第七話 ~ハート メカニズム~ ①
―大鐘高校・屋上(朝)―
夏休みに入って間もない頃。
誰も居ない校舎の屋上、フェンスの向こうに立つ
顔を冷たい地面に向けていた。
―カンパネルラ高校・校庭(朝)―
静かな校庭では怪訝な顔をしたシテツとマイク付きのヘッドホンを
つけたメイが上を見上げていた
シテツ 「で、何コレ」
メ イ 「SRM-01S レーガゴイル」
シテツ 「いや、名前言われても分かんない… コレは何をするモノなの」
二人は校庭のど真ん中に聳え立つアニメに出てきそうな人型の巨大
なロボットを見上げていた。
メ イ 「コレは人間界にあるスーパーロボットと言う物を再現してみたものなん
だけど、要は軍事兵器」
シテツ 「そんなの勝手に作っちゃダメでしょ!」
メ イ 「まだ試作段階だから大丈夫。それに、コレが実用可能なレベルなら防衛
軍にでも売れば最新兵器の情報は機密事項になるから、私たちが作った
事ももみ消せるよ」
メイがサラリと答えると、彼女はヘッドホンに手を当てた。
メ イ 「ハイ、こちらメイ。何か異常でもあったの? どうぞ」
シン声 「いいや、そんなんじゃなくてよぉ… 俺っちいつまでコイツに乗ってれ
ばええの?」
メ イ 「テストが終わるまで。あと、話の最後に「どうぞ」を付けて。どうぞ」
シン声 「はいよ… で、そのテストはいつ始まるん? どぉうぞ」
メ イ 「まだ相手が来ないから…」
コクテツ「お待たせー!」
メイがチラリと声の方に振り向くとコクテツが大きく手を振りなが
らこちらに走ってきた。
そして、その背後には吾郎丸の巨大な影が見えた。
メ イ 「今来た! どうぞ!」
シン声 「おっしゃ、とっとと終わらせるぜ!」
やる気に満ちた声がメイのヘッドホンから漏れると、レーガゴイル
はファイティングポーズを取った。
しかし、その後何分待っても吾郎丸の姿は少し大きくなるだけで彼
はなかなか校庭へとたどり着かなかった。
メ イ 「…… コクテツさん、吾郎丸さんこっちに来ていますよね」
コクテツ「うん、でもゴローさん陸地じゃ亀より遅いからあと30分は掛かるん
じゃないかな」
メ イ 「… シン、テストは30分後くらいに始めるから休憩してて。どうぞ」
シン声 「じゃ、一回降りてええか? どうぞ」
メ イ 「搭乗ステップの準備で30分掛かるから乗ってて。どうぞ」
シン声 「…… お前、俺っちが三日間もこの中に居るの知ってるよな」
―― 一時間後
構えを取るレーガゴイルの前で吾郎丸は腕(触手)を組み仁王立ち
をしていた。
シン声 「三日も待たせやがって! いてまうぞ、コラァ!」
殺気に満ちたシンの声と共にレーガゴイルは拳を大きく引いた。
メ イ 「ストップ! まずは機体の耐久テストだから攻撃はしないで。どうぞ」
殴りかかろうとした機体がピタリと止まった。
シン声 「んなもん、ドツキ合えばええやろ!」
メ イ 「…… ちょっと待ってて、吾郎丸さんサイドに交渉してみる」
困り顔のメイは吾郎丸の隣で心配そうな顔をしているティタニアの
元へ歩み寄った。
メ イ 「申し訳ありません、ウチのオペレーターがすぐに実戦テストを行いたい
と言っているのですが… いかがですか?」
ティタ 「えっ、いきなり実戦…… 吾郎丸さん大丈夫?」
ティタニアは不安にまみれた顔を吾郎丸に向けた。
吾郎丸 「ティタ、心配いりやーせんよ。ワシはそんために来たがかぇら」
ティタ 「うん… 分かった」
ティタニアはメイの顔を見た。
ティタ 「こちらは大丈夫です」
メ イ 「ありがとうございます」
吾郎丸 「二人とも、下がりおせ」
吾郎丸の独特の訛りに首をかしげるメイの手を引いてティタニアは
校舎の方へと走っていった。
コクテツ「私たちも逃げとこうか」
轍洞院姉妹も校舎の方へと走っていった。
―レーガゴイル・コクピット―
様々な機材が張り巡らされた操縦席は一人がやっと入り込める程度
の空間しか空いていなかった。
そこにVRゴーグルを被ったシンが窮屈そうに座り操縦桿を握って
いた。
メイ声 「ボクたちの退避は完了したよ。どうぞ」
シ ン 「ああ… 思いっきり暴れさせてもらうぜ」
シンの操縦桿を握る手に力が入った。
シ ン 「なぁ、メイ」
メイ声 「何?」
シ ン 「コレで終わるんだよな……」
小さくつぶやいたシンの呼吸が少しずつ深く大きくなっていった。
メイ声 「うん…」
彼女が一言答えた後、しばらくの間コクピット内には機器の音だけ
が鳴り響いていた。
シンは大きく息を吸い込んだ。
シ ン 「レーガゴイル出撃する!」
―カンパネルラ高校・校庭―
レーガゴイルが吾郎丸に飛び込み引いていた拳を振り抜いた。
吾郎丸も素早く反応した、身体を大きくひねり殻で拳を受け止める
と校庭を衝撃波が走り抜け校舎の窓が次々と割れていった。
コクテツ「うおぉ、カッケー!」
シテツ 「何言ってんの! ヤバいよコレ! 窓が、窓が…」
教室から校庭を見ていた轍洞院姉妹はそれぞれ真逆の反応をした。
その横で、メイとティタニアは共に固唾を呑んで戦いを見ていた。
吾郎丸 「なかぇかやりな、若いの… けんどな」
吾郎丸は素早く触手を伸ばしレーガゴイルの脚に巻き付けるとその
巨体を引き倒した。
吾郎丸 「戦い方が分かっちゃーせん!」
―レーガゴイル・コクピット―
機体が倒れた衝撃にシンは慌てていた。
シ ン 「何や、何が起きたんや」
メイ声 「避けて!」
突然入ったメイからの通信に彼は余計に混乱した。
シ ン 「メイ、俺っち今どうなってるん?」
メイ声 「脚を払われて倒されたの、上から来るから横に転がって!」
シ ン 「ああ、なるほどな。納得したぜ」
メイ声 「早く!」
切迫した通信にシンはとっさに操縦桿を動かした。
―カンパネルラ高校・校庭―
倒れたレーガゴイルはその巨体を素早く横に転がした。
その直後、機体の真横に殻に籠もった吾郎丸が高速回転をしながら
落ちてきた。
回転の勢いで校庭の地面を削り取った吾郎丸は殻に籠もったまま後
方に転がりレーガゴイルと距離を取った。
レーガゴイルは敵が離れた隙に立ち上がった。
メ イ 「シン聞こえる?」
シン声 「ああ、感度良好だぜ。どうぞ」
メ イ 「きっと相手は助走をつけて突っ込んでくると思うから、勢いを殺して。
どうぞ」
シン声 「了解、アレを使ってええか?どうぞ」
メ イ 「うん、許可する」
メイが許可をすると、レーガゴイルの両肩のハッチが開きそれぞれ
から三連装のミサイル発射管が現れた。
コクテツ「しーちゃん見て、アレ本物のミサイルだよ!」
シテツ 「ちょ! 学校でそんなの使わないでよ!」
シテツのツッコミもむなしくミサイルは吾郎丸に向け発射された。
ティタ 「吾郎丸さん、避けて!」
ティタニアの叫びが届いたのか、ただ一直線に転がっていた吾郎丸
は突如動き方を変え、細かく切り返しながら降り注ぐミサイルの雨
を避けていった。
シン声 「クソッ、避けられた! 他に有効な武器は無いんか」
メ イ 「左腕部速射砲を使って!」
シン声 「了解っ!」
大きく弧を描き戻ってきた吾郎丸にレーガゴイルは左腕を真っ直ぐ
向けた。その前腕から覗いた銃口が迫ってくる標的を捉えた。
そして、レーガゴイルの腕から無数の弾丸が発射された。
しかし、全て殻に弾かれその突進を止めることが出来なかった。
―レーガゴイル・コクピット―
シンは歯を食いしばりながら操縦桿のトリガーを引き続けていた。
シ ン 「止まれ、止まれ、止まれぇ!」
猛然と迫り来る吾郎丸に対して叫びながら砲撃を続けていたシンの
指が一瞬トリガーからパッと離れた。彼はすぐに何度もトリガーを
カチカチと引いた。
シ ン 「クソッ、弾切れや!」
メイ声 「了解、ここは一度守備に専念して」
シ ン 「せやな、了解」
トリガーから指を放したシンの脳裏にここまでの戦いの光景が断片
的に浮かび上がった。
シ ン 「…… やっぱ無しや」
メイ声 「えっ? どういう事」
シ ン 「俺っちはミサイルを連続で避けられないと思う。つまり、避けても結局
おっつけられる」
メイ声 「でもどうするの!」
シンは操縦桿から手を放し手元のボタンを押した。
シ ン 「アンカースパイク起動!」
メイ声 「何してるの! そんなことしたら動けなくなる」
慌てた様子のメイの声にシンはニヤリと笑った。
シ ン 「それでええねん。止めたる、アイツを受け止めたる」
メイ声 「そんな… 無茶だよ!」
シ ン 「まあ、俺っちとレーガゴイルに任せろって」
彼の声にメイは何も答えられなかった
シ ン 「任せられないなら、信じろ」
メイ声 「…… うん、分かったよ!」
―カンパネルラ高校・校庭―
足の裏からスパイクを地面に突き刺したレーガゴイルは腰を深く落
として吾郎丸を受け止める体勢になった。
ティタ 「止める気なの…」
ティタニアは手を組み祈るように戦況を見ていた。
シテツ 「コレ絶対危ない、みんな避難して!」
シテツの呼びかけには誰も答えず、彼女以外の三人は立ったまま窓
の外を見ていた。
シテツ 「また衝撃が来るよ! 早く!」
コクテツ「何言ってんの、ココが最大の山場だから見ないと」
メ イ 「ボクはこの戦いを最後まで見届けないといけないんだ」
ティタ 「あたしも吾郎丸さんを一人にできないから」
吾郎丸がレーガゴイルに激突した。
一瞬で最初に校舎の窓を吹き飛ばした以上の衝撃が辺りを襲った。
吹き抜けた衝撃波はシテツと教室中の机を吹き飛ばしたが、窓の前
の三人はしっかりと立って戦況を見ていた。
コクテツ「凄い…… コレお金取れるよ…」
目の前の光景をショーとして感激をしているコクテツの両隣でメイ
とティタニアは力の籠もった目で戦いを見ていた。
ティタ 「行けぇ!」 メイ「止めて!」
二人は同時に感情のまま叫んだ。
転がり抜けようとする吾郎丸、受け止めようとするレーガゴイル。
両者の間には大量の白煙が立ち上っていた。
徐々に押されたレーガゴイルの体勢が崩れ始めた。
ティタ 「もう少し… 頑張って!」
ティタニアは祈るように手を組みながら声援を送った。
メ イ 「止めて! お願い、止めて!」
メイが窓から身を乗り出しながら叫ぶとレーガゴイルは体勢を立て
直した。
そして、両者の間に立ちこめていた煙が徐々に消えていくと吾郎丸
の回転も止まり始めた。
ティタ 「そんな… 吾郎丸さんが……」
愕然とするティタニアの前でレーガゴイルは回転が止まった吾郎丸
を持ち上げ、地面に叩き付けた。
メ イ 「やった… いける!」
―レーガゴイル・コクピット―
コクピット内ではシンが息を切らせていた。
メイ声 「チャンスだよ!」
シ ン 「分かってる… ちょっと休ませてくれ」
メイ声 「ダメ! 勝ってから休んで」
彼女の指示にシンは深いため息をついた。
シ ン 「はい、了解… 必殺技は使えるんだよな」
メイ声 「うん。この地区一体が停電になるけど、時間的に大丈夫だと思う」
シ ン 「了解、電気代はメイ持ちな」
一言付け加えてシンは一方的に無線を切った。
―カンパネルラ高校・校庭―
レーガゴイルは右手で堅く拳を作り、倒れたままの吾郎丸に向け弓
を引くように大きく引いた。
その拳が徐々に赤くなり、さらに白へと色が変わり、そして青く輝
きだした。
コクテツ「あの手どうなってんの?」
メ イ 「電熱線の応用です。機体の電力供給を右手パーツへと一点に集中させる
事により電気抵抗で高温状態を作りだし攻撃対象を溶解しながら物理的
攻撃を加える仕組みです。青く輝いているのは非常に高温だからです」
コクテツ「… よく分かんないけど吾郎丸さんでもヤバそう」
メ イ 「はい、非常に強力なのですが… 電力の消費と発動までの時間が掛かる
ので、絶対に仕留められるときの必殺技としての使用しかできません」
コクテツ「へぇ、必殺技とかカッコいいじゃん! 名前とかあるの?」
メ イ 「一応…」
メイはチラリとレーガゴイルを見た。その拳は青く眩しい光を放ち
続けていた。それを見て彼女は小さく咳払いをした。
メ イ 「ジオ・メルターッ!!」
メイが大きく技名を叫ぶとレーガゴイルは体を大きくひねりさらに
拳を引いた。
ティタ 「やめてっ!」
ティタニアが叫びながら窓から身を乗り出すと、レーガゴイルの体
がピタリと止まり大きく引かれた拳も輝きを失った。
メ イ 「シン? どうしたの?」
メイがレーガゴイル内のシンに呼びかけたが、返事は来なかった。
メ イ 「シン、聞こえる? シン、応答して!」
何度呼びかけても返事が来ない事が不安になったメイは思わず教室
を飛び出した。
コクテツ「メイちゃん、さすがに外は危ないよ!」
コクテツは慌ててメイの後を追っていった。
吾郎丸は殻から体を出し、完全に静止したレーガゴイルを見ながら
ゆっくりと起き上がった。
吾郎丸 「情けか、舐めよって… ほんなら本気でやるがでよ」
吾郎丸の目が鋭くなった。
―カンパネルラ高校・昇降口―
廊下を走っていたメイは急に立ち止まった。
コクテツ「メイちゃん、戻ろう」
コクテツが追いつくと彼女はコンセントから抜けたプラグをじっと
見ていた。
コクテツ「どうしたの?」
メ イ 「コレ… レーガゴイルのプラグなんです…」
コクテツ「えっ! アレってコンセント必要なの!」
メイは黙ってうなずいた。
コクテツ「それって… なかなか致命的な問題だね」
メ イ 「やっぱり、そうですよね…」
メイは静かにプラグをコンセントに差した。
メ イ 「テストは中止にします。まずはこの問題を解決しないと」
肩を落とした彼女は外に向かって歩き出した。
―カンパネルラ高校・校庭―
トボトボとメイが校舎から出てきた。
メ イ 「テストは中…… やめて! やめて! やめてよっ!」
彼女の目の前には吾郎丸から無数の触手によるラッシュ攻撃を受け
続けているレーガゴイルの姿があった。
泣き叫ぶメイに気がついた吾郎丸は攻撃を止めた。
吾郎丸 「もうえいが?」
メ イ 「はい… もう… いいです……」
メイは一言絞り出すと、大破したレーガゴイルを前に号泣した。
シン声 「高校生だろ、泣くなよ」
メ イ 「(涙声)でも… こんな……」
シン声 「こんな結果やけど、俺っちは降りられるから嬉しいぜ」
第七話 ② へ続く…
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