

       あっ、JBが入場で持ってきたストレッチャーに運んでいきます!

       リングサイドに置かれたストレッチャーに能登がJBを乗せて… 

       固定ベルトを締めた! これではJBが逃げられない!

       能登はリングに戻り… いや、ロープに乗った!

       飛んだっ! 

       うわぁーっ! ストレッチャーの上のJBにケブラーダだっ! 

       酷い… 酷すぎる!


       あぁ… 美しい技なのに… こんな使い方……


       能登がストレッチャーに寝かされたJBに中指を立てましt…

       うわ、蹴った! ストレッチャーを蹴った!

       もう、もういいだろ! 誰かあの悪霊を止めてくれ!


       救護班が来ましたね、早くJB選手を!


       場内は騒然としております…

       あっ、どうやら能登は引き上げるようですね。

       戦慄に包まれたコーラクガーデン・ホール。今、その中心から“悪霊

       の化身”がゆっくりと去ってきます。


       と… とりあえずは平和になりましたね…

       あっ、JB選手が立ち上がりましたよ!


       な… 何ということでありましょう! 能登に襲われて瀕死のJB

       が再びリングへと向かっています!

       ああっ、膝から崩れた! 無理だ… もういい…

       もう終わったのに… 何故、立ち上がろうとするんだ!

       しかし、今… 這うようにリングへと戻っていった!


       お聞きください! この大歓声を!

       愚霊闘 能登が恐怖を見せたのなら… 

       我々は今、彼女の姿に希望を見ている!


       今、JB選手がマイクを要求したみたいですね。

       とても喋れる状態ではないと思うのですが…


       JBが今マイクを手に立ち上がった…

       彼女の声を、言葉をお聞きくださいっ!


J B 「(息切れ) 私がっ… 勝った!」

       (場内大歓声)

J B 「(息切れ) グレート・ノト… とんでもない相手だったわ… 正直、

     負けるかもしれなかった… でも! でも、今日は負けられない理由が

     あったから…」

       (JB苦しそうに膝に手を突く)

J B 「フラン! 見てる…? 私は… 強いでしょ? 貴方の… 期待に応え

     られるでしょ… だからっ! だから… 退院なんて…… 退院なんて

     絶対に考えないで!」

       (叫び終えたJB膝から崩れる)

J B 「(息切れ)今日は… 沢山のご声援ありがとうございました。ノト… 

     グレート・ノトには… 勝ちましたが、倒したとは思っていません…

     次… 次は… 完全に倒しますので… その時は、また皆様のご声援

     どうかよろしくお願いします!」

       (マイクを置いて、立ち上がり四方に礼をするJBに場内からは

        大歓声が送られる)


       いやぁ… 今日への覚悟が伝わった素晴らしいマイクでしたね。


       そうですね、今日の全試合を通して観てもJB選手の勝利への思い

       が他の選手達よりも突き抜けていたので、彼女が優勝できたのだと

       納得できるマイクパフォーマンスでした。

       それに、愚霊闘 能登選手との再戦を意識した最後の言葉はとても

       期待が高まりますね。


       はい、是非実現してほしいものです。

       JBや愚霊闘 能登だけでなくシナモン・ロウルやAJなど惜しく

       も敗れてしまった選手や、残念ながら負傷で決勝に出られなかった

       ドレド・ノトなど他にも楽しみな選手ばかりですから、次回開催も

       楽しみですね。


       え~、非常に残念ではありますが、まもなく放送時間が一杯となり

       ます。

       本日はここコーラクガーデン・ホールよりUWF第1回大会の模様

       を実況・ショーン・オールドマンと解説は冨垣 エヌさんでお伝え

       しました。

       それでは皆様、また次のしりとり中継でお会いしましょう。

       コーラクガーデン・ホールより失礼します。




―オガサーラ島・ドレドの家―


―― 翌日


       オガサーラ島の原生林に不似合いなレンガ造りの家。

       その前の僅かに開けたスペースにある切り株で作られたテーブルと

       椅子でお茶をしているドレドとティタニア。

ティタ 「昨日はお疲れ様」

ドレド 「優勝できなくてゴメンね。でもさ、負けた気がしない分、凄く悔しいん

     だよねぇ…」

ティタ 「優勝は別に良いけど… 最後はやり過ぎでしょ」

       呆れ顔のティタニアにドレドはキョトンとしていた。

ドレド 「やり過ぎって… 何を?」

ティタ 「試合が終わったのに、相手の人をあんなに痛めつける必要無いでしょ」

       ドレドは目を泳がせた。

ドレド 「… い… いやぁ、予はそんな事してないよ」

ティタ 「決勝でやったでしょ!」

       ドレドは首を大きく横に振った。

ドレド 「決勝戦は予じゃなくて、グレート・ノトが戦ってたんだよ! 別人だよ

     別人! あれは予じゃない!」

ティタ 「どう見てもペイント変えただけでしょ!」

ドレド 「あれは予の化身だから似てるかもしれないけど、予じゃないんだって!

     ドレドちゃんはあんな悪い子じゃない!」

ティタ 「ふ~ん…」

       ティタニアはドレドの顔を指差した。

ティタ 「顔に赤いの残ってるけど?」

ドレド 「えっ! 嘘、どこ!」

       慌てるドレドを見てティタニアは大きなため息をついた。

ティタ 「やっぱ、赤くしたんじゃん…」

ドレド 「あっ……」

       ティタニアに騙されたと気が付いたドレドはとっさに彼女から視線

       を逸らし口笛を吹き始めた。




―ハッピーイエロークリニック・入院室―


       入院着を着たJBが上体を起こしてベッドに入っていた。

       その横でフランが楽しそうに鼻歌混じりでリンゴを剥いていた。

フラン 「アハハ、いつもと逆だね」

J B 「そうね、貴方がすっかり元気になった証拠よ」

フラン 「アンタとセンセーのおかげだよ」

       フランはウサギ型に剥いたリンゴをJBに渡した。

J B 「あら… 意外と可愛いことできるのね」

       彼女の何気ない感想にフランははにかんだ。

フラン 「アンタがこういうの好きそうだから、やり方覚えたんだ」

J B 「私が?」

フラン 「昨日のカッコいいアンタじゃ想像できないけど、ワタシが見てるいつも

     のアンタなら… ね」

       JBはフランから少し顔を背けた、そして彼女に見られないように

       小さく微笑んだ。

J B 「よく見ているじゃない…」

フラン 「でしょ? だから、あんな死にかけで言わなくてもアンタが何を思って

     いるかなんて分かってたよ」

J B 「そう… なら、腕をやられた時点でタップすればよかったわね」

       JBは残念そうに額に手を当てて大きなため息をついた。

フラン 「それじゃつまんない!」

       彼女の言葉にJBは逸らしていた視線を戻した。

フラン 「強くて、キレイで、アタマのいいアンタだから一緒に居たいの。ワタシ

     を退院させたくなきゃさ… もっと、ワタシを楽しませてよ。もっと、

     もっと、も~っと… 美しくて危険なアンタを見せてよ、ヤバいアンタ

     でいてよ… 殺したくなるような最高のアンタでさ」

       言葉の内容とは裏腹にフランは無邪気な笑顔を見せた。

J B 「分かったわ… ただ、貴方も野放しにしていいなんて思わせないでね」

       笑顔を返し、JBはリンゴのウサギの頭を食いちぎった。




                       〈サブストーリーその8 終〉

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