第7話

ミーシャは、ほとんど毎晩来た。自分の飼い主がいなくなることには全く無頓着だった。キララさんが置いて行ったキャットフードを手に取ると、いつも足下にいた。一口が小さいミーシャは、クッキーのような食べ物を一粒ずつ食べる。奥歯で小気味良い乾いた音を立てて、砕いて食べる。そして噛むときに目を細める。

まだ子猫の面影が残るミーシャは、何にでも良くじゃれた。ハンカチや新聞を縛るために買ったビニール紐をちらつかせると、姿勢を低くし、狩りの体勢に入る。ミーシャから消えるように引っ張ると、耐えていたゴムが放たれたように飛びついてくる。

飛びついた先には何もなく、僕が大きな顔を近づけて「バァ」と言うと、何事も無かったかのように元の場所に戻って行く。顔はポーカーフェイスなのだが、しっぽを真っ直ぐ上に伸ばし、また何かが出て来るのを待っている。僕も兄もミーシャのように、本能に忠実に生きることができたらいいのに。ミーシャを抱いて頭を撫でてやった。ミーシャは僕の腕を擦り抜けて、自由気ままに移動する。でも、ミーシャはもっと自由な世界を知らない。だから、自分が不自由だとは思っていない。ただ、その時、自分のいたい場所にいる。食べたい時に食べる。汚したくないものは汚さないし、そうじゃないものは汚して知らん顔をする。カマキリを採ることも知らない。民家の塀の上を歩く爽快感も知らない。屋根の上で、他の猫と出会う緊張感も知らない。でも、きっと不満はないだろう。もっと刺激的な世界を知らないから、自由になりたいとも思っていない。

ミーシャも、もっと自由な世界を知ったら、もうこの部屋に興味を持たなくなってしまうのだろうか?僕や兄のことも忘れてしまうのだろうか?自由気ままなのに部屋の中しか知らないミーシャと、どこへでも行けるのに、ここに留まり心のうちに引きこもる兄。どちらも不満を持つこともなく生きていることが、僕には不思議だった。

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